30話 世界で一番アツい夏休み ⑧
「ランディ、昨日は僕のせいでゴメンよ」
「いや、僕もベティの地雷に触れるような事を言ってゴメン」
ベティの鉄拳を食らった翌朝。
僕とレインはお互い傷を舐め合うようにして、浜辺をランニングしていた。
ミアは女の子の日でお腹が痛いらしく、無理はさせたくないのでトレーニングは休みにした。
量は多くないから大丈夫と言っていたけど、何の量かは分からない。
ベティはとても朝の訓練に誘えるような雰囲気では無かった。
「はぁ…僕って奴はダメダメだなぁ」
「何言ってんだよレイン。
君は誰よりも優しくて、気遣いの出来る良い男じゃないか。
そうだ!今日はそれぞれのカップルに分かれて、ショッピングに行かないか?
地元の人がおススメするファッションビルが有って、王国には無い珍しいお店がたくさん入ってるってよ」
「ラ、ランディ…君は本当にイイ奴だ!
本当にありがとう!朝食の後にベティに提案してみるよ」
こうして、レインの汚名挽回作戦の幕が上がった。
朝ご飯は、4人で僕の部屋に集まって、ルームサービスで済ませている。
ミアも一緒だし、ベティも素直に提案に乗ってくれるだろう。
…そう思ってた時期が僕にも有りました。
「何よ、今さら白々しい!
私はサーフィンに行くから、3人でそのファッションビルとやらに行けば良いじゃない!」
ベティさんご立腹です。
早くも計画が頓挫してしまうのだろうか?
「ベティ、それはあんまりじゃない?
本当はランディがミアを喜ばす為だけに、地元のチンピラから聞き出してくれた穴場スポットなのよ?
それをベティがヘソを曲げたから、レインとベティを仲直りさせてあげたいって教えてあげたの。
そんなランディの優しさを無駄にする気?」
いや、ミアさん…身も蓋もない言い方…
確かにあのチンピラが、昨日の朝詫びを入れに来た時に聞き出したスポットだけれども。
そんな上からな言い方したら、拗れるっていうか。
「そ、そんな…
私はランディの気遣いが嫌だって言ってる訳じゃないの。
ランディの気持ちは嬉しいけど、その前に自分で色々調べようとか努力をしないレインに怒ってるの」
お、ミアの言い方が意外に効いたみたいだ。
ちょっと弱気になったベティをここで畳み掛けねば。
「いい加減にしなよ!
レインが努力してない?
こんな立派なホテルを調べて予約してくれたのは誰だよ?
オシャレなレストランを予約したり、バーベキューの手配をしてくれたのは誰だよ?
レインは僕たち仲間の為に色々調べてくれて、散々気を遣ってくれたんじゃないのか?
そんな大変な事を裏で色々と準備してくれたのに、コイツは嫌な顔一つしない。
ショッピングの場所くらい、僕が痛めつけたチンピラから聞き出した所で良いでしょうが!」
僕が強めに言うと、ベティは俯いてしまった。
ちょっと言い過ぎただろうか?
「ゴメンね…レイン。
私…ワガママ言って困らせちゃった…
こんな私でも、ショッピングに連れて行ってくれる?」
「もちろんだよ。
色んなお店を見て回ろう?」
レインは優しいハンサムスマイルをベティに向けると、ベティはレインの胸に顔を埋めるようにして泣き出した。
レインは優しくベティの頭を撫でている。
一先ず仲直り出来て良かったね。レイン。
◇◇◇◇◇
「ここが地元民行きつけのファッションビルか…
チンピラが行く所とは思えない程シャレオツだね」
「私もミアちゃんからチンピラの情報って聞いた時はちょっと不安に思ったんだけど…」
思っていたよりも遥かに上等なファッションビルだった。
最悪、鋲のついたライダースとか、やたらと髑髏の付いたダサいTシャツとか、めっちゃダメージの入ったダサいジーンズとかそういうノリのダサい店が集結した施設だったらどうしようとか思ったけど…
地上6階建で、入っている店は世界的に有名なデザイナーのお店では無く、地元の若者が好む服飾品や雑貨のお店が多いようだ。
勿論、観光客向けの商品も多数扱っているらしい。
「じゃあ、ここからはお互いのカップルで別れて見て回ろう。
6階は飲食店のフロアだがら、12時に6階のバーガー屋さんの前で待ち合わせという事で」
ビルの入り口に有ったフロアガイドを手にしたレインの言葉に従って、それぞれカップル水入らずで見て回る事になった。
それにしても、レインとベティは腕を組んで歩く感じが様になっている。
僕は未だにちょっと恥ずかしくて、妙に力が入ってしまう。
特に胸が当たってしまう時とかに。
「ミア、お腹痛くない?
もう少しゆっくり歩こうか?」
「ありがとう。
アンチペインのポーションを飲んだし、魔力循環を応用したら殆ど痛みが無くなったから全然大丈夫」
僕には女の子の日がどれほどの辛さか分からないので、ミアの体調が心配だったんだけど、朝よりも随分元気みたいなのでホッとした。
1階は女性の化粧品が多く売られているので、2階に移動した。
本当に色々な洋服屋さんがある。
「あ、あのお店、変わったプリントの服が置いてある。
入ってみようか」
「ホントだ〜。ラフな服装が多いみたい。でも、柄がなんか独特だね」
地元の若者が行くお店には、Tシャツやハーフパンツと言った軽装が揃っている。
ワイハーの人が部屋着のような格好で歩いているのは、お店が軽装を多く扱っているからなんだろう。
せっかくなので、地元の人みたいな恰好で残り3日間過ごすのも悪くないな。
「お兄さん達、王国の人ですか?」
店員の女性が服を見る僕らに声をかけて来た。
僕らが肯定すると、店員さんはかなりアグレッシブに服を進めて来た。
どうやら、この店は地元の若者の中でも、裕福な家の人が買いに来るお店らしい。
店員さん曰く、王国からの観光客が買いに来ることは珍しいけれど、王国の人はお金を持っている人が多いので、高いアイテムを売りつけ易いんだとか。
随分と本音を言ってくる店員さんだ。
富裕層向けの服屋というだけあって、Tシャツでも1万ルエン以上する。
地元出身のデザイナーのTシャツは3万ルエンの物すらある。
そこでミアはキャミソールとショートパンツを3枚ずつと、レザーのサンダルを買った。
僕もTシャツ2枚、ハーフパンツ2枚、レザーサンダルを購入。
試着室で着替えさせて貰って、地元民ルックで歩く事にした。
他の物は、全部僕のマジックバッグに入れておいた。
「ミアは何を着ても似合うね。
涼しげな感じがして可愛いよ」
ミアの着ているキャミソールは、薄いブルーのコットンの下地の上にシフォン生地が重ねられており、ガーリーな雰囲気が漂っている。
胸元が開いてない事と、ゆったり目のシルエットで、いやらしい感じがしない。
濃いデニム生地のショートパンツとも合っている。
何より、白くて綺麗な御御足が眩し過ぎる。
僕は白地に薄っすらと花のプリントが入ったTシャツに、オリーブグリーンのハーフパンツ。
足元は2人ともレザーサンダルだ。
「ランディもカジュアルな恰好凄く似合ってるね。
ワイハーの女たらしみたい」
「そ、それは褒められてるんだろうか?」
「ふふふ。他のお店も見て回ろう?」
誤魔化されたっぽい…
ま、楽しいからいっか!
レイン達も楽しく回ってると良いんだけどな。
◇◇◇◇◇
12時を15分程回った。
6階のバーガー屋さんで待っているのだけど、レイン達はまだ来ない。
「レインの奴、何か有ったのかなぁ?」
「うふふふ。ねえ、ねえ、このバッグ似合ってる?」
「うん。もちろん似合ってるよ。
小さめで可愛いよね」
ミアは僕がさっき買ってあげた、ネイティブカメーリアンっぽいデザインのレザーの斜めがけポーチを嬉しそうに見せつけて来る。
気に入って貰えて嬉しいけど、少しはレイン達の心配をしても良いと思うのだ。
それから5分ほど経ってから、レイン達がやって来た。
…って、その恰好は…?
「いやぁ、ゴメンゴメン。すっかり買い物に夢中になっててさぁ」
「変わった物が多くて、色々と見ている内についつい。
ゴメンね〜」
それは良いんだが…
ベティもレインも全身鮮やかな花柄に塗れている…
2人とも造花の花輪を首にしているぞ。
写真で見た事はある。
2人が着ているのは、ハロマシャツとモーモーというワイハーの礼服だろう。
それにしても、何故そんなド派手な柄の物を選んだのだろう?
僕のTシャツも花柄がプリントされているけど、薄い緑色でそんなに目立たないし、左胸に縦に花が連なっている感じで、全体が花柄ではない。
レインは真っ黄色の生地の上に、真っ赤な花が全体に散りばめられている。
彼のハーフパンツもシャツと同じ柄だ。
ベティのモーモーというゆったりしたドレスも、レインと全く同じド派手な花柄だが、まぁ女の子だしそれも良いのかも。
「へー、なんかアンタらは部屋着みたいな格好ね」
「そうだね。
やっぱりワイハーに来たんだから、僕らみたいにワイハーンっぽい恰好をした方が良いと思うよ?」
ううむ…ワイハーンっぽいと言えばそうなのかも。
僕とミアは苦笑を浮かべるしかなかった。
さぁ、お昼ご飯にしようか。




