55 優しくて悲しい夢13
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
アマテラスの両目が黄金に輝いていた。
心の中に、今まで無かった怒りの感情が湧いていたのだった。
彼は語気を強めて言った。
「身分が高いとはどういう意味なんですか。人間はみんな平等で仲良く、互いに助け合って生きていくべきではないですか。なんで、他の人々に高圧的に命令して働かせることが許されるのですか。」
この時点でその場にいた人間達は、彼から受ける大きな違和感に気がついた。
「あっ、人間ではない『神』だ。」
「『神』は怒ると恐いというぞ。」
「身分の高い人達に怒っているのだ、俺たちに怒っているのではない。」
アマテラスを捕らえるため、数人が大やけどをおった監視者の中に恐怖が走った。
「一旦、地主様の屋敷に逃げるんだ。もっと人を集めて『神』と戦うんだ。」
監視者はみんな逃げて行った。
泥の中の人達は、みんな彼を見上げた。
彼の両目はもう普通の色になっており、彼は大きな優しい声で呼びかけた。
「みなさんが今植えているイネは、太陽の恵みをたくさん蓄えて、とてもおいしい食べ物になります。『神』が与える宝物なのです。そして『神』はみなさんが助け合ってイネの実りを豊作にし、平等に幸せになることを望んでいます。」
泥の中にいた1人が言った。
「あなたは、ほんとうに『神』なのですか。」
その問いに、彼は大きくうなづきながら言った。
「僕は『神』です。僕の神聖の力は太陽と重なります。太陽の神なのです。そして今、みなさんの全てを平等に幸せにするイネを育てるため、たくさんの光りが降り注がれることをお約束します。」
「『神』よ、ここら辺の土地が全て自分のものだと宣言している地主がいます。その下には多くの家来がいて、これまで蓄えたいろいろな物を与えられて地主に服従を誓っています。この泥の土地さえ、自由にイネを育てることはできません。」
「安心してください。もし、みなさんが助け合って、イネの実りを豊作にしようとすることを地主が認めないなら、この周辺の土地には光りが当たらないようにします。もっとも地主という言葉もおかしいですけど。」
「地主に掛け合っていただけませんか。」
「わかりました。今から行ってきます。」
「そうだ。『神』1人だけにお願いするのではなく、みんなで行こう。」
大歓声が起きた。
地主がいなかった過去の時代、みんなが平等で協力し合って暮らしていた時代に帰ろうと心が一つになっていた。
地主の家では大騒ぎになっていた。
家来達に武装させるとともに、近隣の別の地主達に使者を送り応援を依頼した。
大きく支配地を広げてきたこの地主は、相談相手として呪術者を雇っていた。
地主は呪術者に聞いた。
「多くの家来が『神』を捕らえようとして触れた瞬間、大やけどをおった。いったい、なんでそんなことになるんだ。」
「地主よ、それはたぶん太陽の神だ。名前をアマテラスという。」
「アマテラスだと。卑弥呼様がお告げを受けている『神』じゃないか。」
「そうさ、世の中の森羅万象を決めることができる最強の「神」さ。」
「もしかして、あの伝説の美女姉妹の姉と結婚して、妹をほんとうの妹にした『神』のことか。許せん! 『神』だからといって、やっていいことと悪いことの区分もできないのか。」
「雇い主に言いにくいことだが、アマテラスは優しい神だ。姉妹に無理矢理迫ったとは考えられない。きっと、姉妹の方からもアマテラスに引かれたのだろう。人間の中には姉妹に無理矢理迫った馬鹿もいるがな。」
「おまえはどちらの味方なんだ。」
「もしかして、地主も馬鹿の1人なのか。」
「もうそのことは良い―ところで聞きたい『神』の弱点はあるのか」
「ないこともないが、謝礼が少なすぎるな。」
「わかった。今決まっている10倍でも100倍でもだす。」
「それでは、1000倍もらおうか。」
「―――しようがない。いいだろう。」
「『神』は緑色の物に弱いんだ。それも生きている物ではなく、生きていない物だ。たとえばもし緑色の金属でできた鎖があったとしたら、『神』の自由を完全に奪い、力を出すことも全くできないだろう。」
「おまえはなんでそんなことを知っているんだ。嘘だったら承知しないぞ。」
「遠い遠い異国の伝説がある。それは『神殺し』という。」
2人の視線は同時に、庭にある井戸にかけられている緑銅の鎖に向けられた。
その時と同じ瞬間、夜見は森の中を歩いていて………
すると大変きれいな石が落ちていた。
「まあ、なんて綺麗な! 」
夜見は緑の翡翠を手で拾った。
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