51 優しくて悲しい夢9
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
「咲希さんは、全速力でこの広い森の茂みを駆けて来たのですね。息が上がって大変そうです。何があったか、話さなくてもいいです。心の中で思い浮かべてください。僕は全てを悟ることができます。」
アマテラスからそう言われて、咲希はうなずいた。
それから、何が起こったのか事件の詳細が彼の心の中に正確に流れ込んできた。
さらにその事件の原因となる事実についても、彼は突き止めることができた。
夜見と咲希の姉妹は、物心ついた時から多くの人間達が暮らす集落で美人姉妹として有名だった。
そしてその美しさは、時が経ち彼女達が少しずつ成長するにつれて、伝説と成りつつあった。
おしまいには倭の国全域に鳴り響いていた。
このため、多くの人にねらわれた姉妹は平地から森林に逃げ込んでいたが、彼女達が暮らす小屋は、いつも密かに監視されていた。
ところが、ある日、若い背の高い若い男が小屋の中で一晩過ごしたことが、集落の有力者達に報告されていた。
姉妹の争奪のためいつも牽制状態にあったが、報告を受けた有力者達は憤慨して協力体制をとることになり、部下達に告げた。
「美しい姉妹が完全にその若者のものになってしまうじゃないか、隙を見つけて姉妹を必ずさらってくるのだ。誰がその姉妹を自分のものにするのかは、それから決めれば良い。」
若者が監視されていた小屋を出て、姉妹と別れたことがわかり、部下達は実力行使に出た。
夜見は、小屋の前でどんぐりの実を叩いて、殻をとり中の粉を集めていた。
冬でもどんぐりの実を集める方法を、あの日の帰り道、アマテラスから教えてもらっていたからだ。
………
「夜見さん。冬になると地面が雪で覆われ、落ちているどんぐりの実を見つけるのはとても難しいのですが、とても良い方法があります。木の幹を見るのです。するとあのように何筋もの傷がついているものがあります。」
「これは、もしかしたら…」
「そうです。熊が付けた傷です。この木の根元を掘るのです。すると。」
アマテラスが根元を掘ると、多くのどんぐりの実が埋まっていた。
「今冬眠中の熊が、春になり起き出した時に体力を回復させるために、どんぐりを備蓄しているのです。」
「でも、それは熊さんが自分のために備蓄しているものを横取りすることでは。」
夜見は少し避難するような表情で、「神」であるアマテラスを見た。
すると、彼は何の問題もないような表情で言った。
「たぶん、熊さん達は長い冬眠の間、自分達がどんぐりを備蓄したことを忘れてしまいます。木に幹に傷をつけることだっていつもやっていることだから、きっと意味を忘れているはずです。」
………
夜見は、その時アマテラが言った答えが、「神」らしくなく適当なことだったことを想い出してくすっと笑っていた。
ところが瞬間、彼女回りの森の茂みの様子に、何かしらの異変があるのに気がついた。
急いで小屋の中に入り、咲希に言った。
「咲希、回りを多くの人が囲んでいるわ。ただ、茂みが深く獣道さえない北の方向には気配を感じない。あなたの背丈だったら走っていける。」
「お姉ちゃんはどうするの。」
「この小屋を燃やして、ここらへんを煙で一杯にして何も見えなくしてから、すぐに後を追うから。」
「私も小屋を燃やしてからいく。」
「少しでも助かる可能性が高いから。今からすぐに行きなさい。それから―もし、もし、森の中でアマテラスさんを見つけることができたのなら頼りなさい。」
姉に促されて、咲希はほとんど道が無い森の茂みを全速力で走って逃げた。
しばらく走って後ろを見ると、小屋を燃やしたらしい煙が空に上がって広がりつつあった。
アマテラスはそこまでの咲希の記憶を読み取った後、夜見がどうなったのか悟るため心の中を集中させた。
すると北の方角の茂みの中で身動きがとれず、じっとしているようだった。
その場所を取り囲むように二、三十人の男達が輪を作り、夜見を捕らえようとしていた。
アマテラスは咲希に言った。
「すぐに夜見さんを救いに行きます。咲希さんはここで待っていてください。」
「はい。お姉ちゃんをお願いします。」
その後、彼は両手で印を結び詠唱した。
「コノセカイノ、クウカンヨ、ワレヲココカラ、ココロニオモウバショニツナゲヨ。縮地! 」
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