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29話 世界で一番アツい夏休み ⑦



「誰かさんはわたしに防音結界をしろとか言ってなかった?

アレ?私の聞き間違いだった?」



只今朝5時のビーチです。

僕とミアは、鬼の形相のベティの前で萎縮しております。

どうやら昨夜、体調が戻ったレインとベティは僕らの部屋に謝りに来たらしい。

しかし、部屋のドアの外までミアの激しい声が聞こえていたらしく、自分たちの部屋に引き返したんだとか。



「だ、だって…凄く…そ、その…き、気持ち良くて…

ラ、ランディに…そ、そういう事して貰えるのが…し、幸せだったの…」


「ああ、ミアちゃんに怒ってるんじゃないの!ミアちゃんは全然悪くないんだから、ね?

悪いのは全部、この口先変態男なんだから」



ミアは顔を真っ赤にして弁解すると、ベティはミアの事はアッサリ許しやがった。

コイツは僕にいつも厳しいんだ。

勿論、大事な仲間だし、レインの彼女だし、全然嫌いでは無いんだけど、顔を合わせる度に憎まれ口を叩いてしまう。



「いや、でも僕らはプライベートな時間で仲を深めてただけで?

誰かさんみたいに?朝のトレーニングをサボって盛ったりしてねえ的な?

今日だってちゃんと早起きした訳だし?イチャモン付けられる筋合いねえって感じ?」


「何でいちいち語尾上げてんの!

喧嘩売ってるの?

人には散々節度がどうとか言うくせに。

自分は不適切な事をしておいて逆ギレですか」



ダメだ…どうしてもコイツを言い負かす事が出来ん。

早くトレーニングしたいのに。



「あ、あのっ!

ミアは不適切だと思ってないから!

あ、アレをする時は…ランディと深く繋がってるみたいで、凄く幸せなの!

その後のランディの腕枕も、ミアは大大大好きなの!

ちゃんとトレーニングの時間もこうして守ってるし、何でそんなに責められないといけないの!?」


「あっ…えっ…ミ、ミアちゃん?

…えっと…ゴメンなさい…」



ミアがベティを打ち負かした…

ミアは元々気が強かったからなぁ。

僕も怒らせないように気をつけよう…



「ま、まぁまぁ。

トレーニングに穴を開けなければ良いじゃないか。プライベートな時間の干渉はお互いやめようよ。

ほら、ベティも訓練しよう」



レインはリーダーらしく、場を収めようとしているけど、ミアに噛み付かれたショックなのか、ベティは落ち込んだ様子だ。

よし、サブリーダーの俺が何とかするか。



「ベティ、レイン、本当にゴメン。

好きな女性が出来たの初めてでさ。舞い上がってしまった僕が悪かった。

今後はトレーニングや冒険者活動に影響が出ないように気をつけるから、どうか許して欲しい」


「い、いや…私も昨日の事根に持ったのが悪かったわ。

ミアちゃん、ランディ、ゴメンなさい」


「あ、う…ミアの方こそゴメンね。

ランディの事になると、ついカッとなっちゃって。

ミアもこのパーティーが大好きだから、活動に支障が出ないように気をつける」



良かった。仲直り出来たよ。

こんな痴話喧嘩で、せっかく出来た仲間がバラバラになるのは嫌だからね。


気を取り直した僕たちは、皆んなで基礎の魔力循環を30分しっかりやってから、前衛組と後衛組に分かれてそれぞれ別メニューでみっちり汗を流した。

因みに、僕とミアは魔力循環でのスムーズな身体能力強化と、基礎のフィジカルトレーニングをした。


身体能力強化をするにしても、ベースとなる肉体を強化しないと意味がない。

地味な上にキツい基礎トレーニングは、とても大事なのだ。


レインとベティは、魔力制御を徹底的に鍛えている。

レインが海の方に小石を投げて、それにベティが範囲を最小限に絞った魔力をぶつけるトレーニングを延々と繰り返していようだ。

全く派手さは無いけれど、このトレーニングも地味にしんどい。

ジェニス教官にこのトレーニング法を話した時は、盛大に呆れられてしまった。

一時期、宮廷魔導師団に在籍していた教官ですら、そんな芸当は出来ないと言っていた。


これがスムーズに出来ると、魔術の精度が上がるだけでなく、魔術発動の際の起こりを敵に察知され辛くなる。

その事を教官にも言ったのだけど、殆どの魔術師はそもそも魔術発動の起こりが察知出来ないらしい。


話はそれてしまったけど、教官が言う『人外トレーニング』を僕らは集中してこなして、それぞれの部屋に戻った。

トレーニングの汗をシャワーで流した後は、4人でサーフィンに挑戦する予定だ。


どうやらレインとベティは海沿いの街の生まれらしく、ベティは子供の頃からサーフィンをしていたらしい。

ワイハーは良い波が来るポイントが有るらしく、ベティは朝食の時にめちゃくちゃ目を輝かせていた。



さて、サーフボードやウェアをレンタルした僕らは、ベティの言う海岸に来たんだけど…


めっちゃ暇だ。


今日は波が穏やからしく、大した波が来ない。

サーフボードに寝そべって、ゆらゆらと波を待っているのだが…



「そうだ!ミア、面白い遊び思い付いたぞ!」


「え?どんな遊び?」


「ベティ、収納魔術で持ってきて貰ったロープを出してくれないか?」


「ん?分かったわ」



僕はベティに出してもらったロープをボードに巻き付けて、ミアと一緒にパドリングして沖の方へと向かった。



「結構みんなと離れちゃったけど、何をするの?」


「良し、この辺なら誰も居ないな」



僕は自分の足首とボードが繋がっているリーシュコードを外して、持って来たロープの一端を、ミアのボードのノーズに魔力で固着した。

ロープのもう一方は僕がガッチリと握っている。



「僕が海の上を猛ダッシュして、ミアを引っ張るんだよ」



海を走る原理としては、自分の足が海面に付く直前だけ、魔力で足場を作り、蹴り出すタイミングで足場を消す。

これを左右交互に繰り返せば海を走れるし、魔力操作の良いトレーニングにもなる。

僕は海の上に立つと、ミアのボードをロープで引っ張りながらダッシュした。



「きゃあああああ!凄おい!

速くて楽しいぃぃい!」


「曲がるぞ?ボードにしっかり捕まって振り落とされないようにね」


「きゃああああ!外に振られるぅぅぅ!!」



僕は30分程ミアを引っ張りながら、海の上を猛スピードで走り回った。



「そうだ、走るスピードをゆっくりにするから、ボードの上に立ってみたら?

少しはサーフィンの気分が味わえるんじゃない?」


「あ、それやってみたい!

ゆっくり走ってみて!」



ミアもノリノリのようだ。

僕が軽くランニングする程度で走ると、丁度いいスピードのようで、ミアは直ぐにボードに立とうとする。



「う、うわ、け、結構難し…きゃあああ!」



上手く立てずに、ミアは海に落ちてしまった。

直ぐに止まらないと危ないので、落ちた瞬間に足を止めてミアの方を振り返ると、落ちたのに満面の笑みだ。

良かった。楽しんでくれているみたいだ。

すぐ落ちるから、つまらないとか言われたら僕は立ち直れないかも。


5回程繰り返すと、ミアはボードの上に立って、バランスを取れるようになった。



「ねえ見て、ランディ!ミア上手くない?」


「ハハハ!凄く上手いよ!

もう少しスピード上げるか!」



僕は少しスピードを上げて、ミアとサーフィンごっこを楽しんだ。

しばらく楽しんでいると、ベティがパドリングしながらこちらに向かって来た。



「ちょっと、アンタ達!

何やってるの?心配したじゃない!」


「ん、何って。見ての通り、僕が海を走ってミアのボードを引っ張る遊びだよ」


「と、とんでもない事やってるわね。

アンタのボードがこっちに流されて来たから、心配して来たって言うのに…」


「あ、悪い!ボードの事すっかり忘れてた」


「ねえ、ベティもやって貰ったら?

ランディに引っ張って貰うの凄く楽しいんだよ?」



ミアの天使の笑顔に絆されたベティも、僕のボード引っ張りサーフィンを試してみる事になった。

最初はゆっくり走ったんだけど、流石にベティはサーフィンが得意なだけあって、ボードの乗り方がとても上手い。

何というか、上手く波打つ海面をボードで捉えているような、安定感がミアの比ではない。



「わぁ!ベティカッコいい!!」



ミアも見ていて、彼女の堂に入った感じが分かっているようだ。

もう一段階スピードを上げつつ、ジグザグに走ると、流石のベティもバランスを崩して盛大に海に落ちた。



「な、何よ!こんなの全然サーフィンじゃないわ」


「仕方ないだろ。

サーフィンやったことないんだからさ」


「で、でも…何かこれ楽しいかも」


「ねっ?だから言ったじゃない。

ミアのランディが考えた遊びなんだから、楽しいに決まってるよ」



うむ、そんなに褒められると照れてしまうな…

まぁ、2人が喜んでくれて何よりだ。

その後もミアとベティを交互に引っ張って遊んだのだけど、またしても次の段階の遊びを思い付いた。



「これさ、引っ張っている途中でロープの魔力を解いたら面白いんじゃない?

後は推進力で何処まで行けるかみたいな」


「え!何それ。やってみたい!」


「ランディにしては面白い事考えるわね。

そっちの方が、サーフィンっぽくなるかも知れないわね」



2人の賛同を得たので、早速ミアがトップバッターという事でやってみた。

僕は途中まで強めにミアのボードを引いて、ミアがボードに立ってバランスを取ったところで、ロープの魔力を解いて進路を開けた。



「きゃあああ!何かさっきと感じが違うぅ!」



ミアはロープが離れてから20メートルくらい進んだ所で海に落ちた。

でも、とても楽しいみたいで、きゃっきゃ言ってはしゃいでいる。

続いてのベティが圧巻だった。

ミアと同じ要領で加速してロープを離したんだけど、離れてからしばらくすると、海面に合わせてボードを上下させながら進んで行き、小さな波が立った所でボードの端をぶつけるようにしてターンした。



「おおお!ベティかっけえ!!」


「うん!凄くカッコいい!プロの人みたい!」


「ふ、ふん。これくらい私には何てこと無いわ。

やっぱりこっちの方が波にしっかり乗れるわね」



どうやら、ベティも満足したようだ。

ベティが進む方向を変えた方が面白いというので、彼女の示した方向に引っ張ると、更にベティは本格的な波乗りをするようになった。

ミアも見よう見まねでボードを動かして行く内に、中々それっぽく乗れるようになった。

流石剣聖だけあって、どんな事でも飲み込みが早いんだろう。



「うわあああ!ランディが海の上を走ってるぅぅ!」



レインの叫び声がした。

しまった…すっかり彼の存在を忘れていた…何か悪い事したな。



「僕、ずっと1人で待ってたんだぞ?

何みんなで楽しそうにサーフィンしてるのさ」


「ごめんね。意外と面白くて夢中になってたの。

後でイイ事してあげるから、機嫌直して?」



ベティ…イイ事って何ですか?

まぁ、放置してしまって、レインには悪いことしたな。



「ホントに申し訳ない。

そうだ、レインもやってみよう。

ミアもベティも楽しいって言ってるしさ」


「レインにもやってもらいたいんだけど、アンタ魔力大丈夫なの?

さっきから海の上を走りっぱなしじゃない?」


「ハハハハハ!君たちとは鍛え方が違うのだよ。

コレも意外に良いトレーニングになるしね」


「…誰もランディが海に平然と立ってる事は突っ込まないんだ?

僕は若干引いてるんだけど」



レインよ、化け物を見るような目を向けないでいただきたい。


その後、レインも交えて2時間程遊んだ僕たちは、昼飯の時間がとっくに過ぎている事に気付いた。

お腹が空き過ぎてヤバい僕は、ロープで3人のボードを縦に連結させて、猛ダッシュで海上をダッシュしたのだった。


30分程でホテルに到着した僕らは、さっさとシャワーを浴びて着替えを済ませた。

既に2時を過ぎていたけど、レインが調べてくれた繁華街のレストランはまだランチをやっていたので、そこで遅めのランチにした。



「ハハハ!結局レインが一番下手くそだったな!」


「うるさいなー。僕はあまりスポーツとかは得意じゃないんだ」


「ミアちゃんが意外と上手くてビックリしたわ。

最後の方ちゃんと波に乗れてたし」


「ランディのおかげだね。

楽しく覚えられたもん」



地元の変わった味付けの料理を食べながら、僕らは会話を弾ませていた。

みんなも腹ペコだったようで、注文した料理をあっという間に食べ尽くしてしまった。



「え?もしかしてそれってお揃いのブレスレット?

えー!可愛い!

ちょっと見せて」


「へへへ。良いでしょ?

ランディが付き合った記念にって買ってくれたの〜」


「へー、アンタって意外とそういう事する人なんだ?

良いな〜。

どこで買ったの?」


「それは僕とミアだけの秘密だよ」


「ね〜!ランディとミアだけの秘密〜」


「チッ!バカップルめ!

あー、羨ましいわ〜。どっかの誰かさんはこんな気の利いたプレゼントしてくれないもんね〜?」



僕らの何気ないイチャイチャ会話によって、レインがベティの口撃に晒されてしまった。

可哀想に、レインの額に冷や汗が…



「ご、ゴメンよ。僕、そういうのに疎くてさ。

な、なんて言うか…女の子の喜びそうな物とか分からなくて…」


「え〜。

ランディもそういうの分からないって言ってたけど、ミアをお店巡りに連れて行ってくれて、ミアが可愛いって思ったアクセサリーとかお洋服をプレゼントしてくれたよ?」



こ、こら、ミア!追い討ちをかけるんじゃない。

レインが更に追い込まれたでしょうが。



「ホラね?

あのズボラ120%のランディですら、付き合って3日も経たない内に、ミアちゃんを色んなお店に連れて行ったのよ?

私たちって付き合って何年だっけ?」


「ちょ、ちょっと…べ、ベティさん。

レインだって悪気は無いんだぞ?

それから、物をプレゼントするだけが全てじゃないのでは?

コイツはこんなにハンサムで、学院で女の子にモテモテなのに、他の女の子に脇目も振らずにベティの事だけを思ってるんだ。

こんなハンサムでこんなに一途な男は今時珍しいよ」


「ランディ…ありがとう。

やっぱり君は最高の親友だよ」



良かった。何とかフォロー出来たみたいだ。

ベティは顔立ちが整っているけど、キツい所があるからな。

あまり責められたら、レインが可哀想だ。



「へぇ〜。

ミアちゃんの水着姿をガン見する人を一途って言うんだ?」


「バッ、な、何言ってんだよ?

ミアちゃんは、ラ、ランディの彼女だよ?

そ、そ、そんなガン見なんてする訳…」



慌てて否定するレインの前に、ベティは無言で魔導端末を置いた。

そこには、ミアの方を向いているレインの後ろ姿の写真が…

後ろ姿だから目線は分からないけど、レインが向いてる先は、ミアの他には僕らの泊まっているホテルくらいしか無い。


マジかよ…いや、ミアのあの水着姿は、男なら誰でも目を奪われるだろうさ。

でも、親友の彼女をガン見は無いだろう。



「……本当にゴメン…

ちょ、ちょっと魔が差したと言いますか…」


「そ、そうだよ!

ミアの水着姿は凄く魅力的だからさ、その、谷間とか…凄いし、顔もめちゃくちゃ可愛いだろ?

レインも平らな胸は見飽きたから、偶に大きな胸を見てみようかなって感じだったんじゃ…」


「オイ、男2人。

表に出ろや」



し、しまったぁ!!!

ベティに胸の事を言うのは厳禁だった…




僕とレインは仲良くベティに5〜6発殴られました。



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