35話 新生『魔術的兄弟』
「ミア、そっちに2体行ったよ」
「ハ〜イ!えいっ!」
素早い身のこなしで、ミアが一瞬の内に2体のオーガの首を刎ねる。
夏休みの残り1ヶ月を冒険者活動に充てる事にした僕たちは、引っ越しを終えた翌日からCランクダンジョンに潜り始めた。
1つ上のBランクダンジョンにまで潜る事が出来るんだけど、新メンバーのフィリスとの連携を練っておきたかったのでCランクにしたという訳。
今は14階層まで来ており、僕とミア、フィリスの前衛3人で7体のオーガの集団を屠った所だ。
フィリスは魔法を使うのかと思ったんだけど、人化している時は槍術を主に使うという事で、前衛に組み込んだ。
槍はかなりの腕前で、オーガ程度では準備運動にしかならないようだ。
「フィリスさんの槍は本当に凄いね!
目で追いつかない程早いし、パワーも凄い」
「ありがとうございます。
これも、ベティ様の支援魔術の精度が高いおかげでございますわ」
「やっぱり分かっちゃう?
わたしの凄さって、実力のある人には丸分かりなのよね〜」
ベティがフィリスの誉め殺しによって調子に乗っているけど、恐怖心にかられ易くなるダンジョン内では、今のような明るい雰囲気で挑める方が、プラスに働く事が多い。
当然油断は禁物なのだけど、ベティに関しては心配の必要が無い。
現にこうしている間も、一切索敵を切らしてないからだ。
その後も全く苦労せずに、サクサクと探索は進んでいった。
そして、いよいよ今日の目標である15階層のボス部屋前に着いた。
各自装備品の損耗チェックをする所なんだけど、ここまで魔物の攻撃が掠りもしていないし、武器は魔力で強化しているので全く問題ない。
「さて、ここのボスはオーガジェネラルだけど、どうしようかな?
僕の魔力操術で動きを封じてサクッとやっちゃう?」
「それだと連携の練習にならないから、普通にやった方が良いと思うんだぁ」
確かにミアの言う通りだ。
楽をし過ぎるのは、成長の妨げになるからな。
「僕が魔術で援護する。
ランディは右サイドから、ミアちゃんは左サイドから敵の四肢を中心に攻撃。
フィリスさんはオーガジェネラルの背後に回って、左肩甲骨と背骨の間にある魔核を突いてフィニッシュにしよう。
ベティは引き続きバフを宜しくね」
リーダーのレインが的確に役割を割り振った。
さて、血湧き肉躍るボス戦と行きますか!
◇◇◇◇◇
「『雷光槍』」
レインが攻撃魔法を放つと同時に、僕はオーガジェネラルの右サイドへ、ミアは左サイドへ回り込む。
『雷光槍』はオーガジェネラルの右胸を抉り、そこから全身に雷撃のダメージが広がる。
オーガジェネラルは全身を激しく痙攣させた。
中級魔術に相当な魔力が込められて居ないと、オーガジェネラル級のボスを一撃で行動不能にする事は出来ない。
レインの魔力制御と魔力操作は、夏休み前よりもかなり上がっている。バカンス中もサボらずに厳しいトレーニングをして居た成果だと思う。
レインが作ってくれた大きな隙に乗じて、僕とミアはロングソードでジェネラルの腕を一刀両断。
朝練で既に感じていたけれど、近接戦闘でミアは僕を追い抜いている。
現に、僕には今の彼女の太刀筋が目で追い切れなかった。
シュッ、グワシャア!!!
あ、既にヤツの後ろに回っていたんですね…フィリスさん。
フィリスの強力無比な槍の刺突が、アッサリとジェネラルの魔核を砕いた。
ジェネラルの身体は黒い魔素になり、僕らにそれぞれ吸収されていく。
ミアの身体が薄っすらと青白い光を放っている。
これはダンジョン特有の現象の『レベルアップ』だ。
『レベルアップ』によって、身体能力や頑強さや魔力量が少し上がるらしい。
冒険者はダンジョンに潜って『レベルアップ』を行い、地上の魔物の討伐依頼をこなして行く。
地上の魔物を倒しても『レベルアップ』はするらしいけど、ダンジョンの方が遥かに効率的だし、地上では身体が光る現象は起こらないので、殆ど気付かない。
王都の冒険者ギルドには身体能力値や魔力量を数値化する特殊な魔導具が有って、お金を払えばそれらの数値の『ステータスカード』を作ってくれるらしいけど、利用する人はあまりいない。
数値の信憑性も定かでは無いし、冒険者ギルド内の訓練で、数値の高い人が低い人に模擬戦で負ける事もザラらしい。
そんな数値に大金を払うのは馬鹿らしいと考える冒険者が多いんだろう。
僕も実家の影響で、ステータス値というものは全く重視していない。
何はともあれ、無事目標の15階層のボスを討伐した僕らは、ボス部屋を出た所にある魔導具に学生証と冒険者カードを翳して、帰還用の転移魔法陣で地上へと戻った。
余談だけど、この魔導具の効果で次に潜る時は同じ場所に転移出来る為、ボス部屋を出た所にある小部屋は『セーブポイント』と呼ばれている。
こうしてフィリスを迎えた新生『魔術的兄弟』は初陣を圧勝劇で飾ったのだった。




