21話 『魔術的兄弟(仮)』でダンジョン探索
下位魔族討伐から丁度1週間が経った夏休み前最後の土曜日。
今日は『魔術的兄弟(仮)』で、Dランクダンジョンに小遣い稼ぎに来ている。
中間査定で10階層まで踏破済みなので、11階層から探索を始めたんだけど、当然のようにサクサク進んでいて、現在29階層に来た所だ。
このダンジョンは5階層毎に洞窟型と森林型に切り替わる。
僕らは森林地帯を蹂躙し回っているのだ。
26階層からは階層モンスターとして、Dランクのホンキーコングが出現する。
ホンキーコングはゴツい見た目の割に、身軽な動きが出来るのが特徴だ。
因みにダンジョン内の階層モンスターのランクと、ボスモンスターのランクは異なる。
階層モンスターのDランクはDランクのソロ冒険者で討伐が可能だけど、階層ボスのDランクはDランクパーティーで討伐出来るという指標らしい。
先日そのようにレインとミアから教わった。
シュパンッ!
森林に桃色の閃光が走った。
次の瞬間、3体のホンキーコングの首が地面に落ちた。
ミアの超加速による長剣の一閃は、Dランク魔物の硬質な体表をモノともしない。
元々ミアが修行して身に付けた剣術に、無駄の無い効果的な魔力循環が加われば、ここまで凄まじい戦力になるんだな…
今のところ僕の出番は回って来ない。
ベティが探索魔術で接敵を知らせた途端に、ミアが終わらせるんだから。
「ミア、素晴らしいよ!
魔力循環と魔力制御はほぼ完璧だね」
僕は手放しでミアを称賛した。
「う〜ん、もう一歩なの。
もう少し魔力で強化するスピードを上げる事が出来たら、イメージ通りに剣を振るえるのになぁ…」
ミアはまだ納得出来ないようだ。
本当に素晴らしいな。
現状に満足せず、更に己を高めようとしているんだ。
学院の生徒の中には、強力なジョブやスキルを持っている事に慢心して、自己を高めようとしない人も多い。
ミアは全くの正反対だ。
僕らとの訓練で急激にパワーが上がった。
そのパワーに振り回されずに使いこなせている事からも、彼女が剣聖のジョブに驕る事なく、何年も地道に鍛錬を重ねてきた事がよく分かる。
「大丈夫!
ミアはまだまだ強くなるよ。
僕よりもずっとね」
「って言うか、ミアちゃんの剣の太刀筋すら良く見えないんだけど。
これ以上強くなったら、人間の域を確実に超えるわよ?」
ベティが呆れたようにそう言った。
失礼な事をしれっと言うのがベティなので、一々気にしてられないな。
「あ、あのさ…もう次がダンジョンボスの部屋なんだけど…
探索スピードが異常じゃない?」
レインが戸惑いがちに言ってきたけど、彼が戸惑うのも当然だろう。
11階層から29階層までを5時間弱で踏破している。
普通は17時間くらいかかるはずだ。
「まぁ、良いじゃないかレイン。
ミアが入ってくれたおかげで、3時間は時間短縮出来てるんだし。
早く探索が終わるに越した事は無いよ。
ダンジョンは長く居るだけだけで、体に良くないんだから」
高ランクのダンジョンになるに従って、階層内の空気中に含まれる魔素と瘴気の量が増えて行く。
また、同じダンジョン内でも深い階層に行くに従って、魔素と瘴気の量が増えて行く。
瘴気を体内に取り込み過ぎると、高瘴気障害を引き起こして最悪死に至る。
ギルドでもCランクダンジョンの深い階層で、5日以上野営して探索する事を禁止している程だ。
まぁ、僕らは魔力循環で、瘴気を定期的に体外に排出しているから問題無いんだけどね。
さて、いよいよダンジョンボス戦だ。
Dランクボスモンスターの、ホンキートンキーコングが僕らを見て咆哮を上げた。
コイツはホンキーコングの上位種で、体が一回り大きくて頑強さが上がっている。
更に、土属性の魔力で巨大な岩を作り出して、圧倒的な膂力に物を言わせて投擲攻撃をして来る。
「『身体能力強化』、『加速強化』、『鋭刃化付与』、『攻撃魔術強化』。
いってら」
ベティの強力なバフがかかる。
彼女のバフは僕の魔力循環での強化をベースにして改良されたもので、動作に必要な部位を察知してピンポイントに強化してくれる。
それを2人同時に行うことは、宮廷魔導師でも出来ないだろう。
ミアと僕は一瞬でホンキートンキーコングの懐へと詰めた。
「『バーティカルショット』」
レインの狙撃用の火炎魔術が魔核を貫くと同時に、ホンキートンキーコングの生首と右腕が地面に落ちた。
首はミアが、右腕は僕が一刀両断したのだ。
「これが最下層のボスか。
随分と呆気なかったね」
レインがつまらなそうに言った。
ホンキートンキーコングに攻撃させる間も与えなかったから、戦闘したという実感は湧かないよね。
僕はそそくさと魔石とドロップアイテムのホンキートンキーコングの牙を回収した。
ミアは今の動きも少し納得行かなかったようで、ベティにバフをかけて貰って、剣の素振りを始めた。
何度見ても美しい太刀筋だ。
連続して振っても、一切のブレが無い。
僕もミアを模倣して振ってみたけど、当然ミアのように振る事は出来ない。
今度剣術を教えて貰おう。
帰還用魔法陣で地上に戻った僕たちは、ダンジョン近くにあるギルド直営の素材買取所に行って、魔石やドロップアイテムを売却した。
売却額は何と170万ルエン。
これだけ稼げたのは、ミアが加入してくれたからだな。
僕らはミアのパーティー加入の歓迎会と、ダンジョンアタック成功を祝して、繁華街のちょっとお高めのレストランで食事をする事にした。
強力な前衛が加わった事で、卒業後の冒険者活動が今から楽しみで仕方ない。
それに、卒業後もミアと一緒に居られる事も凄く嬉しかったりするけど、恥ずかしいから口には出来ないな…
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