48 優しくて悲しい夢6
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
天てらすが朝まで覚えていた夢を見た後、数日間は全く夢を見なかった。
ところが、それは彼が完全に忘れていただけで、ほんとうは夢の中で長い物語を見続けていた。
数千年前の倭の国の中には少数の特別な人々が住んでいた。
その人々はこの世の理と一体化することで、無から何かを作り出し、また既に有る物を消すことすらできた。
特別な人々は、それ以外の人々である人間から「神」と呼ばれていた。
「神」は決しておごることなく、努めて平和に暮らそうとしていた。
そして、長い間、「神」と人間との間には平和で幸せな時代が続いていた。
その年の冬は極めて寒かった。
海の面したある集落も過酷な冬の影響を受けて、狩猟や木の実の採取に頼っていた生活はすぐに食糧不足におちいり、辛い毎日が続いていた。
粗末な小屋の中に、姉妹が暮らしていた。
ある晩のこと、吹雪が荒れ狂っているような音が、小屋に中に聞こえていた。
「お姉ちゃん、お腹が空いたよ。」
「そうね、まだどんぐりの粉が少し残っているから食べましょう。」
姉は土器の中をのぞいたが、どんぐりの粉はほんの少し残っているだけだった。
すぐに妹に背を向けて、どんぐりの粉を食べたようなしぐさを作った。
「おいしいな。あっ、いけない。見た途端、がまんできなくなり食べちゃった。」
「いいよ。お姉ちゃん。私はまだがまんできるから。許します。」
「うそうそ、まだ残っていたから食べて。」
姉は土器からわずかなどんぐりの粉をすくい、木の葉にのせて妹に渡した。
妹はとてもよろこんで、どんぐりの粉を食べた。
姉は考えた。
―――この寒くて雪深い冬、明日からどうしよう………
その夜も姉妹は横になり明りを消したが、お腹がすいていてほとんど眠れなかった。
姉妹は目を閉じて吹雪の音だけを聞いていた。
どーん
何かが小屋にぶつかるような音がした。
そのうち、出口の板を誰かが弱々しくたたく音がした。
とんとんとん、とんとん、とん………
「お姉ちゃん、誰かが板をたたいているのかな。」
「この吹雪の中、助けてと―――でも消えてしまった。急がなくっちゃ。」
姉は急いで体を起し、出口に向かい鍵の役割をしていた棒を抜き、板を開けた。
すると、小屋の中にすざましい吹雪が吹き込んできたが、かまわず外に出てみると、そこに背の高い若い男が倒れていた。
少しも躊躇することなく、姉は若い男を小屋の中に運び込むと出口の扉を閉めた。
彼は完全に意識を失っていた。
小屋に明りをつけると、彼は美しく整った顔をしていた。
「お姉ちゃん。この人は心配ないわね。悪い人ではない。心の優しい人ね。」
「そうね。私も感じる。この人は誰よりも誰に対しても優しい良い人。」
次の日の朝、その若い男は目を覚ました。
寒さをしのげるように、寝ている体の上には大量の枯れ草が積まれていた。
「目覚めましたか、ご気分はどうですか。」
心配そうに自分を見ていた姉と目があった。
彼は驚いた。完璧に美しい顔がそこにあった。
それから更に驚いたのは、彼の特別な力が、完璧に美しいその女性が、同じくらい気高く美しい心の持ち主であることを彼に悟らせたからだった。
「助けていただいてありがとうございます。僕はアマテラスと申します。」
「不思議なお名前ですね。もしかして『神』のお一人ですか。」
「はい、そうです。でも全然気になさらないでください。」
そう言いながら彼は体を起しお辞儀をした。
すると、少し離れていた妹が近づいてきた。
「アマテラスさんですか。ちょうどお姉ちゃんと同じくらいの年頃で、お姉ちゃんとお似合いですね。」
「なんて失礼なことを言うのですか。」
「いえいえ、少しもかまいませんよ。さきさんもお姉さんと同様の方ですね。」
妹も姉に似た完璧な美しさで、心も同様にきれいだということを彼は悟った。
「あの、少しこの部屋は寒いですね。助けていただいたお礼です。」
彼は右手で不思議な印を結んだ。
すると、火が空中の位置に現われ、小屋の中を優しく暖め始めた。
「この火は中の温度に合せて、危なくないように大きくなったり小さくなったりします。夏の暑い時期には消えてしまいます。」
「ありがとうございます。私は『よみ』と申します。これは妹の『さき』、私達は2人で暮らしています。」
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