54 優しくて悲しい夢12
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
アマテラスと夜見は夫婦としてほんとうに仲良く、楽しい毎日を過ごした。
そして、同居している咲希はできる限り遠慮して、2人だけの時間が作れるように気を配った。
春になって、新しい森の家のそばに花が咲き乱れる場所ができた。
食糧の調達などその日の仕事にめどが立つと、2人は必ずその場所に並んで座り、美しい光景にうっとりしていた。
「アマテラスさん。こんなに多くの花々が咲き乱れるのに、自分だけ目立とうとしている花はいないわ。みんなすばらしく調和がとれていて、全体として最高の美しさになっている。とても素敵ね。」
「僕もこのような花々が大好きです。見ているだけで眠くなってしまいます。―夜見さん。僕はもう少ししたら、人間が多く暮らす平地に降りて、この地域で大量に涌き上がっている人間の負の気持ちを調べに行こうと思います。」
「どうしても、あなたが行かなければならないのですか。」
「はい、私が調査することは。神々の間で決まったことです。調査の結果を神々の間で共有して、人間の導き方を改めなければなりません。今、人間の世界は人口が増え、さまざまな生産活動が活発になり貧富の差が拡大しています。………
………このような状況では、自分が可愛く他人をねたみ、他人を蹴落とすためには何をしても良いと思うことは仕方がないのかもしれません。ただ、この先には、人間どうしの悲惨な戦いが待っています。」
「恐いですね………アマテラスさん、もうその話しは止めましょう。」
「そうですね。僕は真面目すぎます。今からは美しいものをじっと見て心を癒そうと思います。何しろ、とても、とても、とても美しいですから。」
「ここに咲いている花々はとても美しいですよね。」
そう言った夜見を、アマテラスは見つめ始めた。
「なぜ、私の方をじろじろ見るのですか。」
「ここに咲き乱れている花々は、確かにこの世の中の何よりも美しいくらいです。でも彼らより美しいものがあると花々が言っています。」
「なんて言っているのですか。」
「アマテラスの横に座っている夜見さんは、われわれの何倍も美しいと言っていますよ! 」
彼は夜見に抱きついた。
数日後、アマテラスは森を抜けて人間が多い平地に出た。
姉妹を2人だけで残すことが少し心配だったが、家の回りに結界を張って、よこしまな心を持つ者が侵入できないように警備を強化した。
平地を歩く人々は、とても多かった。
「神」の外見は人間とほとんど変わらなかったので、アマテラスだということを気づかれなかった。
歩いていると、多くの人が泥の中で何かをして働いていた。
みんな泥に足をとられ大変辛そうだったが、時々その場に倒れてしまい、身分の高そうな監視者に大きな声で怒鳴られていた。
彼は働いている人の一人に聞いた。
「いったい、ここで何をしているのですか。」
「遠い所から渡ってきた、食べ物になるイネを植えているのだよ。」
確かに彼らは、それぞれの腰に縄に巻き多くの苗を差して、それを1個1個はずしながら泥に植えていた。
「なんで、怒鳴るばっかりで少しも働かない人達がいるのですか。」
「し―――っ。そんなこと言ってはいけないよ。身分の高い人達に何をされるかわからないから。」
「なんで身分が高いのですか。」
「それはいろいろな物を持っているからさ。大きな家、多くの家来、そして広い土地を持っている。」
「なんでそれらは、身分の高い人達の持ちものになったのですか。」
「おまえさんは理屈っぽいね。私は働くのに忙しいから、これまでにしておくれ。さあ、早くどっかに行くんだ。よそ者にもわざわいが降りかかるかもしれないよ。」
案の定、泥の中で働いている人と話し込んでいた彼に、監視者の1人が近づいてきた。
「おまえはよそ者か。この場所に立ち寄るな。ここにはこの地域の秘密があるのだ。秘密を知ったよそ者は、殺しても良いという命令を受けている。」
「それはイネのことですね。」
アマテラスがそう言ったのを聞いた途端、周囲の監視者達が、彼を捕らえようと突進してきた。
ところが、彼につかみかかろうとした監視者達は大きな悲鳴をあげて、そこに倒れて七転八倒して痛がった。
「いたたた! なんて熱いんだ! 大やけどだ! 」
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