26 女王の決意3
一生懸命に作話しました。是非是非、お楽しみください。
鈴の音はとても小さな音だったが、霊力のある2人には聞き取ることができた。
「登与さん、てらす様は何人の子供達の辛くて悲しい一生を夢で見ているのでしょうか。もしかしたら数千人の人生を一瞬で見てしまっているのかもしれません。急いで、黄泉の国からの通過穴の場所を見つけます。」
咲希は感知をさらに進めていたが、やがて、何かを発見したようだった。
「わかりました。すぐに、その場所に向かいます。」
そう言うと、すぐに全速力で走り始めた。
「咲希さん。お手柄ね。」
登与も全速力で走って続いた。
2人は、天てらすの家のそばにある公園の中に駆け込んだ。
公園の隅に桜の老木があった。
近所のみんなが樹木医などを呼んで、一生懸命延命させていたものだったが、ここ1~2週間の夜に、誰かが無残に切り倒していた。
切り倒されているその木の幹のそばに咲希は近づいて、黄泉の国からの通過穴がある場所を確認していた。
登与もそばに近づいて言った。
「これはひどいわね。この桜の老木は春になると自分の命を惜しまず、精一杯の力を使ってとてもきれいな花を咲かせてきた。人間達に楽しんでもらおうとがんばったのに、おもしろ半分に切り倒してしまった人がいるのね。」
「登与さん。この桜は黄泉の国から現実社会に侵入しようとする悪い者達を、何年も食い止めてきた、人間にとっては恩人なんです。よく『桜の木の下には死人が多く埋まっている』というのはほんとうの話です。」
「桜は、黄泉の国に通ずる霊的な場所に接しながら生きているのね。逆にその桜が切り倒され命が絶えた後、悪鬼善児に接点を利用されたのね。」
「今から穴をふさぎます。」
そう言うと、咲希は倒れている老木の幹に手をかざした。
すると、その手から黒い布のようなものが出て来て、幹を何重にも巻いた。
「咲希さんそれは? 」
「登与さん、少し不気味に見えるかもしれませんが。これは、『闇一族』が織ることのできる全てを隠す黒布です。私の『闇一族』としての全ての力を今使って、とても細い糸を作り、瞬時に手の中で織り上げているのです。」
「黄泉の国からの通過穴をふさぐことは簡単?」
「通過穴は現実社会にあるいかなる物でもふさぐことはできません。唯一の方法が、今私が行っているような、闇をもって闇をふさぐです。」
「通過穴を通って、現実社会を行き来している夜見の国の住民もいるかも―――」
「そのとおりです。むしろ、この穴の法が特殊で、本来は登与さんが言ったような目的のために使われています。」
「それならば、あれもそうね! 」
登与はそう言うと、老木の切り株の所を手で示して詠唱した。
「テラセヒカリ、モヤセヒカリ、キリサケヒカリ! 」
「あっちちちちち………」
切り株から抜け出し、古い時代の着物をきた老人が公園の地面に叩きつけられた。
「この『日の一族』の娘め。突然攻撃してくるなんて、なんてことをするのだ。」
それは悪鬼善児の姿だった。
登与の攻撃を受けて力を失っている善児は、小さな角をひたいの両側に生やした本来の姿になっていた。
善児が咲希を見て驚いた。
「姫様、なんでここにいらっしゃるのですか。それも、『日一族』の娘と御一緒だなんて、どうなされたのですか。」
それから善児は倒れている老木の幹を見て言った。
「あ―――っ。まさか、私が密かにここに作った穴をふさいでしまったのは、姫様が織られた黒布ですか。重ね重ね、なんでそのようなことをされるのですか。」
「善児、隠してもしょうがないので、しっかりと伝えますが。私はあなたが昔から、ずっと大嫌いなんです。女王があなたの意見を採用するのが、とても不思議でなりません。そして今日まで、あなたがてらす様にしたことを私は絶対許しません。」
「姫様、いつも私には辛辣なお言葉をいただきますな。でも、とてもいい感じなので私は姫様のことが大好きです。『日一族』の娘よ、ここ数日間神の転生者の様子はどうだったか、数千人の子供達の辛くて悲しい人生を感じて苦しんだだろう。」
「あなたは、全ての女の子に嫌われる典型的な性格ですね。私も登与さんと同じようにあなたが大々大きらいです。てらすは苦しんだけれど、静かな神の心で受け止めました。やがて、子供達の魂をあなたの手元から必ず救うでしょう。」
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