みんなの身辺整理
「いや、みんな固まってるけど死んだ方にした方が都合いいと思ってな、浩二の時もクローン死体作っただろ?」
幸四郎さんが真っ先に金縛りから解ける。
「まあ確かにそうだが浩二の場合は元々行方不明だったし、辻褄合わせが簡単だったからな。今はまだ目立ちたくないから出来るだけ不自然じゃないようにしたいんだが……」
清志が何かを思いついたようでニヤリと笑う。
「ちょっと待ってくれ、メインコンピュータにアクセスして工学プラントを起動していいか? そして真人、今日子、現段階でお前たちが出来ることを教えてくれ」
「そのイタズラを思いついたみたいな顔だと何か面白い考えがあるんだな?」
「何か世間がビックリするような事? それなら何枚でもかませてもらうよ」
その後、すぐに工業プラントを稼働状態にして清志の身辺整理計画について3人で話し合った。悪巧みに花を咲かせていたが視界が赤くなったので続きは明日だ。もちろん清志にも疲労が溜まると視界が赤くなる処置をしてある。
概要と基本方針は出来上がったから決行の日が楽しみだ……。
「情報ニュースワイドGASEの時間です。本日のトップニュースは3日前に起こった国立K大学工学部爆発事故の続報です」
とりあえず清志を死んだ事にする工作を終えた俺たちは世間に与えた影響を知りたいので焼肉をしながら夕方のニュースを見ている。
「調べによりますと次世代型水素エンジンの開発を急いだヨコタ自動車工業がK大学工学部の朱千堂学部長に圧力をかけ、松戸 清志教授が危険だと指摘していた実験を強行したのが原因と思われます」
ヨコタ自動車の会長と朱千堂学部長が癲癇を起こしそうなフラッシュの中深々と頭を下げている。
「アイツらの説明、言い訳にもなっとらんなあ。その設計じゃ無理に決まってるって何度言ってもボンクラエンジニアの美味しい話を真に受けて共同で実験やるって聞かねえからやらしてやっただけなんだがな」
清志が骨付カルビの骨をしゃぶりながらダメ出しをする。ヨコタ自動車工業は電気自動車で海外メーカーに大きく水を開けられた為、水素エンジンで起死回生を狙って焦っていたらしい。
清志は工業プラントを稼働状態にすると空間跳躍装置の改良と携帯用バリアーの開発をあっと言う間に済まして、ヨコタ自動車工業のアホな会長と金と出世が何よりも好きな朱千堂学部長を失脚させる作戦を立てたんだ。
水素エンジンの実験中にエンジンが危険水準になり、清志が全員を救出した後大爆発が起こり犠牲になる計画だ。もちろん清志はバリアーで防御してクローン死体と入れ替わっている。
「モグモグ、でもキヨピー結構回りくどいやり方だねぇ失脚させるより消しちゃえば良かったのに、モグモグ」
「メインは俺が死んだ事にする事だからな。手柄を焦った無茶な実験の犠牲で死ぬって良くないか? どうせ俺に家族はいないし今までの生活に未練も無いから自分の葬式にも行ってやったぜ」
清志の家族は彼が大学生の時、震災で実家が倒壊し全員亡くなったらしい。清志は大学に通う為下宿に入っていたので助かったそうだ、独身で親戚とも疎遠だから死んだ事にしても問題は無いそうだ。
「研究棟が全壊する大事故でしたが松戸教授の命がけの処置により人的被害は彼一人でした。K大学では学生による大学の体制と企業文化の在り方対する抗議集会が起きています」
様々なプラカードや横断幕を掲げて声高らかに大学や企業を批判する学生が映し出される。こういう連中は正直言って大っ嫌いだ。
「本日の午後1時に事故の犠牲となった松戸教授の告別式が行われました、その様子をご覧ください」
画面の隅にVサインをしている変装した清志が映っている。自分の葬式なのに不謹慎だな。いや、自分の葬式だからいいのか? もう分からん。
告別式に参加している学生や教員は本気で清志の不幸を悲しんでいるのが分かる。けっこう慕われてたんだな。
「いやあ、俺って思ったより慕われてたんだなぁ。今さらだけど学生達には悪かったと思うよ」
清志はビールを飲み干してしみじみと言った。画面には見るからにオタクな男女のグループが号泣しているのが映っていた。棺に少女のフィギュアや魔法少女モノの漫画やDVDを入れていた。
「ローリングイノセンスのみんなだ、部長の大滝なんか去年3日前から並んで買った「撲殺天使ナッコちゃん」の限定フィギュアを棺に入れてくれたんだぜ。本当に申し訳なくてな……」
価値観が全く分からんが清志が慕われているという事だけはよく分かった。
とりあえず今の時点で死んだ事になってるのは幸四郎さん、清志、浩二か。忍者4人は元々隠れ里の人間で世間との接点ないけど他の人間は宙ぶらりんだな、ちゃんと相談するか。
ん? あれっ⁉︎……遠火でじっくり焼いてた俺のハラミとロースが無い!
「モグモグ、そこのやつなら焼けてたから食べたよ」
「今日子ぉぉぉぉ! こればかりは許さん!」
「また焼けばいいじゃん!」
「俺は弱火でじっくり焼いたのが好きなんだよ!」
俺と今日子が言い合いをしているとイーマ様てミレ姫の声がした。
「2人は本当に仲が良いね」
「仲良しで羨ましいですわ」
羊みたいな角を生やした執事と牛みたいな角を生やした巨乳の侍女が次々と焼く色々な部位の肉を2人はひょいパクひょいパクと食べていく。
その後もみんなで騒いだり話をしながら焼肉を食べる。
俺はここでの生活が好きになってるのかもしれない。
翌日、みんなで今後の方針と身辺整理について話し合うことになった。
とりあえず元ベンチャー企業の経営者だった堀江くんはフロントカンパニーの社長として戸籍を残すことにした。
健康食品の会社と工場を立ち上げて、そこを拠点に地上に出て活動を始める方針だ。
元ジャーナリストの堀内さんはヤバイネタに手を出して命を狙われてたと聞いていたが。偶然狙っていた連中がターチの腹に入ったので心配は無くなった。フロント企業の社員として戸籍は残すらしい。
俺もその企業の研究員として戸籍は残すことにした。
一応この3人は日本国籍を残して、後は死んだことにして偽名を使ったりする事にした。深くは聞かないが生きているとなると何か都合が悪いらしい。リアルな死体を用意しとこう、自殺バージョンと事故死バージョンだ。
そして最後にややこしい奴が残った……今日子だ。
「とりあえず僕は宇宙人に拉致られた事になってるんだよね」
「CIAの目の前で偵察機で回収したからなあ」
現場にいたと言うか当事者の今日子と幸四郎さんが腕を組んで唸っている。
「宇宙人に攫われたのを知ってるのはCIAだけか?」
清志がに何か考えがあるのかな?
「後はモサドくらいかな」
「じゃあクローン死体の内臓とか抜き取ってCIAの本部の近くにでも置いといたらどうだ?」
「「「それだぁぁぁぁぁ!!」」」
早速、今日子のクローン死体を作って処理をする。臓器と中枢神経を抜いてあとはCIA本部近くに捨てるだけだ。
「なんか寂しいから昨日食べたタクアンのヒゲでも入れとくね」
はっ? 正直言って今日子のセンスはよく分からん。とりあえず処理したクローン死体をCIA本部近くに捨てといた。
さてと後は色々準備してギャラクティカダーク本格始動に備えないとな。
次回別目線の三人称です。