43 優しくて悲しい夢
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
天てらすは、虚無から最後に言われたことがとても気になっていた。
―――虚無は、数千年前に僕が望んで生まれたと言っていた。自分はアマテラス神の転生者、いったい神であった最初の時、どんなことが起きたのだろうか。
そして同時に、黄泉の国の女王夜見のことも頭の中から離れなかった。
―――女王が僕を見てにっこりと笑った時、遙かな昔、その笑顔を何回も見てその都度励まされ、心が安まり穏やかになったのを想い出した。
このごろの彼は、他の人を心配させないよう一人になって考え込むことが増えた。
今日も学校が終わった後、図書館に座り考え事をしていたが、急に誰かに肩を叩かれてはっとした。
「てらす、大丈夫。」
日登与だった。この頃、彼が意識的に一人になろうとしていることが心配になり、学校の帰り道、後をつけてきたのだった。
「虚無との戦いが終わった後、何か心配事ができたの。心配事は一人で隠して抱え込むのが一番良くないわ。だから私に話して。」
「はい………」
彼は登与に話すことを大変躊躇した。
彼の様子を真剣な視線で見た登与は、心の中で決心して、しっかりとした口調で彼に話した。
「もちろん、私はアマテラス神の転生者に仕える日巫女の跡取り、あなたを支え守ることが指命です。でも、その前に一人の人間の女の子なんです。だから、子供の頃から知っている素敵な男の子が好きで、この頃いつも気になっているのよ。」
「登与さん。心配をかけてすいません。実は、転生する前のアマテラス神だった時のいろいろな記憶が、少しずつよみがえってきたのです。それから、子供の頃から世界中で一番大好きな女の子には絶対に心配かけたくないのです。」
彼は登与に話す時、緊張しすぎて図書館の中にいるということを忘れて、大きな声ではっきりと話した。
「し―――っ」、「し―――っ」、「し―――っ」
あちこちから、静かにするように促されたが、2人に視線を向けた誰もがにっこりした笑顔だった。
「てらす、恥ずかしいから図書館から出ない。」
「そうですね。みんなに聞かれてしまいました。」
次の日、登与は陽光神社に登り、社殿の大広間に座り天てらすのことを日巫女に相談にしていた。
「おばあちゃん、てらすに聞いたわ。転生する前のアマテラス神だった頃の記憶をだんだん想い出してきたそうなの。」
「そうですか。いよいよ、その時が来ましたね。まだ数年は余裕があると思っていましたが、どうも、虚無との戦いが記憶のよみがえりの引き金になってしまったようですね。日巫女としての指命を果たさなければなりません。」
「どういうこと? 」
「登与、少しここで待っていて。」
日巫女は社殿の奥に入り、巻物箱を持ってきた。
「これを見なさい。」
日巫女は幹物箱の中から、ぼろぼろの布を取り出して広げた。それは、古代の織物に描かれた絵のようだった。
それをひと目見て、登与は大変驚いた。
「この絵は、いったいなんなの! これはてらすの顔!! しかもいつも優しいてらすの顔が恐いわ!!! 」
「古代の人々は大事件が起こると、子々孫々絶対に忘れないよう、このように織物に描いて残しています。ここに描かれていることは、この国の古代で起こってしまった最も大きな事件なのです。」
「おばあちゃん。そうすると、これはアマテラス神ね。なんでこんなに恐い顔をしているの? どんな事件が起こってしまったの? 」
「その事件は、代々の日巫女に口伝で引き継がれてきました。私は先代の日巫女から初めてその話を聞いた時、あまりのひどさに心から怒りました。人間として汚い非道なことをした御先祖がいたことを知り、恥ずかしくてたまりませんでした………
………そして日巫女に托されたある指命を知った時、私は日巫女を継ぎたくないと強く思いました。ただ、私の母まで代々のたくさんの日巫女が存在し、立派に指命を果たしてきたことを知り、私の代で日巫女を絶やすことができなかったです。」
「なに、おばあちゃん。日巫女の指命とはアマテラス神を支え仕える巫女として、その転生者に従い守ることでしょ。」
「表向きの指命はそのとおりです。しかし、最も重要な使命があります。これを見なさい―――」
日巫女は巻物箱からもう一つの織物を取り出し、登与に見せた。
「これは……………………………」
登与の両目から、大粒の涙がとめどなく流れ出した。
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