46 優しくて悲しい夢4
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
「いつも私の妹が大変お世話になっています。私は黄泉の国の女王夜見です。今日は、お話する機会を設けていただいて心から感謝します。」
女王は深くおじぎをした。
「女王様とお会いできるなんて、誠に光栄です。私は『日一族』の長、日巫女の孫で登与と申します。女王様のことは、天てらすからいろいろ聞いていましたが、予想を超えた方でした。」
「登与さんの予想を裏切ったのは、どのようなことですか。」
「そのお顔、お姿、全て完璧な美しさです。その点については、てらすから全然聞いていませんでした。」
「そうですか、あなたからそう言われるととてもうれしいです。でも、登与さん、アマテラス様が私に向かって言いましたよ。登与さんのような美人をいつも見ているから、私を見ても全く驚かないと。」
「えっ、そんなことを申し上げたのですか。それは、女王様より私の方が美人だと言っているのと同じになります。失礼なことを言ってしまい、てらすに代わり深くお詫び致します。」
「ほほほ、いいですよ。今日あなたを直接見て、アマテラス様が言っていたことが嘘ではないとはっきりわかりました。」
「姉様、そろそろ本題を。」
「そうね―――登与さん。もしかしたら、あなたが次の日巫女を継ぐのですよね。」
「はい、そうです。どれくらい先になるかはわかりませんが。」
「私は黄泉の国の女王ですが、元々『闇一族』のものです。ですから相対する『日一族』のこともよく知っています。日巫女を継ぐ者は、大変な試練を乗り越えなければならないのですね。」
「………どれくらいまでお話できるのか、正直、判断に迷います。私は既に、大変な試練のことはよくわかっています。現在の日巫女、私の祖母からつい最近、そのことについて知らされました。」
「そうですか。ごめんなさい、登与さん。ずばずばと聞いてしまいますが、あなたは古代の織物に描かれた絵をもう見られたのですね。」
「………はい、確かに見ました。」
急に女王は登与に近づき、全身で抱きしめた。
登与はとても驚いたが、やがてその意味がわかった。
―――ああ、女王は全てのことを知っているんだ。
「登与さん、歴代の日巫女の中で数百年に1回、とても辛い指命を果たさなければならない人がいます。あなたの前にも、大変苦しんだ人々が数多くいたのです。しかし人間にとって、この世界にとって、大変重要な指命です。」
「女王様、なんでそのことを知っていらっしゃるのですか。」
「ごめんなさい。数千年前の私がその原因なのです。」
「えっ、それはどういうことですか。」
「だんだんわかってきます。たぶん、アマテラス様が全てを想い出してしまうでしょう。登与さん、お願いです。覚えていてください。」
「はい。」
「昔からの習わしに捕らわれず、自分で進む道を見つけることができたのなら、迷わず、その道を進んでください。輪廻をそこで断ち切って良いのです。」
その日の朝起きた時、天てらすは異変に気づいた。
眠っている間に見た夢の内容の一部を覚えていたのだ。
―――あまりに鮮明な内容、大変な動揺も覚えている。
波の音が大きく聞こえていた。
海に近い切り立った崖の上で、塩のにおいがした。
なぜか、自分の体はほとんど自由がきかず、地面に横たわったまま必死に立ち上がろうとしていたが無駄だった。
緑銅の鎖で、体中をぐるぐる巻きにされていたからだった。
あがいていると、なんとか視線だけは、海に向かって落ちている方に向けることができた。
すると、1人の女の人を大勢の男達が囲んでいた。
「あなた達、それ以上近づくことは許しません。」
聞いたことのある声で彼女が言い放った。
しかし、男達はおかまいなく彼女との距離をつめていた。
彼女は少しずつ後ろに下がり、とうとう崖の端まで来てしまった。
その先に足を踏み外すと、海まで数百メートルある断崖絶壁に転落してしまう場所に追い詰められていた。
ところが、男達はさらに彼女に向かって前進した。
恐怖で、彼女がそれ以上下がることは絶対ないと信じているようだった。
一瞬―――
彼女は横たわっている彼の方に視線を向けて、彼と視線が合った。
彼女は微笑んだ。
そして声を出さずに言った。
口の動きは彼にしっかり届いた。
「え・い・え・ん・に・あ・い・し・て・い・る・わ・」
突然、彼女の姿がそこから消えた。
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