52 優しくて悲しい夢10
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
縮地の術を使い、アマテラスは姉妹の小屋があった場所に瞬間的に移動した。
すると、小屋はほとんど燃え落ちていて、まだかなりの煙を上げていた。
「夜見さん。今助けます! 」
彼は詠唱した。
「コノモリノ、ケモノニツゲル、アマテラスヲタスケヨ」
その目は黄金色に輝いた。
すると、森の中の四方八方から獣達の鳴き声が聞こえ、すぐに森の茂みを動き始める音がして人間の悲鳴があちこちから聞こえてきた。
その後、人間達があわてて周辺から逃げ去る音がした。
静かになった後、彼は急いで森の茂みに入り、夜見が隠れていた場所に一直線に向かった。
すると茂みの中から彼の方へ、迷うことなく大変な勢いで夜見が飛び込んできた。
彼が夜見を抱きかかえるような体勢になった。
「夜見さん、危ないです。もしかしたら、あなたを狙う敵だったのかもしれませんよ。」
「いいえ、アマテラスさん。あなたが身にまとう神聖の力を私は感じることができ、既にしっかり覚えています。」
「普通の人間の夜見さんが神聖の力を感じることができるのですか。」
「なぜだかわかりません。でも、私の一族は元々「神」と人間との橋渡しの役割をになってきました。アマテラスさんは御存知でしょうか、卑弥呼という者が一族の長をしています。」
卑弥呼という名前を彼は良く知っていた。
卑弥呼はアマテラスの力と切り離すことができない太陽を敬い、彼とよく親和した呪術者だった。
人間だが神々に近い能力をもち、遠く離れた場所から直接彼に話しかけ、気象、自然の実り、戦いの行く末などさまざまなことを聞いてきた。
彼は火であぶった亀の甲羅にできるひびなど、さまざまサイン(しるし)により卑弥呼が求める問いに答えてきた。
たしか倭の国の中でも最高の地位についているはずだった。
「夜見さんと妹さんが卑弥呼さんの一族なら、有力者といえども手出しができないと思うのですが。」
「残念ながら、卑弥呼には、現実的な権力はほとんどありません。卑弥呼は尊い神と対面するための神殿に一人閉じこもり、決まった従者だけに会って神から聞いたことを告げて民衆に指示するだけです。」
「そうですか、僕が答えたことを、そんなにうやうやしく受け取ってくれていたのですね。」
「はい、それと私達姉妹の叔父が、卑弥呼のお告げを民衆に広く伝える役割をしています。」
夜見を抱えたままの状態で彼は言った。
「さあ、今から咲希さんが待っている場所に行きましょう。」
「その前にアマテラスさん。私を下ろしください。重いでしょうから。」
「何も問題ありません。夜見さんの重さは少しも感じません。いやむしろ、理由はわかりませんが夜見さんを抱きかかえていると、元気がわき出てかえって体が軽くなり早く動けそうです。それではいきますよ。縮地! 」
来た時と同じように彼は印を結び詠唱した。
すると、夜見が待っている場所にすぐにつながり、着くことができた。
咲希は地面に座り、心配そうに下を見ていた。
目の前に姉を抱きかかえた彼が現われると、咲希はすぐに気がつき大きな声を出した。
「ほんとうによかった………」
後は涙で声にならなった。
アマテラスは夜見をすぐに下ろすと、姉妹は駆け寄って抱き合った。
落ち着いた後、2人は話し合った。
「お姉ちゃん。これからどうしょう。もうどこに行っても追われてしまうわ。」
「もう少し、山深くまでこもるしか方法しかないわ。でも時間が経てば必ず追ってくる。」
2人の会話の途中、彼が考えを伝えた。
「あの―――、僕に良い考えがあります。夜見さんが「神」である僕と結婚して、咲希さんも加えた家族を作るのはどうでしょうか。」
「………」
「………」
いきなりの彼の提案に、2人は黙り込んだ。
「いやいやいや、ほんとうに結婚するのではなく。お2人を狙っている人々にそう思わせるようなふりをするのです。「神」の妻や妹に人間が危害を加えることは絶対にできないと思います。」
アマテラスのその言葉を聞くと、姉妹は目を合わせて同時にうなずいた。
夜見が真剣な表情で彼に言った。
「アマテラスさん。私は決心しました。あなたと結婚して妻になります。」
「外から見ても絶対に気づかれないように、ふりをするということですが。」
「そうではなく、ほんとうに私と結婚していただけますか。心の底からそう望んでいます。」
「えっ、僕はほんとうに夜見さんと結婚したかったので問題ありません。」
「決まりね。2人は結婚して新しい家庭を築いていく。ごめんなさい、妹の私はおじゃま虫ですが一緒に暮らさせてください。」
「もちろんよ、咲希。」
「もちろんです、咲希さん。」
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