44 優しくて悲しい夢2
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
日登与は高校を休んでいた。
健康そのものの登与なので、天てらすはとても心配した。
―――この間、図書館で話したことが原因なのかな、言わない方がよかったのか。
彼はとても悩んだが、その日の放課後、気がつくと知らないうちに登与の家に向かって歩いていた。
家のベルを押した。中から反応があり登与の母親、日南がドアを開けて出て来た。
登与の家には子供の頃から何回も来ていて、母親とは顔なじみだった。
「天君、お見舞いに来てくれたの。ありがとう。少し待っていてね。」
母親は再び家の中に戻り、登与の部屋で何か聞いているようだった。
再びドアを開けて出て来た母親が彼を見ると、大変申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい。あの子のことは良く知っているわね。『てらすとは会いたくない。』と言って部屋から出てこないの。私にはどうしようもないわ。」
「わかりました。登与さんに悪気がないことは十分にわかります。今日は失礼します。『早く元気になって、笑顔を見せてください。」とお伝えいただけますか。」
「はい、わかりました。そのとおりに伝えます。声だけでも、母親の私にはよくわかります。ほんとうは、あの子は天君に会いたくて会いたくてたまらないのだと思います。何があったのかはわかりませんが。あの子をよろしくお願いします。」
彼は母親に深くおじぎをして、登与の家から歩いて離れた。
2階のカーテンが引かれた窓が少し開けられて、登与がその姿を目で追っていた。
登与の休みはさらに続き、彼は毎日お見舞いに行った。
同じ時期に、彼は毎晩、内容の濃い夢を見るようになった。
朝起きると夢の内容は全く覚えていなかったが、彼の睡眠はとても浅くなり、体に少しずつ疲労が蓄積していた。
何回目のお見舞いの日のことだった。
土砂降りの雨中、傘をさしても濡れている彼を見た時、さすがに母親の南は可哀想になり、アドバイスした。
「天君、家に上がって登与の部屋に押し入ったら、母親の私が許します。」
「いえ、滅相もありません。帰ります。」
「押し入らなくてもいいから、少し休んでいきませんか。お顔を見るとだいぶ疲れているようですから。」
「大丈夫です。明日も来ます。」
彼はずぶ濡れになってしまう状況で、自分の家に帰るため歩き出した。
このところの睡眠不足の影響もあり、彼の体調は非常に悪かった。
運悪く、トラックが歩道ぎりぎりに無理矢理通り過ぎようとした。
その時、彼は立ちくらみでふらつきトラックに接触しそうになった。
「ばか! てらす! しっかり歩くのよ! 」
大変驚いたような女の人の大きな声が聞こえた。
彼はすんでのところでトラックを避けた。
後ろを振り返るとそこに登与が立っていた。
―――登与さん。やっと会えた………
意識がそこで途絶えた。
天てらすは、目を覚ました。
すると温かい布団に寝かされていた。
「ぼくは寝てしまったのか。」
彼のひとり言を聞いて、部屋のふすまが開き登与が入って来た。
「てらす。目が覚めたの。1時間くらいだけどぐっすり寝ていたわよ。」
「ここはどこですか。」
「まだ、入ったことがなかったわね。私の家の神棚がある日本間よ。そうそう違ったわ、あなた1回入ったことがあるわ。小学生の時、同級生みんなでここに集まって、私の誕生日祝いをした時よ。」
「えっ、そうでしたか。覚えていませんでした。登与さんの誕生日の思い出は、登与さんの姿をこっそり何回も見ていたことだけです。」
「可愛かった。」
「ええ、とても。」
「私のことを心配して何回も来てくれてありがとう。でも、毎日あなたの姿を見ていたら、悩み事を解決することができたわ。」
「僕が役に立ったのですね。」
「これからも、あなたとずっと一緒にいようと決心したのよ。行く先がどんなに遠くでも、どんなに時間が経つとしても―――たとえ、あなたに嫌われたとしても。」
「変なことを決心したのですね。僕は登与さんを決して嫌ったりしません。」
登与は少し微笑んだ。
「てらす、今日は金曜日だから、私の家に泊まっていきなさい。あなたの家には連絡しておくわ。まだ、ものすごく眠いでしょう。」
「実はそうなんです。」
そう言うと彼はたちまち眠ってしまった。
お読みいただき心から感謝致します。
もし、よろしければ評価やブックマークいただくと、作者の大変な励みになりますので、よろしくお願い致します。
※更新頻度
平日は夜8時~11時までの1日1回更新(毎日更新できない場合はお許しください。)
土日祝日は1日3回更新(回数が少なくなる場合はお許しください。)




