29 女王の決意6
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
登与が日巫女に聞いた。
「ところでおばあちゃん。黄泉比良坂は、この現実世界の中のいつどこに架けられるの。」
「てらす君と対峙することが目的だから、少なくともこの市のどこかであることには間違いないです。いつどこに架けられるのか突き止めるのは大変難しいですが、手段がないわけではありません。」
「どんな手段があるの。」
「亀卜を使い占うしかありません。その前に姫様。黄泉の国からこの現実世界に黄泉比良坂をかける場合、何か霊的な準備期間が必要になると思うのですが。」
「はい。黄泉の国で『闇一族』の大勢の呪術者が、理を変える呪文を詠唱します。それは1か月くらい続けなければなりません。」
「基本的に、死者の国である黄泉の国と生者の国である現実世界がつながるのは理に反しますからね。詠唱が既に始まっているとすれば、この現実世界でも少しずつ影響が出始めているでしょう。少し待っていてください。」
その後、日巫女は1人で祈祷室に行き、まず大きな亀の甲羅を取り出した。
そして、お香を詰めた火鉢の中に榊をのせ火をつけて、亀の甲羅をその上であぶり、熱せられるようにした。
日巫女は目をつむり、心を集中させて詠唱した。
「ヒミコガメイジル、コトワリヲミダスチカラ、コノセカイニ、アラワレル、トキトバショヲシメセ。」
やがて、バチーンとした音とともに亀の甲羅にひび割れが入った。
日巫女はそのひび割れを見て、何かを感じ取った。
やがて、日巫女は3人が待っている広間に帰ってきた。
「おばあちゃん。黄泉比良坂が架けられる場所と時間はわかったの。」
「はい。だいたいわかりました。予想どおり黄泉の国では黄泉比良坂を架ける詠唱を始めていますね。この現実世界への影響が、亀の甲羅のひび割れに出ています。」
「おばあちゃんはどう読んだの。」
「生き生きとした命が多く集まる東北の方角の場所、3回目の鬼神が支配する日と読みました。姫様、どう思われますか。」
「はい、生き生きとした命が集まる東北の方角の場所とは、市のスポーツ公園ではないでしょうか。鬼神が支配する日とは、六曜で赤口を日をいい今から3回目に訪れるのは20日後です。」
「僕が準備しなければならないことがありますか。」
日巫女が答えた。
「黄泉比良坂が架けられると、この現実世界はまるで黄泉の国のように変わってしまいます。そういう異常な空間の中で冷静に戦えるよう、経験して慣れることが必要なのですが。」
「それでは、私が黄泉の国と同じような暗黒空間を作りますから、てらす様にその中に入っていただき、経験していただいたらどうでしょうか。それと私が、疑似善児としてお相手します。」
「私の出番はないの。」
登与は何か役割がほしいようだった。
「登与。あなたはアマテラス神に仕える『日一族』の巫女だから、戦いで消耗しきったてらす君が早く回復できるよう、準備してお待ちするのよ。」
「少し地味な役目だけれど一生懸命にやるわ。」
次の日曜日、彼は咲希の家を訪ねると家の扉の前で咲希が待っていた。
彼が門をくぐろうとすると咲希が言った。
「てらす様、もう黄泉の国に似せた暗黒空間を作ってあります。門をくぐると暗黒空間に入ることになりますから、注意してください。」
「はい。わかりました。」
彼は門をくぐった。
たちまち、光りが全くない暗黒空間の中に立っていたが、自分の体が発する光が視界を助けていた。
どこからともなく咲希の声が聞こえてきた。
「光りが遮られ時間も止っている暗闇空間ですが、てれす様は前にきさらぎ駅で経験されていますね。それでは、黄泉の国に似せます。」
すると、砂混じりの泣き声のような風がビュービュー吹き始め、彼が手を見ると真っ白な砂がついていた。
「てらす様、砂は死者の骨がこなごなになった物です。」
彼は少し恐怖を感じたがじっと絶えて、暗闇空間の中を動き出そうとした。
すると、何かが彼をその場に留めようとしているかのように、体のあちこちがその場で引っ張られた。
「黄泉の国の全ての空間には、長い歴史の中で怨念や悔いをもって命が絶えた者達が巣くっています。でも、あまり力はありませんので、あちこちで少し引っ張るだけですから恐れてはいけません。」
彼は思った。
―――恐怖しかない。でもがんばらなくては。
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