第2章 月の神官 ー月の軍ー
第2章 月の神官
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月の軍
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「旅といいますと…わかった!!
あのさ、ほら、勇者がいて、騎士がいて、魔導師がいて、占い師がいて、踊り子とかいて…
で、チームを組んで旅をするってやつだよね?」
涙を拭いたツクネが元気な声で言った。
「何の話だよ。そりゃ。
だいたい、少人数で戦っていたら一発でやられちゃうよ。ばっかじゃないの?」
ルキアがあきれていった。
「国なんだからさ、軍があるにきまってんだろ?ツクネが今までいた、あっちの国にはなかったのかよ?」
「えー?あったっけ?わかんない…。」
「かー!!お前の国は幸せなんだな。国民が自分の国に軍があるかもわからねえなんてさ。」
「月、光、闇…。どの国にも軍があります。
闇は、軍と言うよりも、闇の王を頂点にしたならず者の集まりと言った方がいいのかもしれませんが。
軍ですから、将がいます。光の軍の将はアスラン、闇の軍の将は闇の王、ダーク・クライシスです。そして月の軍は・・・・私が将です」
「闇の王・ダーク・クライシス。
なるほど、もっともそうな名前やね。
でもさ、月の軍ってセイナが将なの?セイナって神官じゃないん?」
そう言うと、大臣が答えた。
「恐れながら申し上げます・・・・。セイナ様は光の皇子と同じように力を持っていらっしゃいます。光のアスラン皇子が戦にいって姫を守れない以上、皆、セイナ様にたよるしか・・・・。」
「・・・・神官は神に仕える者ですから本当は将にはなれません。しかし、今は一大事です。姫を守るためには、私が月の将にならざるを得ないのです。」
セイナはそう言うと片手を上げた。
「こちらへ来てください。」
すると3人の男女がやってきて玉座の前に立つと一礼をしてひざまずいた。
「紹介しましょう。私達の軍を支える3人の中将です。」
すると中将たちが順に名乗った。
「私はアンガスです。力を使うことを中心とする部隊をまとめています。」
「私はイシムです。魔法と救護を中心とする部隊の将です。」
「俺はカイドウ・・・・。剣の部隊をまとめている。」
「そして…、その3つの部隊に属している人間を合わせると、60万人の軍になるのです」
「ひえー。60万人?」
ツクネは驚いて言った。
「いえ。多くはありません。少ないのです。光の軍には200万の兵がいます。
闇のほうは…わかりません。だから月は逃げねばなりません。逃げながら追ってくる敵とだけ戦う。そうして剣を探し出す旅をするしかないのです。」
「えー。本当に大丈夫なの?」
「言ったでしょう。私はあなたを守ります。たとえ60万人の人間が命を落とし、残った人間があなたと私、二人だけになったとしても、私はあなたを守り抜きます。」
そう言ってセイナはにっこりと笑った。
「でも、ま、その前に、光の軍があなたを救いにやってくるでしょうけどね。アスランはアテーナ姫を、…とても愛していますから。」
「へえ。ところでさ、アスランて、たぶん、超かっこいいんだよね。どんな人?」
「ぶっ!!!」
ルキアが吹き出した。
「アスランはセイナの弟なんだぜ。男前にきまってるだろ!!なんて聞き方なんだよ。」
「えー。だって一応、私の婚約者なら、知っておかなきゃいけないじゃん?
やっぱどんな人かなーって気になるじゃん?」
「そうですね、彼は…」
そう言ってセイナは少し黙った後、口を開いた。
「光の皇子にふさわしく、明朗で活発…といったところでしょうか。
誰もが彼の生き生きとした姿にあこがれを抱きます。もちろん、アテーナ姫も。」
「両思いなの?」
「当然です」
「どうかな?」
「ルキア…」
そう言ってセイナはニコリとした。
「きれいな金色の髪、圧倒されるオーラがあるというか…、
誰もが彼になりたいと思います。もちろん私も彼にあこがれてますよ。」
「セイナもあこがれてるんだ。」
「ええ、とても。
ただ、彼は皇子としては完璧ですが、王になるにはまだまだ若く、未熟な面があります。
ですから彼が立派な王になるよう、時々苦言を言うのも私の役目でしょうか。」
「ふうん。会ってみたいなあ…。アスランに」
「ええ、会えますよ。あなたがこちらの世界へ戻ってきたことを知らせる使いを出しましたから。
さて、旅の話に戻りましょう。大臣」
そういうと、大臣が進みよってきた。
「この世界の地図です。姫、こちらへ。」
何人かの兵士が大きなテーブルを部屋に運んでくると、大臣はその上に大きな紙を広げた。
そしてツクネが玉座から降り、テーブルをのぞき込むと説明し始めた。
「この世界には7つの国があります。一つはここ、月の国。そしてこちらの大きな国が光の国です。」
「わあ、光の国って世界の3分の1ぐらいあるじゃん」
「ええ。そして、地の国。水の国。風の国。火の国。わが月の国を含め、小さな国たちは光の国を中心として連携を取りながら世界を支えています。」
「なるほど、これがまた、集めて3分の1ぐらいなわけね。」
「俺は火の国から来たんだぜ」
ルキアが言った。
「ルキア様は火の国を収める火竜族の長の孫。そのご身分は、この国で言うところの皇子といっしょでいらっしゃいます。今、アスラン皇子とともに戦っていらっしゃる長とともに火の国を立て直すために、この国へいらっしゃったのです。」
「へえ、あんたも王族だったんだ。どうりでチビのくせに態度がでかいとおもったよ」
「態度がでかいんじゃないやい!ツクネが生意気だから、同じようにしてるだけさ!!」
「むっ・・・・」
「まあまあ、お二方。この老人に話の続きをさせてください。
この小さな国々の中では月の国が一番大きく、人々の暮らしも豊かでございます。ですから、光も闇も、月を無視することはできません。とくに今回のような、月の皇女が光の皇子と結ばれ、一時的に二つの国が一つになることは、闇にとって大きな脅威なのです。」
「脅威。そういえば、セイナもそう言っていたね。」
「はい。なぜなら光の国は光によって世界を和へ導こうとします。
しかし、闇の国もしかり。闇によって世界を統一しようとしているのです。
ですから、光と闇の狭間にあるこの月が光と結ばれることは、闇が世界を統一するための隔りとなります。闇は今、それを阻止しようと必死なのでございます。」
「なるほど、それであたしをねらっている訳ね。」
「はい。」
「それで、闇の王を倒すには…聖域剣だったけ?それでしか倒すことはできないの?」
「はい。ただ、『倒す』という表現は適切ではないかもしれません。ただ王を倒しただけでは闇の国の民衆は王亡き後も我らには従わず、混沌を招くだけになりましょう。
正確に言うと、闇の王の力を封印し、闇をまとめる王を先頭にして、闇の民すべての意識を我が国に屈服させる、ということになります。」
「ふうん、なんか複雑。ゲームのようにはいかないもんだね。力を封印かあ。封印。あっ!!大臣、話変わるけどさ!!」
「は?」
「なんで、アテーナ姫はあっちの世界に封印されてたの?」
「はあ。」
「おい、おい、おい、話の腰を折るなよ。ったく。」
ルキアがふてぶてしく言った。
「いや、だって、急に思い出しちゃったんだもん。なんであたし、あっちの世界にいったの?」
「それは…」
大臣とルキアはセイナの方をちらりと見た。セイナはゆっくりうなずくと話し出した。
「実はアテーナ姫はご自分で自分の心と体に封印をかけたのです。自分の力で記憶をなくし、そして異世界へ行かれた。」
「なんで、そんなめんどっちいことを?」
「姫があちらの世界へ行ったのは、そうですね、きっと寂しかったからじゃないでしょうか」
「は?」
「戦いが始まり、アスランともなかなか会えなくなり、姫はふさぎ込んでいらっしゃいました。
ですから、苦しい思いをしないために、自ら封印をされたのではないかと。」
「はあ。なんじゃそりゃ。
気が強いって言われる割には意外とデリケートなのね。あたし・・・。
やっぱり、そういうとこ、あたしだわ・・・。」
「ええ。でも、時が来たのでこちらの世界へお戻ししました。実は、聖域剣「星龍」がある場所の見当がついたのです。」
「へえ!どこどこ・・・」
「地の国のはて。深名の泉」
「はあ?なんじゃ、そりゃ。へんな名前・・・」
「その泉の中に剣があるのではないかと、火竜の長が・・・。そちらの方角に確かな聖域剣「星龍」の波動を感じるのだそうです」
「俺も感じるぞ!!」
ルキアが言った。
「地の国からなにかが呼んでいるような気がするんだ。絶対、そこに聖域剣はあると思うぜ」
大臣はゆっくりとうなずいた。
「火の国の方々が言うのですから、間違いないのでしょう。
しかし、地の国に行くためには、かなりの難があります。地の国に行くためには、水の国、風の国を超えていかねばならないからです。水の国は我々との提携も深い。しかし、風の国は、中立国です。闇の国とのつながりも深い。地の国にいたっては、光の国派と、闇の国派に別れております。ですからこの2つの国がどこまで我々に協力してくれるか。」
「でも、行くしかないだろ?」
ルキアが言うと、大臣はうなずいた。
「…そうですね。」
「しぇー、やっぱ、行くんだ。げげっ。」
こわごわと言うツクネを見てセイナがくすっと笑った。
「出発の時期については、部会議を経て、軍会議にかけてからになります。たぶん、もうすぐ満月ですから、その宴が終わってからになるでしょう」
「満月で宴。お月見ですか?」
「お月見…というのはわかりませんが、我が国では2ヶ月に一度の満月の夜に、月の神をたたえ、宴を開きます。それは、私達月の国の民にとって、とても神聖な儀式でもあります。ですからその儀式が終わってから出発することになるでしょう。
「満月の宴」の際には、姫様は民の前にでて、この国の平和を願う祈りの言葉を言わねばなりません。どうぞ、考えておいてください。」
「えええええ!!!!なんじゃそりゃ!!!」
「ばっかだこいつ。ほんとにアテーナ姫の自覚ねーの。」
のけぞるツクネを見て、ルキアがあきれていった。
「そう、それと、たぶんその時に合わせてアスランがやってくると思いますよ。」
「くるかな」
ルキアが意味深な言い方をした。
「きますよ。彼は。」
セイナがにっこりと笑った。
「なーんか、さっきから変な感じ。ねえ、本当にアテーナとアスランって両思いなの?」
「両思いがどうとかっていう以前の問題で。犬と猿。」
「ルキア」
「え??犬と猿???」
「ま、そのうちわかりますよ。
でも、どうあっても、アスランはあなたを愛している。以前のあなたも彼を愛していた。
それだけは、知っておいてくださいね」
「うーん???」
「では、今回はこれで終わりにいたしましょう。控えている中将たちも、部隊に戻らねばなりませんし、姫さまは禊ぎの準備ができております」
「禊ぎ?」
「はい、癒しの泉にて体を清めていただきます」
「冷たそう・・・」
「いえ、ここは火の国に近いですから、泉の水は火にかけなくとも自然と温かいのです」
「・・・・つまり、温泉なのね。つうことはお風呂か」
「泉へは侍女がお連れいたします。サラ・・・」
するとサラが進み出てきた。
「では姫様。参りましょう」