32 黄泉の国へ
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
黄泉比良坂の戦いの後、黄泉の国の女王夜見はしばらくの間、国中の家来に転生者天てらすに手出しをすることを固く禁じた。
転生者が成長して、かつてアマテラス神だった頃の過去の記憶を完全に想い出すのを待とうと思ったのだった。
既に5年が経過して彼は高校生になっていた。
神話高校の朝の登校時間で、全校生徒・教職員、地域の住民にとって非常に有名になっているイベントがあった。
「わー今日の朝も、非の打ち所の無い美形が並んで3人歩いているわ。」
「超イケメンの天君の両隣に、タイプの違う2人の超美少女、日登与さんと夜咲希さんが並んで登校するのよね。」
「ねえねえ、天君って日さんと夜さんのどちらが好きなのかしら。」
「それが不思議だけれど、たぶんあれは完璧に2人とも同じように好きだな。」
歩きながら、咲希が彼に言った。
「てらす様、お願い事があるのですが。」
「どんなことですか。」
「私の姉の女王夜見から、てらす様を黄泉の国に連れてくるよう頼まれました。」
「えっ、それはどうしてですか。」
「単に、会ってお話したいということなんです。」
「そうですか。でも、人間の僕が黄泉の国に入れるのですか。」
「はい、大丈夫です。てらす様は神聖の力をおもちの神の転生者です。ですから、お体は人間の生者ですが、当然黄泉の国にも入って、もちろん、またこの現実世界にも戻ってくることができます。」
その会話に加わるように、登与が咲希にたずねた。
「咲希さん、私も一緒に黄泉の国に行けないの。」
「登与さん、ごめんなさい。『日一族』は特殊な力をもっていますが、人間の生者であることに変わりません。ですから、理に従い黄泉の国に入ることはできません。」
「『闇一族』はなんで自由に黄泉の国と行き来できるの。」
「私達『闇一族』も人間の生者ですが、それに加えて人間の死者である性質ももっています。これまでお話したことがありませんでしたが、もともと死者の性質をもっているがゆえに、特殊な方法でしか死ぬことができません。」
「そうななんだ。込み入ったことを聞いてしまったわ。咲希さん、ごめんなさい。」
「少しも気にしていません。むしろ、『日一族』の長になる登与さんに、私達のことをよく理解してもらうことは大変意味があります。」
「てらす様、どうでしょうか。黄泉の国に来て女王と会っていただけますか。」
「はい。わかりました。咲希さんの姉だったら、きっと悪い方ではないでしょう。それに日の神は、闇を司る黄泉の国に助けていただくことが多いと思います。昼と夜は交互に訪れますから。よく理解しなければ。」
「てらす様と女王は、既によく理解し合っていますよ。」
「えっ、僕はまだ女王と1回もお会いしたことがありません。」
「訳のわからないことを言って、すいません。何か勘違いしていました。」
現実世界の時間が過ぎる前に、一瞬で黄泉の国に行って帰ることができるので、彼は次の日曜に黄泉の国に向かうこととなった。
その日の朝、彼は咲希の家に行き玄関のチャイムを鳴らした。
「はい。」
咲希が扉を開けて出てきた。黄泉の国に向かうための『闇一族』の正装束を着ていた。
「すいません。何か厳粛な服を着て来なければならないのに。あまり服を持っていなくて、普段着のまま来てしまいました。」
「気にしないでください。黄泉の国では服装のことをあまり気にしません。」
彼は家の中に入れてもらい、いよいよ黄泉の国に向かう時間になった。
「私が黄泉の国への通過穴を作ります。その穴を抜けて黄泉の国に入ります。てらす様はなんの苦も無く穴を抜けることができると思います。」
生装束を着た咲希が右手で円を描くと、そこに暗くて先が全く見えない黄泉の国への通過穴が開いた。
「私が先に参りますから、後に続いてください。」
そう言うと、咲希はあっという間に穴に吸い込まれるように、そこから消えた。
「そんなに簡単なことなのかなあ。少し不安だけどやってみよう。」
彼も通過穴の前に立ち、穴に向かってジャンプした。
瞬間移動したようだった。
一瞬で彼は暗くて白い砂が吹き荒れる黄泉の国の中に立っていた。
目の前には咲希が待っていた。
「てらす様。ここから女王の城へ御案内します。」
そう言うと彼を先導して歩き出した。
彼も続いたが、前に咲希から教えてもらったように、常に空間に巣くう死者の魂に引っ張られた。
事前にわかっていたので、彼は少しも驚かなかった。
引っ張られるたびに、その死者の魂の全てを神聖な力で感じとったが、彼は全ての魂のために祈った。
「御成仏ください………」
すると彼が通った後には、多数の死者の魂の光りが天国へ登って行くのが見えた。
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