63 時を超え重なる意識5
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
卑弥呼は、緑銅の鎖で封印されているアマテラスのそばに近寄った。
彼の心が、人間にだまされた困惑と妻の夜見を殺された怒りに支配されていることを卑弥呼は感じた。
さらに、アマテラスから強い意思が放たれたことを感じた。
―――もう、いやだ。これ以上、この悲しくて辛い世界が続くのは。誰かが無に帰せばいいんだ。
強い意思は空を突き抜けて、宇宙の彼方まで到達し、無の空間に虚無の意思を発生させた。
「アマテラス様。卑弥呼でございます。」
『神』とそれに仕える巫女の強いきずなが、アマテラスの心にほんの一瞬の安定をもたらした。
「卑弥呼さんですか。ほんとうに恥ずかしい姿を見せてしまいましたね。しかし、人間達から受けたひどい仕打ちは、僕をほんとうに打ちのめしました。今のこの正気はいつまで持つかわかりません。早く避難してください。」
「あなたが人間にどんなことをされたのか、私はもう知っています。神々の中で最も優しい神であるあなたを、このように何重にも永久封印し自由を奪い、イネを育てるための光を放つ道具にするとはあきれるばかりです。」
「僕はそれ大きなうらみを人間に対していだいてしまいました。このうらみはこの先、何千年たっても消すことはできません。卑弥呼さん、あなたのことは信頼しています。だから早く避難してください。」
「あなたの妻は外面だけではなく内面も美しい方で、お互いに深く愛し合っていたのですね。その妻を殺された。それにあなたを心から慕う妹も殺された。姉妹を守った叔父達も殺された。たぶん、許せないでしょう。」
卑弥呼のその言葉を聞いた途端、彼の両目が燃えるような黄金色、無限大の怒りを溶かしたような汚い色となり正気を失った。
卑弥呼はふところから、美しい緑色の首飾りを取り出した。
さきほど、アマテラスと夜見の家の跡で拾った緑色の翡翠から作った勾玉だった。
そして、卑弥呼はとても冷静な表情でその勾玉を彼の首にかけると、彼の両目から光が消え閉じられた。
緑の勾玉は緑銅よりも強い力を『神』に対して示すものだった。
「アマテラス様、ほんとうに申し訳ありません………
私はあなたに使える卑弥呼として、あなたをずっと怒り狂う神のままにはできません。一旦、命を奪うことをお許しください。魂になったあなたは、この先数千年以上、何回も転生を繰り返します。できる限り長く、辛い記憶をお忘れください。」
卑弥呼はふところから短刀を出し、さやから抜いた。
陽光神社の大広間で眠っていた天てらすは激しくうなされていた。
それは1時間ほど続き、その後、彼は無意識のまま両目を開けた。
両目が燃えるような黄金色となっていた。
それは、無限大の怒りを溶かしたような汚い色だった。
彼は言った。
「ダマシタノカ、ダマシタノカ、ダマシタノカ―――ニンゲン! コロシタノカ、コロシタノカ、コロシタノカ―――ニンゲン! 」
隣の部屋で寝ていた登与と日巫女は、すぐに異変に気がついた。
「登与。行ってらっしゃい。全てあなたに任せます。」
日巫女にそう言われて、登与は黙ってうなずいた。
登与は大広間に入り、寝ている天てらすに近づいた。
良く知っている普段の様子と彼は大きく異なっていたが、彼女は恐れず冷静に自分の首から勾玉をはずし、寝ている彼の首にかけた。
すると、数千年前にアマテラスだった時と時空を超え意識が重なり、暴発しそうだった神聖の力が勾玉により完全に押さえられ、彼は両目を閉じて静かになった。
その後登与は、ポケットに忍ばせていた短刀を出そうと右手が触れたが、そこで止った。
彼女は、どうしても右手を動かすことができなかった。
そのままの体勢で固まっていると、彼女の両目から大粒の涙が何粒も流れ落ちた。
「できないわ。私にとっては、てらすと一緒に生きる毎日が全てだから………」
………
登与は事前に卑弥呼から説明を受けていた。
「登与。あなたが首にかけている緑の翡翠で作られた勾玉は、神の神聖の力を押さえる力が最強なのです。勾玉を首にかけた後、転生者であるてらす君の命を奪い、魂にしてまた輪廻に戻す必要があります。」
「勾玉をはずすとどうなるの。」
「必ず、アマテラスの神聖の力が暴発し、この世の中に大惨事を引き起こします。」
「じゃあ、てらすは勾玉を首にかけたまま生きれば良いじゃないの。」
「それは無理です。一旦、アマテラスだった時と意識が重なると転生者はそれ以上、人間として生きていくことができません。」
「目を閉じて横たわったままになるの。」
「もっと悪いことが起きます。人間である転生者の体が神の意識を宿すことに絶えきれなくなり、数日後には完全に腐って崩れ落ちてしまうでしょう。」
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