ヘルクレス座球状星団広域星間文明崩壊
イーマブルク皇太子殿下とミレーニァ姫様が俺たち3人に頭を下げて数秒間の沈黙が過ぎ、最初に口を開いたのは幸四郎さんだった。
「殿下、姫様、どうか御尊顔をお上げくださいませ。我々のような者に頭を下げるなど神聖ミリオネル王国の皇太子たる殿下がなさってはなりません」
イーマブルク殿下は凛とした表情で顔を上げ、幸四郎さんに近づいて首を横に振った。
「コーシローよ、そのような国はもう無いのだ。余は飛び立つギャラクティカダーク号の中で父上、母上、家臣達、そして多くの臣民達の命が失われていくのを感じておった」
「殿下! 陛下はミリオネル王国の文化と技術の全てをギャラクティカダークに詰め込んで我らに託したのです。是非ともこの地で国の再興を……」
すがりつくルーク様に殿下はゆっくりと首を横に振る。
「ルークよ、我が祖国を愛し父上と余に忠誠を誓うお前の気持ちはよく分かる。しかしもうミリオネル王国は無いのだ、今思えば滅びたのは我ら王家の不徳によるものであろう。ならば我らの技術、文化は再現可能なマヒト殿とキョーコ女史に任せ、この星の役に立てていただくのが最良の手段ではあるまいか?」
「「殿下あぁぁぁぁぁぁぁ!」」
ルークとスカーレットが殿下に跪きむせび泣いてる所に、俺と幸四郎さん、今日子の声が申し合わせたようにハモる。
「「「異議あり!!」」」
殿下以下4名が驚いて目をパチクリさせる中、最初に口を開いたのは今日子だ。
「ギャラクティカダークのメモリーで見たんだけど王家の不徳だなんてとんでもない! ミリオネル王国は数多くある星間国家の中でも住民の幸福度ダントツNo.1だったんだよ!」
「ではなぜ滅ぼされたと言うのだ」
「そもそも星間戦争の発端はダスペリア帝国の革命に新興国家群が乗っかった事にあるんだよ」
今日子は要約して一から話してくれた。ダスペリア帝国はヘルクレス座広域星間文明圏の伝統的国家群の中でも第3位だったらしいが内部が腐敗していた。小国に圧力をかけ俗国のように扱い、場合によっては武力で制圧していた。
国内では貧富の差が激しく、人種、身分の差別があり奴隷制度があったこともあり周辺国や他の伝統的国家からも非難されていたが聞く耳を持たない。
そのような状態がいつまでも続くはずもなく、自由と平等を謳う青年将校達が決起し宮殿を強襲。それを新興国連合が支援し軍隊を送り込み帝国は崩壊、分断。
領土と資源は支援した新興国連合に分配され青年将校達は新興国連合に旧態依然とした王政、帝政を打ち倒した英雄として持ち上げられた。
そして文明圏全体で旧体制を倒し自由と平等を勝ち取る事を大義名分に伝統的国家群への総攻撃を開始したのだ。自由と平等を謳いながら実際やっていることは弱肉強食であり虐殺、略奪は当たり前で広域文明圏は乱れに乱れる事になる。
さらに伝統国家群の秘蔵していた技術を手に入れた新興国連合は大量破壊兵器を手にし敵対勢力を掃討し始めた。それを切っ掛けに伝統的国家群も秘蔵の超兵器の封印を解き、戦争は泥沼に陥り多くの居住可能惑星が滅び多くの人命が失われたのだ。
略奪で手に入れた兵器で快進撃を続けた新興国連合だったが自らの技術と知恵を持つ伝統国家群に徐々に押されていった。この時点で文明圏の全人口は開戦前の4割弱になっていた。
このままでは敗色濃厚になる新興国連合は起死回生の賭けに出る、それは神聖ミリオネル王国に伝わるという究極の破壊兵器を奪取する作戦である。全兵力を一点集中させて主星と王都を総攻撃し陥落直前まで追い込む事が出来たのだ。
だが国王ミリオール37世には覚悟も準備も出来ていたのだ。我が子とその婚約者、信頼出来る部下。神聖ミリオネル王国の科学、技術、文化の全てをメインコンピュータに詰め込んだギャラクティカダーク号を外宇宙に向けて発進させた。
そして最後の希望が飛び立つのを見届けた後、禁断のシステムを起動させた。「シビリゼーションイレーザー」全ての人工物を原資分解するナノマシンの集合体。その封印を解き放ち文明圏全体にばら撒いたのだ。
全ての兵器が砂と化し、文明が消滅していった。壮絶な戦いでイーマブルク殿下を残し神聖ミリオネル王国の王家は滅亡した。その後文明圏がどうなったかは誰も知らない。
「と、まあここまでがメインコンピュータの記録だよ。国王陛下は不徳どころか物凄く立派な王様じゃないか」
今日子が語る衝撃の事実にショックを隠せない4人に幸四郎さんが言う。
「殿下は地球人にミリオネル王国の文化を託すと仰られましたが、今の地球人には危険です。おそらく異星の超文明が手に入るとなれば世界中の国々が争うでしょうな。そして結末は地球の滅亡でしょう」
さて、俺のターンだな。
「殿下、地球人はまだ未熟な種族です。心が狭く、小さな事にこだわりチマチマ争い、自らの可能性を閉ざしている。そんな連中に偉大なるミリオネル王国の科学、文明など与えるべきではありません」
3人の言葉に殿下は肩を震わせていた。俺は威厳があり、容姿端麗で、善良で、聡明なこの皇太子様がフェロモンやオーラ抜きで好きになっていた。自分で言うのも何だが傍若無人で人に興味の薄いこの俺が珍しいもんだ。
「ねえ、みんなに見て欲しいものがあるんだけどいいかな?メインコンピュータの最深部にあった画像データなんだけど、今ここで流してもいい?」
何かは分からないがみんな無言で肯いていた。
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