31話 古代火竜の暴走
「うおお、このバーガーという食べ物も美味しいな」
「うん。
お肉も大きくて食べ応えあるし、ソースも変わった感じで美味しいね」
僕とミアは一発でバーガーの虜になった。
バンズに挽肉の塊と野菜を挟んであるこの料理は、カメーリアでは有名らしい。
初めて食べたけど、肉感がガッツリ感じられて堪らない。
レインとベティは食事よりも、午後に行くお店をガイドマップでチェックするのに夢中のようだ。
昼ご飯を終えた僕たちは、午後3時に1階のカフェスペースで待ち合わせる事にして、カップルに分かれてショッピングを再開しようとした時。
カンカンカンカンカン!!
非常用の警鐘の音が館内に鳴り響いた。
警鐘を聞いた買い物客たちは、大慌てで非常用階段へと向かい出す。
店員たちは列を乱さないように呼びかけて、避難誘導を行い始めた。
「何だろう?
火事じゃないみたいだけど」
そう言って、レインは冷静に周りを見回す。
「みんなの慌てようからも、かなりマズい事態みたいだな」
「あそこの店員さんに、何が起きたのか聞いてくるね」
ミアは人ごみを掻き分けながら、非常口に誘導する店員の方に向かって行った。
僕としては、どさくさ紛れにミアの胸を触る輩が居ないか心配だったけど、みんなそれどころじゃ無いらしい。
暫くしてミアが戻って来た。
「うんとね、マキャ何とか火山のドラゴンが暴れ出したみたい。
さっきの鐘はそれを知らせていたんだって」
「そっか、ドラゴンか。
なら、地元の冒険者たちが討伐してくれるから安心だな」
ミアから話を聞いて安心した。
ドラゴンは最低でもBランク以上の強力な魔物だけど、冒険者が団結すれば討伐出来るだろう。
「いや、ミアちゃんが聞いたのは、マキャベリーア火山の古代火竜だと思う。
元々魔物が殆どいないワイハー領は、冒険者が少ないらしいし、古代火竜はSランクの魔物で太刀打ち出来ないから、結界を張って封じ込めているっていう話だよ。
もしかしたら、結界を破って火山から出て来たのかも知れない」
物知りなレインが言う事は間違いないだろう。
これまでも彼の知識に助けられて来たからな。
しかし…
「僕たちには何も出来ないよね。
学院生でまだ冒険者じゃないし、ここは外国だし。
この様子じゃ買い物は無理だろうから、昨日の海岸でサーフィンでもする?」
「こんな緊急事態に何言ってんのよ!
ドラゴンが暴れてるのに、サーフィンしようなんて正気じゃないわ!」
ベティに怒られた…
でも、外国人で学生の僕らには、どうしようもないじゃないか…
「取り敢えず、フオア島の冒険者ギルドに行ってみる?
ミア達にも手伝える事が有るかも知れないし」
「そうだね。
ランディ、残念だけどサーフィンは諦めてくれ。
冒険者ギルドに行こう」
どうせ僕らなんて追い返されるだけだと思うんだけどな。
仕方なく、皆んなと一緒にフオア島の冒険者ギルドへと向かう事にした。
冒険者ギルド内は慌ただしい様子だ。
ギルドの偉っぽい人が、冒険者達に何か指示を出していたり、事務員の人たちが魔導端末片手に右往左往している。
「おい、そこの派手なハロマを着たガキども!
こんな所に来てねえで、さっさと地下シェルターに避難しろ!」
冒険者の1人が、ギルドに入って来た僕らを見て、強い口調で避難を指示して来た。
思った通りの門前払いである。
「ガキどもとは何だ!
僕らはイーミス王国王立冒険者学院の2年生と、魔術学院2年生で結成している『魔術的兄弟(仮)』だ。
先日も、王都郊外を占拠していた下級魔族を、僕らだけで討伐したばかりだ!
若いからって、あまり舐めた態度を取るな!」
こういう時のレインは、いつもの優しい感じでは無いのが頼もしい。
やはり、リーダーはビシッとしてないとな。
僕らをガキ扱いした冒険者は、レインの放つ覇気に圧倒されているみたいだ。
「もういいよ、レイン。
古代火竜なんて言っても、所詮は火を吐くトカゲさ。
僕らが居なくても、彼らだけで殺せるだろ。
早くビーチでサーフィンやろう」
「ひ、火を吐くトカゲだと!?
デカい口を叩きやがって!
大体お前らみたいなガキが、魔族を討伐しただと?
アホも休み休み言え!」
何故か、さっきの男とは別の冒険者が、僕に食ってかかって来た。
「だから、アンタらに任せるっつったんだよ。
こんな所でガキに凄んでないで、さっさとトカゲを狩って来いよ。
大の男どもが情けねえ面並べて、グダグダやってんじゃないよ」
「んだと!
このクソガキがぁあ!」
男が僕に殴りかかろうとしたので、僕は魔力操術で男の動きを封じる。
動きを封じるのは、あまり人に使いたく無いんだよなぁ。
「クッ、かはっ、あっ、あっ…アガッ!」
地面に倒れ伏して、体を痙攣させる男。
長く続けると心臓に異常を来すので、直ぐに解除した。
「僕の魔力すら弾き返せないクセに、デカい態度を取ってんじゃないよ。
レイン、ビーチに行こう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
僕がレインに退散を促した直後、奥の方から野太い声が聞こえた。
冒険者たちを掻き分けて、声の主と思われる壮年の男が僕らの前に立った。
ストレスからなのか、頭はすっかり禿げ上がっている。
「お前らは本当に、『魔術的兄弟』なのか?
あの魔族を倒した学院生の?」
魔族を倒した事が外国のギルドにも伝わってたのか。
帝国にまで知られたく無いから、あまり目立ちたく無いんだけど。
「うん。コレが学生証。
まだ学生だから、パーティーは仮登録になってるけど、何回か王国では討伐クエストを受けてるよ」
そう言って、僕はハゲ男に学生証を渡した。
ハゲ男はパッと見たら、直ぐに学生証を返して来た。
「間違いないようだ。
アンタらに、古代火竜の再封印をお願いしたい」
「無理だよ。
学院長の了承も取らないといけないし、教官も同行してないんだから」
「王立冒険者学院の学院長には、すぐに通信用の魔導具でコンタクトを取って了承を貰う。
教官の代わりに、ギルド長の俺が同行すれば問題あるまい」
なるほど、緊急みたいだし、それでも良いのかな?
ただ、クエストの内容がなぁ。
「ねえ。
再封印なんて面倒な事をせずに、倒した方が早くない?」
「それが出来れば苦労しねえさ。
ただ、相手は古代竜種だ。
Sランクパーティーじゃ無いと、討伐は不可能だろう」
「古竜は体がデカくて言葉が話せるだけで、大した事が無いって爺ちゃんが言ってた。
多分僕らで倒せると思う」
「ランディって、爺ちゃんの言う事は何でも信じてるよね」
レインが呆れたように突っ込んで来る。
でも、爺ちゃんは僕の師であり、恩人なのだ。
爺ちゃんの教えを疑うなんて、考えた事もない。
ややあって。
学院長の特別認可を得て、緊急措置としてギルド長の同行で緊急依頼を受けれる事になった僕らは、ギルドが用意した魔導車で現場へと駆けつけた。
マキャベリーア火山の火口から、巨大な竜が顔を出して、周囲にブレスを吐いている。
魔導師団っぽい人達が、防御結界で必死に対応しているけど、何人かは魔力切れを起こしているみたいだ。
「ミアは体調が万全じゃないから、車で休んでて」
「え〜、痛みも無いし、量も少ないから大丈夫だよ?」
何の量なんだ?多かったらマズいけど、少ないと影響は少ないんだろうか?
いや、でも…
「一瞬でも集中力が途切れたら危険だから、ミアは残ってて欲しい」
「うん…ランディって優しいね」
闘いの前だというのに、ミアの笑顔を見てドキッとしてしまった。
僕もまだまだ未熟だな。
「ハイ!イチャイチャタイムは終了ね!
『身体能力強化』『加速強化』『鋭刃化付与』『魔術強化』」
賢者のベティが、一瞬でバフの多重発動をやってのける。
しかも、ベティの身体能力強化は、僕の魔力循環を参考に改良されているので、力を入れたい部位にピンポイントで強化してくれる。
1年以上一緒に特訓して来たから、僕の動きの癖も良く分かってくれているのだ。
彼女以上の支援魔術師は、どこにも居ないだろう。
「『氷結世界』」
レインのオリジナル魔術『氷結世界』が、古代火竜の動きを止めた。
『氷結世界』は、魔術の効果範囲を極限まで絞る事が出来るレインならではの魔術だ。
動く時に必要な、関節や靭帯部分をピンポイントで凍らせる。
古代火竜は魔術耐性が高いので、動きを止められるのは30秒程度だけど、それだけで充分!
僕は一気に加速。更に跳躍。
魔力を空中に固定させて足場を作り、更に跳躍。
火竜の目の前まで移動した。
『ぬ、ぬおおお、矮小な人族如きが、妾の動きを封じるとは…』
「あ、やっぱり喋るんだね。
悪いけど、死んでもらうよ」
『ゴミが図に乗るな!』
何とか口は開くみたいで、火竜の口の中に膨大な魔力が集積して行く。
特大のブレスを吐くのだろう。
「させないよ」
古代火竜の体内魔力に介入するのは流石に難しいけれど、体外に放出されるブレスならば、僕の魔力操術で介入が可能。
ブレスは所謂魔法として構築するものなので、読書オタクの僕はどこに介入すれば魔力が暴走するかが手に取るように分かる。
次の瞬間、火竜の口の中で爆発が起こった。
牙や大量の血が飛んで来るので、僕は後ろに跳んで距離を取った。
『あ、あがががが…ば、バファら…ら、らりが…』
まだ喋れるとは、結構頑丈なんだな。
まぁ、次で終わりだけど。
レインが絶妙なタイミングで、火竜の首に『氷結世界』をかけてくれた。
ブレスの高温から一瞬で冷却された事で、火竜の首の鱗はボロボロになっている。
レインは最高の相棒だ。
「良し、トドメと行くか!」
『ま、待っれ!おれがい!こ、ころさらいれくらはい!』
ん、なんか聞き取りにくいけど、命乞いをしているのかな?
でも、討伐しないとクエスト失敗になってしまうし。
「でもさぁ、君がここで暴れて、皆んなが迷惑してるんだ。
ここで見逃す訳には行かないんだよね」
『ひょ、ひょっろ待っれくらひゃい!』
そう言うと火竜の体が光り出して、体積がどんどん小さくなっていく。
光が収まると、ミアに勝るとも劣らないけしからん体つきをした20歳前後の全裸美女が現れた。




