4話 ダンジョンでの試験 ①
今日は2年生の中間査定の実戦試験。
僕は今、Dランクダンジョンを探索している。
クラスの中で5人1組の簡易パーティーを組んで探索するんだけど、クラスの爪弾き者の僕は同じような余り者で固められたパーティーだ。
先日は座学の筆記試験で、マック達に妨害されたからな。今日は変な難癖を付けられずに、実戦査定を終えたい。
僕は成績は学年上位だから頼めば入れてくれる人達も居るはずなんだけど、クラスの中心的なポジションのマックとレジーナが裏で手を回したらしく、皆んなが僕と距離を置いていた。
僕が成績上位なのが気に入らないなら、自分自信を高めて成績上位になって蹴落とせば良いのに。
仮に妨害行為で僕がトップ10から落ちても、アイツらがトップ10に入れる訳じゃないんだけどな。
どこまでも愚劣な連中だよ。
「わ、わたし達だけじゃあ、10階層のボスを討伐するなんて無理ですよ」
「うん、うん。せいぜい2階層止まりだよね。怪我しない内に棄権しよ?」
余り者組のセレナとモネが、早々に弱音を吐き出した。
この2人は素行の問題で、クラスの女子から嫌われているらしい。
まだ2階層なのに根を上げるとは…よくコイツらが進級できたなと思う。
今回の査定は最終目標が10階層であって、途中で棄権する事は禁止されてない。
にしても、2階層でリタイヤは有り得ないと思う。
「バカな事を言わないでくれ。
中間査定でビリになったら、卒業査定で挽回するしかないんだよ?」
僕は弱音を吐くクラスメイトに発破をかけた。
2階層なんかでリタイアしたら、間違いなくビリになってしまう。
「いや、でも、2年になって急に査定の難易度上がり過ぎだろ。
去年の進級査定はEランダンジョン中階層だったんだぜ?
せいぜい今回はDラン3階層が順当だ」
僕の言葉に反発したのは、盾戦士のジョブを持つロシュ。
前衛で敵の攻撃を防ぐ役割のくせに、異常なまでのビビりだ。
警戒心や恐怖心を持つのは良い事だけれど、それで腰が引けてしまうのはかなりマズい。
ロシュは学年最下位を争う劣等生のようで、やはりクラスの連中から相手にされてない。
『挑発』や『シールドバッシュ』、『カウンターアタック』と言った有用なスキルを持ってるのに、何とも勿体ない男だ。
「フン、雑魚どもは隅で怯えていると良いわ。
このミアの華麗な剣技で、Dランのボス如き瞬殺よ」
この偉そうな女子はミア。
成績は学年9位で優秀なんだけど、貴族家の連中すら見下すほど傲慢な態度なので、やはりクラスでは除け者になっている。
成績で僕と競っているので、かなり敵視されているみたい。
彼女が僕のように陰湿な嫌がらせを受けないのは、彼女の凄まじい剣技と、容姿端麗なところだろう。
「エリス、今回こそは貴方を圧倒して見せるわ」
「その略称は辞めてくれってお願いしたよね?
女の子みたいで本当に嫌なんだ。
せめてランディと呼んでくれないかな?」
「ふん、いつものようにズルをしないでミアに勝ったら、エリスの言う通りにしてあげる」
う〜ん、やはりこの上からな感じは苦手だなぁ。
普通に話せば、良い人だとは思うんだけど。
ミアはピンクゴールドのロングヘアも綺麗だし、目もパッチリとしていて大きい。
肌も白くて綺麗だから、普通の態度なら絶対クラスの人気者だろうに。
「きゃあっ!オ、オークが来た!」
「いやぁぁぁあ!豚人間に犯される!!」
セレナとモネが喧しく喚き立てる。
この2人は、本当に冒険者になる気持ちが有るんだろうか?
ダンジョン内のオークは地上に蔓延っているオークと違って、人族を犯したりしない。ダンジョンの魔物は、侵入した人間を殺す事のみを目的としているのだから。
これは一説によると、人間の魔力をダンジョンコアに取り込む為だと言われている。
「ミアがヤるから!!」
剣聖のミアは、獲物を見ると直ぐに突っ込む癖があるようだ。
罠が有ったらどうするんだろう?
僕はすぐに周囲に展開している魔力を操作して、3体のオークの鼻の穴から自分の魔力を注ぎ込む。
ドバシュッ!ボフンッ!ビシャアァ!!
途端にオークどもが体の内部から破裂した。
オークの死体は黒い粒子の魔素となって、討伐した僕の体へとその魔素が吸い込まれて行く。
全ての魔素が吸い込まれた直後、僕の学生証が光り出した。
この学生証や冒険者プレートは、古代の技術をベースにした魔導具で作られているようで、魔物を討伐した際の貢献度が記録される。
今の戦闘は、僕の単独撃破となったようだ。
まあ、オークはEランクの魔物なので、大した事は無いんだけど。
「あぁ!またズルして倒したでしょ!
エリスは、正々堂々とミアと張り合おうと思わないの?」
「正々堂々と討伐したけど?
大体、君らは魔力制御や魔力操作を疎かにし過ぎている。
君がちゃんと体内魔力を有効活用出来ていれば、僕の『魔力操術』に遅れを取らないハズだよ」
「ハ…ハッキング???
何訳分かんない事を言って誤魔化してるの?
あんまり舐めた事をするなら、アンタから殺しても良いのよ?」
ミアはそう言うと、全身に魔力を漲らせた。
そういう無駄な使い方をするから、オーク相手にモタつくと言うのに。
いくら剣術スキルが凄くても、実力を活かしきれてない。
「ハァ…君が僕を殺す気なら手加減はしない。
すぐに戦闘態勢を解除しなければ、君もさっきのオークみたいに、体を破裂させるよ?」
僕は先程と同じように、周囲へ薄く展開している魔力を操って、ミアの鼻と耳の穴から少しずつ流し込んで行く。
ホントは人に魔力操術を使いたくないんだけど、僕を殺すつもりならそうも言ってられない。
ミアは薄っすらと違和感を感じ取ったようで、顔色が悪くなっている。