第3章 光の皇子 ー 夕食の宴ー
第3章 光の皇子
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夕食の宴
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「・・・・・・・・・・・」
夕食の宴が始まった。しかし、ツクネはずっと黙っていた。
「アテーナちゃん、こわいよう・・・」
アスランはセイナにぼそっとそう言った。
「当たり前でしょう?ただでさえ記憶がもどってないのに、禊ぎを覗いたりするから。」
セイナはそう言うと、にこやかにツクネに話しかけた。
「ツクネ、アスランはこのあとまた戦場へ戻ります。気持ちはわかりますが、この先またしばらく会えないのですよ。なにか話してあげてください」
「嫌。」
「あ、きらわれちゃった?俺?」
「だって、エッチだし。」
「男なんだから、エッチで結構。」
「セイナは違うもん」
「ばっか、セイナだって見た目は女みたいだけど、ここで神官になる前は、そりゃもう、すごかったんだからあ…。」
「アスラン!」
セイナが横目でにらみつけた。
「食事中にする話じゃないし。」
ルキアもにらみつけた。
「ごめん」
「ごめん」
アスランとツクネは同時に謝ると
「ふん!!」
と、横を向いた。
「ありゃ、りゃ。記憶がなくなってても、やってること一緒だな。」
ルキアがあきれていった。
「そうですね。でも、アスランはそれを楽しんでいるんですけどね。一応、彼は大人ですから。」
セイナは小さな声でそう答えると、アスランにも
「アスラン、このままでいいのか?」
と話しかけた。アスランは「うーん。」とうなると、
「そおだなあ。んじゃ、…よし、気分を変えて、ひさびさにお前と勝負してみっか!!」
「食事中に?」
「いいじゃん。もうすぐ帰るから、今じゃないと暇ないし。他の奴らにも、いい酒のつまみになるだろ?」
そう言って、アスランは剣をとった。
「ほれ、お前も!」
そう言ってアスランはセイナに剣を投げた。
「・・・・・・・・わかったよ。」
セイナは剣を受け取ると、鞘から抜いた。
「おーい!!光の皇子と神官の勝負が始まるぞ!!」
控えていた従者たちが騒ぎだし、別室にいた人々もあつまってきた。
「ギャラリーがいっぱい!!こうでなくっちゃ!!」
アスランはそう言うと鞘から剣を抜いた。剣がきらりと光った。その瞬間、アスランからまばゆい光が立ち上がった。
「おお、これが光の皇子の力!」
見ていた人々が声を上げた。ツクネも息をのんで見つめた。
「さすがだね。戦場で戦っているだけのことはある。」
セイナはそう言うと剣を横にして両手で掲げた。そしてゆっくりと目をつむると
「聖なる剣よ、光の民、月の神官である我に力を与えたまえ。」
と唱え、目を見開いた。すると、セイナからも銀色の光が立ち上がった。
「あ、お前、せこいぞ!!光と月の力、2つもつかったな!!」
アスランが声を上げた。
「別に問題ないでしょ?」
セイナはそういうとニコリと笑った。
「それに、こうしないとお前には勝てないしね。」
「へ、本気だな。じゃ、俺からいかせていただきますか。」
そういうと、アスランは剣を構えた。そして
「いくぞ!!」
というと、セイナに切り込んでいった。
セイナは身構えたが、すぐに流れるように体を翻した。
「感は鈍ってないようだな」
アスランがにやりと笑っていった。
「鍛えてはいるからね」
セイナは笑みを返すと、剣を振りかざした。
「残念。お見通し!!」
アスランは両手で剣を縦に構えるとセイナの攻撃を受け止めた。キーンという鋭い音が響いた。
二人は剣を当てたまま、ぐぐぐと相手を押し合った。
「体力は…あまり使えないんじゃ…なかったっけ?」
「うるへー、こうなったら話は…べつだよ!!」
そういうとアスランはセイナを突き放した。
「うりゃ!!」
アスランは縦に横に剣を振り、セイナの懐を攻撃した。セイナはそれを舞うように次々と交わした。刀のぶつかる音が激しく続いた。
やがて、セイナが後ろに下がり防御の姿勢をとった。するとアスランも後ろに下がって剣を構え直し大きな声で話しかけた。
「なあ!!ちょっと月の力を試させろよ!!」
そして剣を真上に掲げると、呪文を唱えだした。
「・・・我が光よ、剣に宿りて雷となれ・・・・雷光刃!!!」
アスランが剣を振り切るとセイナめがけて剣から勢いよく電撃が飛び出した。
「月光盾・・・・・」
そうセイナがつぶやくと、セイナの前に青い壁ができ、電撃を吸収した。
「なるほど・・・、月の力、すげえ!!さすがだな!!」
そう言うか言わないかのうちに、アスランは飛び上がるとセイナの背後に飛び込んだ。
セイナは避けようとしたが、アスランの動きが速く、身動きが取れなくなってしまった。
アスランは背後から片腕でセイナの体を抱くように押さえると、剣を突きつけた。
「へへ。後ろをとったぜ、セイナ。降参すれば???」
「そうですね、どうしようかな。」
そういうと、セイナはアスランに顔を近づけて急に表情を和らげた。
「な・・・・・!!」
アスランはそんなセイナの顔を見て一瞬とまどい、手元をゆるめた。その瞬間、セイナはアスランを押し倒すと、今度は逆に剣を突きつけた。
「くそっ!!」
アスランはそういって身を起こそうとしたが、セイナが覆い被さり、足をばたばたさせるだけになってしまった。
「どうした?アスラン…降参?」
するとアスランが悔しそうに言った。
「くっそう、ずるいぞ!!」
「なにが?」
「そんな顔。普段は見せないだろ!!びっくりするに決まってるじゃん!!」
「これも作戦のうち…、だな?」
「なんだ、なんだ!!これだから、きれいなやつは嫌なんだ!!鼻にかけやがって!!ちっくしょう!!」
「降参?」
「降参だって?・・・・・・・・・・・いや、まだだね!!」
そう言うと、アスランは腕を伸ばし、セイナの髪をつかんだ。
「!!」
そして顔を引き寄せると、
「ねえ、…キスしてもいい?」
とささやいた。
「ば・・・・!!」
セイナが慌ててアスランから離れるとアスランは高らかに笑った。
「かっかっか!!仕返し、仕返し!!そっちが色じかけなら、こっちも色仕掛けだぜ!!俺は男でも女でも美人ならオッケイよん!!」
「私は無理。やめてくれ・・・・」
セイナはそう言うと、剣を鞘に収めた。
「なんだ、もう終わりにしちゃうの?決着付いてないじゃん!!」
「部屋の中でやったって、本当の勝負にはならないよ。それより、体力はあまり仕えないんだから、この辺でやめておかないと。」
「ちぇっ・・・わかったよ」
アスランも剣を鞘に収めた。
「なになに?どおなったの?どっちが勝ったの?」
二人が剣を収めたので、ツクネは目を白黒させて言った。
「ま、結局、じゃれてんだよ。ひさびさだからさ」
ルキアが言った。
「・・・やあやあ、やっぱ『セイナ様』は強いですねえ~!!」
アスランはちゃかすようにそう言いながら、ツクネの隣に座った。
「ねえ、結局どっちが勝ったの?」
ツクネが聞くとアスランが
「もちろんセイナでしょう?だいたい、俺の腹の上に乗っかるのはセイナと女の子ぐらい…」
「はあ?」
すると、セイナも戻ってきて席に着いた。
「アスラン、余計なことをいうなよ。…それにしても、やはり強いのはアスランですよ」
「どうして?」
「先に後ろを取ったのはアスランだからね。戦場なら、あの時点でセイナは殺されている・・・・だろ?」
ルキアがそう言うと、セイナがうなずいた。
しかし、アスランは苦笑いをしながら言った。
「まあーな。ふつうはな。・・・でも、それでもやられないのがこのセイナちゃんなんだよな。」
「・・・じゃ、引き分けと言うことで?」
「ま、そんなとこ」
アスランはそういうと、注いであった飲み物を一口のんだ。
「お、さすが月の国の酒はうまいな。」
そしてふうっとため息をつき
「・・・・そろそろ、帰らないとな・・・」
とつぶやいた。
「戦場に戻るの?」
「うん。そう。今、中将の一人がやられちゃってばたばたしてんの。」
「だいたい・・・・皇子が戦場にでて、襲われたらどうするの?」
「大丈夫。俺は軍の後陣で指揮をとってるだけだから。
それに王族には王族しか手を出せないの。だって、レベルが違うからね。雑魚が何万人かかってきても、俺を倒すことはできないの。」
「ふーん。よくわかりませんが。…気をつけてね」
「なんか素っ気ないなあ。別にいいですよーだ。そっちがその気なら、俺もそのつもりでいくからね」
「なによ」
「向こうに帰ったら、ボインのお姉ちゃんたちが待ってるんだから。ツクネのことなんか、どうでもいいことにしちゃうよ。」
「げー!!そうなの?」
「『英雄、色を好む』ってやつだよ。」
「はあ?ここでは二股とかそういうの、オッケイなの?なあんだ。」
ツクネはため息を軽くついた。
「あれ?嫉妬とかしないの?」
「えー?
なんであんたに嫉妬しないといけないの?フィアンセって言っても、人が決めたことでしょ。
なんか、ちょっとは期待してたけど、それ聞いたら、どうでもよくなってきた。」
「ええー!!そうなの?待って待ってまって!!」
「・・・・てか、サイテー・・・・。」
ツクネはそう言うと、セイナの方を向いた。
「ねえねえ、セイナ。やっぱ、この人サイテー。本当にこの人とあたし、結婚するの?やだ。」
すると、すかさずアスランが意地悪な声で言った。
「ざんねんでしたあ。それが決まりでーす!!
・・・・それでもあなたは俺と結婚しなきゃなんねーの。
ただ、あなたは俺の正室で・・・・。」
するとセイナが口をはさんだ。
「アスラン!その話はあとで私が彼女に話すから・・・・」
しかし、アスランはセイナの声をさえぎり、続けていった。
「俺の正室・・・・・。だから・・・・。」
そこまで言うとアスランは「ふう・・・・・・・。」と深くため息をついた。そして今までのふざけていた様子から落ち着くと、少しうつむき、ツクネというよりも、自分に言い聞かせるかのようにゆっくりと話し出した。
「あのね。まじめに言うから、よく聞いてね。
俺の持っている物のほとんどは、俺の物じゃなく光の国のものなんだ。
けど、唯一、あなたは俺の正室で、あなただけは本当に俺のもので…。
どうしても、どんなにあなたが嫌がっても、あなたは絶対に俺のもので…。
だから俺は、ずっと、小さい頃からあなたを待ってる。
ずっと、あなたがただ一人、月の国に生まれたと知ったときから。
安らかに眠る小さなあなたの寝顔を見たときから。
それは俺だけの宝物だと思ってきた。
…そして、そんなあなたの存在だけが、俺のすべてだと思ってきた。
アテーナ… 」
アスランはそう言うとツクネの体を勢いよく自分の方に寄せた。ツクネが座っていた椅子ががたんと後ろに倒れた。
「こんなこと言っても記憶がないんだよね。
意地悪してごめんな。
愛してる。」
アスランはツクネの額に優しくキスをした。
周りにいた人たちはただ、黙ってそれを見守った。
アスランはツクネを離すととおでこを指先で軽くこづいた。
「今度会ったときは、もうちっと女を磨いててね。胸もおっきくなってたらいいですな。」
「・・・・・」
ツクネは文句を言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
アスランは席を立つと、
「帰るぞ!!」
と声をあげた。従者がさっと集まった。
「いくのか」
「うん。もう、時間いっぱい。あ、最後にアリュウ。お前まだ、セイナと話してないよな。せっかくだからなんか話せば?」
すると、他の従者の後ろに隠れていた少女が恥ずかしそうに出てきた。
「・・・・・・・」
「アリュウ、あなたの活躍は聞いてますよ。あなたの剣の腕は確かです。どうぞ、アスランを助けてください・・・・」
「ありがとうございます…」
アリュウはそれだけ言うと、顔を真っ赤にしながらさっと従者たちの中にひっこんだ。
「ええー!!もう終わりですか!!」
アスランがつっこんだが、アリュウは首をこくっと縦に振っただけだった。
「ま、そんなもんか。ま、いいわ。・・・じゃあ、いくわ・・・。ベルデ。」
アスランがそう言うと、ベルデが呪文を唱えだした
「古から絶えることなく我らに富と健康をもたらす光の神をたたえ、ここに感謝いたします。
どうぞ我ら光の民を彼の地彼の場所へお導きください。」
「・・・・・・ないで・・・」
その時かすかに声が聞こえた。アスランはその方向を見ると優しく微笑んで
「・・・(いくよ)」
と言い聞かせるような顔をして口だけを動かした。
「飛翔光!!」
ベルデが叫ぶと、まぶしい光がアスランたちを包み、一瞬にして消え去った。
「・・・いかないで。・・・いかないで・・・」
ツクネはそう言いながらほおに両手を当てた。
「ツクネ・・・記憶が・・・」
「いや、わかんない。別に寂しくもなんともないはずなんだけど、勝手に口が、そうしゃべるの・・・。胸が痛いよ。
・・・いかないで・・・・。」
ツクネはそういって膝をついた。涙がぼろぼろと流れてきた。
しばらくの間、その場にうずくまるようにして、ツクネは動くことができなかった・・・・。