56 優しくて悲しい夢14
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
アマテラスは、泥だらけの多くの人々とともに地主の屋敷を訪れた。
地主の屋敷は、現代の考古学で環濠集落と呼ばれる形をしており、円形に作られた柵と掘を備え、戦いのための城といってもよいものだった。
他の地主からの応援も含め、既に多くの兵士が柵にとりついて、隙があれば矢を射かけようとかまえていた。
ところが、意外なことに正門の扉がすぐに開けられた。
その後に地主が出てきて、アマテラスの前で、うやうやしくひざまずいた。
「アマテラス様、ようこそいらっしゃいました。私が地主の司馬でごさいます。」
「司馬というお名前は、もしかしたら、倭の国の外からいらっしゃったのでしょうか。」
彼が聞くと、地主は首を振って照れくさそうに否定した。
「いえいえカッコをつけただけでございます。遠い異国で名高い英雄の名前から、自分が気に入ったものを選んで勝手に名乗っているだけです。そして私は、進んでいる異国から多くのものを取り入れようと思っています。」
「イネも異国から取り入れたのですね。」
「そうです。今まで倭の国の人々は、木の実の採取、釣り、狩猟など季節ごとに自然が与えてくれるものに頼ってきました。自然は気まぐれで、人間に対して少しも与えてくれないこともあり、たびたび飢饉が起こりました。」
「それは否定できません。僕はよく知っています。自然をつかさどる神々はとても厳しく、人間に多くを与える場合もあれば少しも与えない場合があります。」
「ところが、太陽の神であるアマテラス様は違うのですね。」
「他の神々より心が優しいだけです。」
「光りは無限に人間に降り注ぐ。そしてイネはその光りを最大限に蓄えることができ、さらに長く保存することができ多くの人間の命を救ってくれます。」
「本題に入ります。イネを栽培するために、身分は必要なのですか。」
「必ずしも必要ではありません。ただ早くイネの栽培を広めるためには、誰かが上に立ち、土地や人を効率的に使うために命令しなければなりません。最初の段階ではこの方法が最良です。ですが、もうやめても良いかもしれません。」
「どういうことですか。」
「アマテラス様の後ろにいる泥まみれの人々に、イネ作りの技術や経験が広まってきたのなら、みんな平等の集団でイネを作れば良いと思います。」
「平等になると、司馬さんはどうするのですか。」
「もちろん私も泥まみれになって、多くの人々と同様にイネ作りをしようと思います。身分が高い低いという考え方は消えてしまうでしょう。」
「それはいつ頃になりそうなのですか。」
「もうしばらくすれば、その時がやってくると思います。取りあえず、あと1か月後ではどうでしょうか。」
アマテラスは司馬が言ったことに納得させられた。
そして、みんなに告げた。
「あと1か月後に身分を無くし、イネ栽培を平等の集団で行うことを地主さんが約束してくれました。ですので、今日のところは帰りましょう。」
地主に対して誰も疑わず、1か月後には全てうまくいくと考えた。
森の家で留守番をしていた夜見と咲希の元に、お客がやってきた。
2人が家の中にいると声が聞こえた。
「おーい、おーい。」
外に出ると、家の回りに張られている結界のそばに2人の男が立っていた。
2人とも背がとても高く、1人は長い髪を後ろに束ね、もう一人は白髪交じりの髪の毛を短く刈り込んでいた。
その雰囲気から姉妹にはすぐにわかった。
「あっ、九郎おじさんと十郎おじさんだ。」
咲希が歓声を上げた。
すぐに、夜見は結界の外のおじ達に向かって、結界の中に入る方法を教えた。
「叔父さん達、そこの石の上に立って手をこのような形にしてください。そして『縮地』と心から唱えてください。」
灰色の目をした2人の叔父が、夜見の指示どおりのことをした瞬間、2人とも結界の中の石の上に瞬時に移動した。
咲希が驚いて言った。
「叔父さん達にも神聖の強い力があるのね。さすが卑弥呼様に仕えて、神と人間との橋渡しをする役を担う2人だわ。アマテラスさんが、この縮地の術をすぐに使うことのできる人間はほとんどいないと言っていました。」
「夜見と咲希の2人は、この結界の内外をどのように行き来しているのかな。」
十郎の問いに夜見が答えた。
「私達も叔父さん達と同じように、すぐに縮地の術を使うことができました。」
「アマテラス様もびっくりするだろうな。目の前に縮地の術を使うことのできる人間が、もう4人も現れるなんて。」
九郎がおどけた顔で言った。
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