30 女王の決意7
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
天てらすは神の転生者といえども、まだ人間として幼かった。
だから、黄泉の国に似せて作られた暗黒空間の中で、恐怖に打ち勝ち立っているのはとても大変だった。
空間の中で咲希の声がした。
「どうですか、てらす様。恐怖に勝てますか。」
「なんとか立っています。でもこの状態のままでは、まともに戦えませんね。」
彼は、心の中を整理しようとした。
そして、咲希にたずねた。
「空間に巣くう死者の魂は、永遠にその場所にいなくてはならないのですか、天国に行き輪廻して、また生まれ変われないのですか。」
「いいえ、十年、百年、場合によっては千年その場に巣くい、自分を縛り付けている生前の悔いや怨念を克服して忘れてしまえば、天国に行き、輪廻してまた生まれ変わることができるのです。」
「安心してほっとしました。死者の骨が砂となって吹き荒れ、空間に巣くう死者の魂に引っ張られる世界。確かに恐いけれど、闇の世界も必要なんですね。光りの道だけを歩み続ける人ばかりではありませんから。」
「さすがです。もう御自身の中で恐怖を理解し克服されましたね。次に、私が悪鬼善児に真似て、てらす様を攻撃しますよ。」
すると、空間に悲しい子供の魂の泣き声が満ちあふれ、彼の心の中に悲しいと思わせる子供の魂の気持ちが入り込んできた。
彼はさすがに怒りがこみ上げてきた。
―――僕は、愛情深い優しい両親に育てられて幸せに過ごしてきた。さらに、思いやりのある友人やさまざまな知り合いに囲まれてきた。でも、なんで悲しい子供達がいるの!理不尽!許せない!
心の中で悩んでいたが、そのうち小さいが強い明りが灯り、やがてそれは怒りを全て消して言った。
―――でも、この子供達の魂を縛っているものから解放すれば、天国に行き、輪廻してまた生まれ変わることができる。今度は幸せになれることがわかっている。
「ヒカリアレ、シアワセニツヅク、ミチヨ、アラワレヨ! 」
彼は叫んでいた。その時、その目が黄金色に輝いた。
暗黒空間は一瞬にして吹き飛び、彼は現実空間に戻り立っていた。
「咲希さん。大丈夫ですか! 」
咲希が自分の家の前で倒れていた。
彼が抱き起こすと咲希が目を開けて笑った。
「てらす様、見事でした。私の暗黒空間を吹き飛ばしましたね。」
「はい、咲希さんのおかげで、今度の戦いに勝てそうです。」
黄泉の国では大きな祭壇が作られていて、その回りを数百人の『闇一族』の術者が詠唱を続けていた。
やがて、巨大な光りの柱が現われて、黄泉の国の天を破り上に登っていった。
それを、悪鬼善児も見ていた。
「これで黄泉比良坂を現実世界に架けることができるな。女王様に謁見して報告しよう。」
女王の城の大広間で、善児は謁見していた。
「女王様。全ての準備が整いました。数日後、現実世界に大侵攻します。」
「そうか。今度の戦いで必ず、転生者に人間の悪さ醜さを強く認識させるのだ。そうすれば転生者は怒り狂う神、アマテラス様となり、憎い人間達が暮らしている現実世界を消滅させるだろう。」
「女王様、私も最後に多くの人間の子供達の魂を捕縛したいと思いますが。よろしいでしょうか。」
「わかった。行くが良い。」
「はい。必ず女王様の御期待に答えます。」
善児は女王の前から下がった。
女王は大広間を出て、自分の執務室に戻った。
すると、その中で待っている者がいた。
「咲希。我が妹、このような時に私に会いに来たのか。」
「はい、女王様。今度の戦いの前に、私は女王様の御本心を教えていただくために参りました。」
「そうか、本心とは何を聞きたいのか。」
「転生者天てらす様は、遙か昔から女王様も御存知のとおり、とても優しく思いやり深い素敵な方です。悪鬼善児とはぎりぎりの戦いになります。仮に、怒り狂うアマテラス神になってしまったらどうなされますか。」
「誰にも言っていないことだが、妹のお前だけに教えよう。人間の現実世界が消滅すれば、この黄泉の国も同時に消えてしまう。あの方だけが、永遠に存在することになる。でも我はそうなることは絶対ないと、あの方を信じている。」
「そうですか。でも姉様、怒り狂うアマテラス神になってしまう可能性もあります。」
「ある意味で、あの方と私の復讐が果たされることは悪いことではない。しかし、全てが消滅してしまった後、あの方をたった一人で永遠に残すことは、とても気がかりで申し訳ありません………」
ぞっとするほど美しい女王夜見の顔から、大粒の涙が流れ始めた。
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