22話 ロシュの成長
夏休みまで残すところ後2日。
明日は終業式で終わるため、夏休み前の授業は今日で終わりなんだ。
今朝も僕の下駄箱にヘドロスライムがぶち込まれていたけど、僕の学院生活は友人達のおかげでとても楽しい物になっているので、つまらない嫌がらせなんて気にならない。
さて、ただ今夏休み前最後の実戦演習で模擬戦をしているんだけど、ちょっとした変化が起きている。
「お前、本気で言ってるのか?」
「ああ。俺はミアと模擬戦をやりてえ」
ジェニス教官が確認するのも無理は無い。
これまでクラスでも成績が下の人と模擬戦をして来たロシュが、何と剣聖のミアを指名したのだから。
「おいおい、チキンロシュの分際で何言ってんだ?」
「やだぁ〜、ビビり過ぎてとうとう頭がおかしくなったんじゃない?」
「もしかしたらドMになったんじゃねえの?」
クラスの連中は、真剣な表情でミアとの模擬戦を名乗り出たロシュを嘲笑している。
「はぁ…情け無い連中だねえ。自分の向上心の無さを棚に上げて、少しでも強くなろうとするロシュをただ野次るだけなんてさ…
君らは本当に冒険者になる気が有るのか?」
僕は友人を悪し様に貶された事に我慢が出来ず、ついつい嫌味な事を言ってしまった。
「うっせえぞ!ぶつぶつエリス!ミアちゃんとイチャイチャしてるからってチョーシこいてんなよ!」
「そうだ!お前みてえな禁術使いの卑怯者が何舐めた事言ってんの?」
「エリスは学院の恥晒しだからな。チキンロシュと傷の舐め合いをしている内に勘違いしたんだろ?」
「おい、ゴラァ!!今エリスっつったヤツ前出ろや!!!
二度と足腰立たねえようにすんぞボケがあ!!!」
「ちょ、ちょっと、ランディ。落ち着いて。ね?」
ついつい名前の事でブチ切れてしまったようだ。
ミアが止めてくれなかったら、3人とも撲殺していたかも知れない。
短気はいかんな。
「お前ら静かにしろ。
ロシュ、お前の心意気を買おう。ミア、ロシュと模擬戦をしてくれ」
ジェニス教官がロシュの申し入れを受けた事によって、ミア対ロシュの1対1が始まった。
模擬戦開始のブザーと共に、超スピードで一気に距離を詰めるミア。
ロシュはミアのスピードに一瞬驚いたようだけど…
ガキィィイン!!!
訓練場に激しい金属音が響いた。
ロシュが大盾を構えて、何とかミアの木剣での初撃を止めたのだ。
今の反応だけでも大したモノだ。
何せ、クラスの他の連中は今の一撃で失神させられているんだから。
「へぇ、今のを止めるのね。もうちょっと力を入れるわよ?」
ミアは感心したように呟いて、バックステップで一旦ロシュとの距離を取る。
再び木剣を構え直したミアは、再び超スピードでロシュに肉薄。
ミアがフェイントを入れると、ロシュは大盾を持つ手に力を込めて重心を落とす。
ロシュの反応を見て、前進する足の運びを切り返したミアは、一瞬でロシュの背後へと回り込んだ。
ドグワシャアアア!!!
流石に今の一撃を防ぐ事が出来ずに、背中を打ち据えられたロシュは前方に吹き飛んだ。
ミアの高速移動とフェイントに反応出来たところからも、ロシュが相当な鍛錬を続けて来た事が伺える。
ダンジョンでの経験によって自信が付いて、精神面がタフになった事もプラスに働いているんだろう。
もう以前のように、盾を持って縮こまるだけのロシュでは無い。
「ゲフッ、も、もう一本頼むゼ!」
何とか立ち上がったロシュの闘志はまだ消えて居ないようだ。
フラつきながらも、闘技舞台上へと戻って行く。
「随分逞しくなったじゃない?
それでこそ盾戦士ね」
ミアもロシュの成長を感じ取ったようで、彼の闘志に呼応するように再び斬りかかる。
教官は止めようとしたけれど、闘志に火が付いた2人は最早誰も止められなかった。
何度もミアの木剣に打たれながらも、その動きを捉えようと集中するロシュ。
何度も吹き飛ばされては立ち上がりを繰り返す内に、何度かはミアの剣戟を受け止めるまでになった。
当然ミアは手を抜いているけれども、彼女の剣戟を受け止められるタンクは学院に何人居るだろう?
魔族討伐の後にロシュに体内魔力を感じ取る訓練をアドバイスをしたけど、この模擬戦を見る限り何かしらコツを掴んだのかも知れない。
ふと、クラスメイトを見渡してみた。
もう誰一人としてロシュの事を嘲る者は居ない。
ロシュのこれまでの直向きな努力が実を結びつつある事が自分の事の様に嬉しい。
彼は絶対に良い冒険者になるだろう。
僕がロシュの事を誇りに思って感慨にふけっていると、叩きのめされてフラフラになったロシュが不意にバランスを崩した。
倒れ込む先には木剣を構えたミアが…
あの状態で木剣を食らうのはマズい!
僕は魔力循環による身体能力強化で、一瞬でミアとロシュの間に入った…ハズだった。
同じく超スピードで止めに入ろうとした教官とぶつかってしまい…
「ん、な、何だろう?暗い…何か柔らかな物が鼻先に…」
「あんっ、ラ、ランディ…ようやくミアを抱いてくれるのね」
教官とぶつかった僕は、ミアを巻き込むようにして突っ伏したみたいだ。
どうやらミアのスカートの中に顔を突っ込んでしまったらしい…
前方に突き出した両手からは、大きくて柔らかな弾力を感じる…多分ミアのあの部分を触っているようだ。
その後、直ぐに立ち上がるも時すでに遅し。
クラスメイトの男どもからは怒号が飛び交い、女子からは汚らわしい物を見るかのような眼差しを向けられた。
教官にもタップリ絞られたのは言うまでもない。




