ミリオール37世の遺言と違和感
今日子の瞳孔が開き淡く光っている、メインコンピュータにアクセスしている姿だ。知らない文系スタッフ達は何が起きているか分からず困惑している。せっかくだから軽く説明しておくか。
「今、今日子はメインコンピュータと直接アクセスして映像機器の操作をしているんだ。バイオプラントが使えるようになって中枢神経を端末化する技術を実用化する技術を手に入れたんだ。他にもメリットが多いから時間のある時にAー145ファイルの資料に目を通しておいてくれ」
文系スタッフのみんなが肯いたタイミングで、今日子の用意ができたようだ。
「じゃあみんな、動画再生するからよく見ておいてね」
静寂に包まれた大会議室の照明が落ちて立体映像が再生される。照明を落としたりノイズが出るのは今日子の演出だな。ミリオネル王国の技術だとワザワザ出さない限りノイズは出ないし照明を落とす必要も無い。
映像に現れたのは碧い髪と瞳をした美しい男性だった、イーマブルク殿下が成長すればこんな感じになると思われる超美形で威厳と貫禄そして気品に満ち溢れた人物はただ1人だろう。
「我が名は神聖ミリオネル王国国王ミリオール37世。だが、このメッセージを其方が見ているという事はヘルクレス座球状星団広域文明は滅んだということだな」
「父上!」
「「「「陛下!」」」」
5人が声を揃えて驚く。やっぱりな、おそらく覚悟を決めた時に残した最後のメッセージだろう。
「願わくばこのメッセージは我が子であるイーマブルクに届いてもらいたいのだが、この船が流れ着い先の知的生命体が見ているのであっても私の話を聞いて欲しい。この宇宙に命と文明を絶やさぬために」
幸四郎さんがいつに無く真剣な表情で聞き入っている。やっぱり太平洋戦争を戦って波乱の人生を歩んだ彼は覚悟を決めた男に対して思う所があるのだろう。
「我が祖国を始めとする文明は滅んだ、いや余が滅ぼした経緯に関してはこの船のメモリーに記録されているので割愛させてもらう」
みんながミリオール陛下の言葉に聞き入っているが俺は少しだけ違和感を感じていた。
「500万年の歴史を持つ我等が文明が滅んだが命が滅んだわけでは無い。シビリゼーションイレーザーは人工物を塵に還すが生命には無害な物だ、使用に踏み切ったのは命が滅ぶ危険性が高まったからだ」
今日子が聞きながら口の中に飴を放り込んでいた、相変わらずマイペースだなこいつは。
「我等全ての知的生命体は繁栄を求める、その為に知識を蓄え、技術を磨き、文明を築いていく。やがて争いが起き、敵に勝つために技術が飛躍的に進歩してやがて大量破壊兵器に行き着く」
幸四郎さんが腕を組んで頷いている。
「宇宙に最初の文明が現れて15億年、繁栄しては滅びを繰り返す知的生命体と数々の文明。心ある者たちはそのサイクルを止めるべく知恵を絞り努力を怠らなかった」
宇宙規模で見ると最初の文明は15億年前に現れたのか、地球では多細胞生物が出現する数億年前の出来事だ、気が遠くなるな。
「先人の様々な知恵、失敗の歴史……ある者は完全に支配すれば解決すると考えたが内部の反発、反乱で崩壊。またある者は全てを平等にすれば良いと考えた、しかし個々が自らの意思を持つ知的生命体には不可能ですぐに崩壊してしまった。群体で思考を共有する生命体での成功例はあるがごく一部だ」
文系スタッフ達を見ると涙を流し、完全に入り込んでいる。ルーク様やスカーレット様もだ。
「自由競争社会が一番長持ちしたが滅びを止める事が出来ず、文明の遺産が残り生命が滅んだ。科学者でもあった我が父ミリオール36世は文明が生命体を滅ぼしかけた時、命を守るために文明破壊装置であるシビリゼーションイレーザーを開発した」
違和感の正体が分かった! 俺はここにいる全員の生体情報をスキャンすると同時に今日子に思考を送る。
「「どうしたの? 真人さん、もしかしてこの変な感じの正体? 一人でメッセージ見てた時は分からなかったけど何か変なんだよね」」
「今日子、メインコンピュータからミリオネル王国の王族代々の生体情報とソウルウェーブについての研究データを検索して俺に送ってくれ」
「「はいは〜い、今すぐやるね〜」」
国王の最後のメッセージを完全に入り込んで聞いている全員をスキャンする。驚いたことに、いないと思っていた地球人の諜報員が部屋の隅に4人いた。
バックヤードに船長と機関士、執事と次女も控えている。つまりギャラクティカダークの関係者全てがここに集合していることになる。データを取るにはちょうどいい。
「「ま、真人さん!これって……」」
あっ、今日子と思考が繋がっているんだった。まあいいや、そのほうが手っ取り早いし。
「「なるほどねー、今完全に正気なのは僕たち2人と幸四郎さん、皇太子殿下だけなんだね」」
もうすぐ遺言も終わるな、メッセージが終わったら小休憩を入れてもらって幸四郎さんに相談だ。
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