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第一章  非現実 ー月の宮殿にてー

第一章  非現実

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月の宮殿にて

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「ちょっと! 何なん?これは!」


しばらく気を失ったツクネは、ベッドから起きるなり声をあげた。



「いったい何なのあんたたち! まじ最悪!」


すると10才くらいのやんちゃそうな男の子が呆れたように言った。


「って言うか、お前こそなんだよ、そのきったない茶色の髪!本当にお前があのアテーナ姫なのか?信じられないよ!」


「何よ、このちび、てか、家にかえせ、ばか!」



「かー! セイナ・・・・。どうしよう。信じられねー」



すると、しばらくツクネを見ていた男が口をひらいた。



「・・・・いや。やはり彼女ですよ」


そしてベットに近づくと腰をおろし、ツクネのおでこに手を当てると、その前髪を優しくかき揚げた。



「な、何よ」


「失礼…。訳は後で話すから…。」


そしてそのまま男はしばらくツクネの顔を覗き込んだ。


長い銀色の髪…女性のように美しくりりしい顔立ちに吸い込まれそうになり、ツクネは一瞬息をのんだ。


そして一言だけ


「…イケメーン。」


と、呟いた。



「・・・イケメン?なんだそれ?それより、お前、本当に姫なのか?なら、セイナを思い出さないなんて許せないぞ!セイナは…」



男の子が息を荒くして、ツクネに食いつくように話すのを制し、セイナと呼ばれた男は優しく静かに言った。



「ありがとう。ルキア……彼女は確かにアテーナ姫ですよ。あなたが言うように、長年彼女のそばにいた、この私が言うのだから間違いない。」





「アテーナ……姫????」



「ええ…。おかえりなさい。アテーナ姫。」



そう言って優しくわらう男の姿が美しく少し寂しげに見え、ツクネはなぜかそれ以上わめく気がなくなってしまった。



「・・・・うーん。何だかよくわかんないんですけど。


でも、ま、おかしいけど、怖いタイプの拉致じゃないみたいだから、質問するけど・・・?


何であたしここに寝てんの?

まず、それがちょっとよくわかんない。

いきなり、アテーナ姫ってのもさ。

……あたし、日本人だし。横文字わからんし。

まじの拉致なの? なんかの企画なの?

まずはこれってどういうことなのか、説明してよ。」



男のペースに引き込まれるように、落ち着きを取り戻しながらツクネが言うと、男はにっこりと微笑んで言った。



「ありがとう。…君の名前は…」



「あたしはツクネ。でも、苗字は内緒。個人情報やけんね。わかるでしょ?

 で、年は・・・今、高二。17才ってこと。で、そっちは?」


すると少年が少し怒って答えた。


「そっちって…言うな!

セイナは月の国の神官で、もちろんお前より年上だ!アテーナ姫の兄役として、姫がちいさいころから側にいたんだぞ!」


「月の国の神官で兄役ですか…。

へえ。そう。すごいんだ!! 丁寧なご挨拶ありがとう。


…なあんてね。つうか、ごめんなさい。何いってんだか、ちっともわからんのやけど。


…で、チビ、あんたは?」


「ちびー!!おまえ、よくも俺をちびっていったな、俺はこれでも火竜族の末えいだ。お前にチビ呼ばわりされたくはないぞ!!」



「はあ?それは失礼いたしました。


…うーん、火竜族ってなんですかあ?って感じ。


やっぱりご丁寧な挨拶の割に、言ってることわけわかんないし。


…なんだか、あれ?「ドラゴン何とか」とか「ファイナル何とか」みたいなやつ?ゲームの世界に来たみたいな…。 」




眉をひそめて頭をかかえるツクネにセイナが申し訳なさそうに言った。




「ごめんなさい・・・・・。あなたが戸惑うのは無理もありません。ここは貴方が今までにいた世界とは違う世界なのですから」


「違う世界?ああ、やっぱそう?やっぱ、変だよね?

だってさ、あなたたちの格好やこの部屋の様子を見ても、日本っぽくないな。と思ったのよね。


に、しても、違う国とかじゃなくて、違う世界なわけね。ここ……。


そうか、そうかあ。


でも、そういうのに興味ないのよね。わからんわあ…。」



 訳がわからず、半分ふざけたようにして言うツクネに、セイナがなだめるように言った。



「ツクネ…。ごめんなさい。今のあなたにとっては本当に突然のことで…。



 理解できないとは思いますが、聞いてくださいね。


 実はあなたはこちらの世界の人なのです。ですが、訳があって、あなたは今までいた世界に封印されていました。


こちらのことを覚えていないのは、向こうの世界にいく時に一時的に記憶を失ったからです。

そのうち、こちらの記憶がもどればすべてわかることでしょう……」



すると、ツクネはのけぞって言った。


「げー、それはどういう…?

 こっちが現実で、あっちが仮の世界とでもおっしゃる???」



「ええ、そうです」



「そして、このあたしが、この世界の姫だとおっしゃる???」



「ええ、そうです」



「・・・・・・・・・・。」


ツクネは頭の中が真っ白になってしまった。半笑いをしながら目を白黒ツクネツクネに、セイナが申し訳なさそうに言った。



「驚くのは当然のことです…。

 

 本当はもっと話さねばならないことがありますが、しかし、今戻ってきたばかりのあなたに話しても混乱を招くばかりでしょう…。


 とりあえず今日はここでゆっくりと休まれてこの世界の空気にもう一度なじんでください。記憶は無くてもあなたの身体は覚えていますから、きっと少しずつ気持ちが落ち着いてくるはずです。


それを待ってもう一度話しましょう。」


「休むって・・・・。だいたいさ、この豪華な部屋はなんなん?」


「月の国の宮殿。アテーナ姫の部屋。つまりあなたの部屋になります。

なにかありましたら、こちらにいる侍女たちにおっしゃってください。

なるべく不都合のないようにしますから…」


 セイナがそう言うと、後ろで控えていた侍女達が深々と頭をさげた。


「侍女って?おいおい?」


 戸惑うツクネをよそに、セイナはベットから立ち上がるとそのまま部屋のドアに手をかけた。するとルキアが少し開いたドアの隙間をすり抜けるようにして部屋の外へ出て行った。


「では、おやすみなさい…。ツクネ。」


「ああああ!!!まって!!ちょっと、ちょっと、ちょっと!!。

…その、言いたいことはわかったんですけど、かなり一方的過ぎなんじゃない?


あたしにもとりあえず家族がいるんだよね。きっと心配してあたしの帰りを待ってると思うんですけど・・・。


あのー、これってやっぱ誘拐じゃないのかなー?…なんて。


とりあえず、帰れそうにないならさ、連絡ば、させてよ。連絡。」



すると、セイナは静かに言った。


「連絡はしなくても大丈夫です…。

・・・・もともと向こうの世界にあなたはいなかったわけですから、あなたがこちらに戻ってきた時点で周りの人の記憶はなくなっているはずです。」


「えー。うっそお?じゃあ、私の家族は?」


「…ごめんなさい。ツクネ。あなたは封印されているあいだも向こうの世界で暮らしていけるよう、記憶を変えられているのです。

向こうの世界のあなたは仮初めの姿…。

とにかく今日はゆっくり休まれてください。そうすれば少しずつわかってきます。」




そう言うとセイナは部屋の外に出た。


「さあ、あなた方も・・・・」


セイナがそういうと、侍女達が頭を下げながら一人一人部屋の外へ出て行った。


「うそ・・・・うそ・・・・・。うそだよね。信じられない・・・・。

ちょ・・・。これはまじか?助けて。」


ツクネは独り言のような声で助けを求めたが、侍女達は皆打ち合わせたように反応をしなかった。

そして、最後の一人が部屋を出て、ドアがゆっくりと閉まると同時に、ツクネは慌ててベットから跳ねるようにして起き上がり、ドアのところへ行くと大声で叫んだ。



「ちょっと、連絡させてよ!!連絡させろー!!

お母さん、お父さん・・・・冬野先生・・・・冬野先生!!!

助けて!!!!うわー!!」


ドアのノブを何度か動かしたが、鍵がかかっているらしく、ただガチャガチャと空回りをする音だけが響いた。

それでも、ツクネは何度もドアを動かし、たたきながら延々と喚いて泣き続けた。


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