田島 幸四郎
しばらく毎日更新します
いかん! 異星文明のオーバーテクノロジーに自由に触れられるって豪華特典で完全にトリップしてしまった!
今は雇用主の実質トップとの面接中だと言うことを完全に忘れていた、現実に戻らねば。
「それで私は神聖ミリオネル王国の叡智を使い何をすればよろしいのですか?」
「当面はメインコンピュータのメモリに蓄えられたデータの解析と生体、遺伝子工学の設備の復旧。それを進めつつ出来る物からでよいので技術の再現、実用化、発展系などの研究を頼む」
「地球征服に役立つ物を優先しましか?」
「その辺は未だ検討中である。いずれ王国復興をせねばならぬが、具体的に武力か文化か政治的に侵略するかは決まっておらぬ。当面は我が国の科学文明の復興に尽力してもらいたい」
つまりしばらくは、ここの設備を使って好きなように研究して良いってことだよな。俺としては食料の配給だけ有れば、タダ働きで不眠不休でもいいくらいだ。
「では、貴方には生体、遺伝子工学に対する全権を委任します。詳しい事はこちらにいる田島 幸四郎に聞いて下さい、彼がこの組織に於ける地球人の総責任者ですので」
このおっさんが直属の上司ってことか、服装といい出で立ちといい軍人臭い。歳は50代に入ったくらいかな? 白髪混じりの角刈りにシワを刻んだ顔、筋骨隆々だが落ち着いており歴戦の勇士って感じだ、自衛隊か傭兵だったのかな?
「それでは詳しい話は幸四郎に聞くが良い。我らに対する貢献、忠誠が認められれば皇太子殿下に謁見する事も考えよう」
そう言うとルークとスカーレットは空間跳躍で去って行った。
「さてと、ここで地球人の指揮官を勤める田島 幸四郎だ。地球人同士の敬語は不要だ、呼び名も姓は抜きでいい。よろしくな、真人」
なかなかフランクな組織のようだ、幸四郎さんも厳つい軍人みたいな容貌だけど好感がもてそうな人だ。
「こちらこそよろしくお願いします幸四郎さん。右も左も分からないもので色々と教えて下さい」
学会では傍若無人な俺だったが、年長者で好感の持てる幸四郎さんには自然に敬語が出ていた。
「思ったより礼儀正しいんだな、もっとマッドサイエンティスト然した感じだと思ったんだが……まずはこの組織のことを地球人目線で説明したいんだが、価値観や常識をひっくり返す覚悟をしてくれ」
「異星人と関わるなら地球の常識が通用しないのは折り込み済みですよ、それよりも俺が任された施設を早くみたいんですけど」
「まあ焦るな、施設は今日子が起きるのを待ってくれ。三日三晩不眠不休で働いてたんだ。休めと言ってもぶっ倒れるまでコンピューターにかかり切りで飯も食わないでよくやるよ。設備が使えるようになったらお前もそうなるんだろうな」
絶対そうなる自信があるな。話から想像すると今日子って女は情報技術の専門家なんだろう。異星の技術に接してテンションがMAXで寝る時間も惜しいんだろうな。
「これから俺が地球人の感覚でルークユニコーン様の話を捕捉するから、よく聞いてくれ。まずルーク様の言っていた戦争だが何の戦争だと思う?」
「あちこちって言ってたから中東地域の紛争かな?」
幸四郎さんは大きく首を横に振って言う。
「第二次世界大戦だ、ギャラクティカダーク号は1942年6月6日ミッドウェー海戦の真っ最中にミッドウェー島とハワイ諸島の間の海域に着水。戦闘区域に近いと判断した船長はそのままギャラクティカダーク号を海底に隠したんだ」
え!? そんなに前から地球に来てたの!?
「そして戦闘が終結した頃、潜行していた海域の水面に半死半生の兵士を見つけて情報収集のために、この船で保護した。それがこの俺、大日本帝国海軍第一機動部隊第二航空戦隊航空母艦飛竜所属、田島 幸四郎中尉だ」
ちょっと待て! 理論的思考が売りの俺の頭が追いつかない! 今までの経緯から考えて嘘である可能性は極めて低い。このオッさんいったい何歳なんだよ!
「やっぱり驚いているな。ちなみに大正2年、西暦で1913年生まれだ、戸籍上はミッドウェー海戦で戦死した事になっている」
「え!? 106歳? どう見ても50いくかどうか……」
「ギャラクティカダークに保護された俺は四肢が破損し両目は潰れて本当に死にかけていたらしい。目が覚めた時は医療カプセルの培養液の中だった、五体満足の状態でな」
四肢の破損と失明。内臓のダメージや失血もあっただろう、それを培養液式の医療カプセルで完全再生するとは……施設を見るのが楽しみだ。
「ところが異星人用のシステムだったせいか老化がゆっくりになってな、鍛えているせいもあって身体はいたって元気なんだ」
そのシステムを解析したら人体強化や不老長寿も可能かもしれないな。出門 今日子! 早く起きろ!
それからルークユニコーンに地球の情報を提供し、機能回復のリハビリをしながらミリオネル王国の文化を学び、艦載機である航宙機能付きステルス偵察機の操縦をマスターしたのは1945年の9月だったという。
「家族はいなかったんですか?」
「妻と息子と娘がいたが、俺の家は広島市でな……原爆死没者名簿に3人とも名前があったよ」
自身も戦死扱いになっていて帰る場所の無くなった幸四郎さんはミリオネル王国のために、ステルス機で世界中を飛び回り情報収支に明け暮れた。その献身が認められて男爵の地位を与えられたという。
「だがギャラクティカダーク号の施設は専門家がいない為休眠しているものが多いので技師や科学者が必要だったんだ。そんな時に今日子と出会えたのは俺達にとって幸運だったよ」
1年前に出門 今日子がここに来てから眠っていたシステムを使うことが出来るようになり、新たな地球人スタッフを入れて本格的に活動を開始したということだ。
「77年間ひたすら情報収集ですか!? どんだけ慎重なんだ?」
「真人よ、今までの神聖ミリオネル王国滅亡から今日に至るまでの過程で何か気付かないか?」
……420万年の歴史……5200年前の戦争そして地球までの5000年の旅……まさか……
「コールドスリープとかで地球に来たんじゃ……無さそうですね」
「そうだ、彼らは寿命が非常に長い、ルーク様が2万8千歳、スカーレット様が2万6千歳だ。平均寿命は8万歳を超える、だから彼らは非常に気が長い」
確かに、単純計算では彼らの感覚だと5000年は半年で77年は数日だろう。
「つまり、信じられないくらい長いスパンで物事を考える!」
「その通り! 皇太子殿下はまだ1万歳、婚約者は9千歳。地球文明への介入は数千年から1、2万年単位で考えているんだ」
待っていたら勝手に地球人滅びないか?
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