5話 ダンジョンでの試験 ②
「ちょっと止めろよお前ら!
仲間同士で殺し合うなんて、どうかしてるゼ!」
僕達の争いを見兼ねたのだろう。ロシュが慌てた様子で止めに入った。
うん、ミアは今にも切り掛かって来そうだったし、僕も即座に彼女の右肩を内部爆破する所だった。
こんな序盤でメンバー同士のイザコザによって怪我人が出れば、中間査定の点数に響くだろう。
ロシュの日和見な所に救われたな。
「獲物を取って悪かったよ。
今回の中間査定は、パーティーで共闘する事が重視される。
僕は魔物を無力化するから、皆んなで攻撃してくれ」
「ふ、ふん!仕方ないわね。
どうせアンタは雑魚なんだから、最初からミアの邪魔をしないでサポートに徹すればいいの!」
ミアは本当に、こういう他者を見下す言い方しか出来ないのかな?
嫌われ者の僕が言えた事では無いけど、クラスの人達が彼女を避けるのも頷ける。
僕は高飛車なミアの言葉に言い返す事はせずに、倒したオーク達の魔石を拾って、学院から貸し出されているマジックバッグに回収した。
このマジックバッグは高価な魔導具で、大きさは800㎥、重さは50tまで収納できる。
このマジックバッグは、成績上位10位内の卒業生に贈られるんだとか。
さて、色々と序盤でゴタついてしまったけど、僕達は気を取り直して探索を続けた。
先程ミアに話した通り、僕は魔力操術で魔物達の動きを封じて、ロシュ、ミア、セレナ、モネに順番で仕留めさせて行く。
最初はビビっていたロシュ、セレナ、モネも、魔物の動きが止まるという現象に慣れたようで、4階層に降りる頃には躊躇なくトドメを刺せるようになっていた。
さて、いよいよ5階層のボス戦だな。
殆どのダンジョンは5階層毎にボス部屋が有って、ボス部屋を出た直ぐの小部屋に帰還用の転移魔法陣と、下の階層に移動する魔法陣、そして水晶型の魔導具が設置されている。
水晶型の魔導具に冒険者証や学生証を翳してから帰還すると、次にこのダンジョンに来た時に小部屋からスタート出来る。
ボス部屋を出た所にある小部屋は、『セーブポイント』と呼ばれている。
ボス部屋の無い階層で探索を断念した場合は、来た道を引き返して自力で帰還しないといけないけど、目標階層のボスを討伐出来れば、帰還する為に労力を割く必要は無い。
以上の理由から、冒険者がダンジョンに潜る時は、5階層を一区切りとして探索する事が多いのだ。
そして、今僕達は最初の区切りとなる5階層のボス部屋の前に到着した。
道中はサクサクと進んだので、皆んなの体力的な消耗も殆ど無い。
今はボス戦の前に、軽い休憩がてら、各々の装備品の損耗具合を確認している。
「道中の雑魚は、エリスがズルして動けなくしてたけど、5階層のボスはDランク中位のジャイアントオークよ?
本当に動きを止められるの?」
「ズルじゃなくて、魔力を使ったハッキングって言っただろ。
ジャイアントオーク程度なら、オークと変わらないさ。
その気になれば、速攻で体内から爆破出来るよ」
道中のオークやホブゴブリンは、魔力操術で連中の魔力循環にバグを起こす事で動きを封じた。
魔力の使い方が雑な低ランクの魔物であれば、動きを封じる事も体内で魔力暴走を引き起こす事も簡単なのだ。
「ほ、ホントに?オークキングも動かないの?」
「オークキングなんかに犯されたら、一発で孕まされちゃうよ?」
相変わらずセレナとモネはうるさいな。
女2人で姦しいって中々だぞ。
しかも、モネは直ぐに犯される事を連想する。精神を病んでしまったのだろうか?
「フン!まぁ、オークキング程度だと、ミアの事を犯すどころか指一本触れる事すら出来ないから。
ミアを犯す権利が有るのは、イケメンのSSSランク冒険者くらいよ。
エリスはイケメンだけど雑魚だから、ミアを犯すのは諦めなさい」
別に僕はイケメンでも無いし、ミアを犯す気も無いが?
どうやら、ミアにもモネと同じ病気が発症しているらしい。
そもそもSSSランクになれたのは、1,000年前に魔王の侵略を退けた伝説の勇者パーティーだけだ。
この先誕生するかも分からないSSSランク冒険者と出会うよりも、白馬に跨った王子様と出会う確率の方が遥かに高いだろう。
僕は溜め息をつきながら、自分の装備品の確認を続けた。
◇◇◇◇◇
全員装備に不備がない事を確認したので、ボス部屋へと入った。
他のパーティーも別ルートで探索しているが、どうやら僕らが一番乗りのようだ。
オークキングが既に部屋に居る事がその証拠で、今日はまだ誰も討伐していないという事になる。
僕は即座にオークキングの耳と鼻の穴から、微弱な魔力を流し込む。
やはり、キングでも魔力循環のさせ方が大雑把だな。
魔力を宿す生物は、人間だろうが魔物だろうが、身体の隅々まで魔力を血液のように循環させている。
僕がやっている事は、その魔力循環を身体の負担になりやすい魔物の魔核付近で滞らせるという方法だ。
魔核は人体では心臓に当たる。
魔力循環は意識して行わないと、他者の魔力が一定時間混入するだけで不調を来す。
僕の魔力操術を破る為には、侵入した僕の魔力に、体内で意図的に自身の魔力をぶつけて、体外へ追い出すしか無い。
でも、魔力循環や魔力操作が稚拙な低ランクの魔物には、そんな芸当が出来ない。
Dランク程度のオークキングなら、余裕で動きを封じる事が出来る。
僕がオークキングの魔力循環を妨げると、キングは地面に膝をついた。
「はい、動き止めたよ。
先ずはタンクのロシュが片手剣で四肢から削って。
ロシュの次は、セレナの攻撃魔術とモネの矢で胸部を中心に削って。
トドメはミアの剣術で胸部の魔核をブチ抜いてくれ」
「そんなメンドい事しなくても、ミアの剣で一撃でやれば早いじゃない」
ハァ…ミアは座学の授業は苦手なんだろうな。
初歩的な事も頭に入って無いとは。
「ダンジョンアタックでは、常に武器の損耗に注意しろって教わったろ?
ミアの攻撃力は物凄いけど、ジャイアントオークは体表の組織が硬いんだ。
ある程度削っておかないと、その剣じゃ10階層までミアのパワーに耐えられないかも知れないよ?
それに、パーティーで共闘しなければ、点数は低くなる」
「そ、それくらい知ってたのよ?
そう!ミアのパワーは凄いから。
伝説の聖剣じゃないと、本気のミアを引き出せないもの。
エリスもようやく分かって来たみたいじゃない?」
ミアは脳筋だな。
彼女は魔力循環、魔力操作、魔力制御をしっかりとすれば、魔力による身体能力強化の上昇率が上がって、より効果的に剣が振るえるし、剣に魔力を纏わせて耐久性を強化する事も出来るのに。
まぁ、偉そうな態度の人に教える気なんて無いけどね。
5階層ボスも、僕の指示通り動いてくれたメンバーが、サクッと倒してくれた。
僕は、ドロップアイテムのキングスキンと魔石をマジックバッグに回収して、メンバーの装備品に損傷が無いかチェックする。
さて、装備品に損傷は無かったし、6階層に進みましょうか。