20話 手作り弁当
「君は一体学校を何だと思っているのかね!」
週明けの月曜日。
僕は今、生徒指導室で学年主任のイログラハ教官からコッテリ絞られている。
僕のロッカーが壊されていて、中に沢山のエロ本が詰まっていたからだ。
勿論、僕のエロ本じゃなくて、いつもの嫌がらせ。
マックが学院に来なくなっても、レジーナの態度が軟化しても、僕への嫌がらせは未だに無くならない。
下位魔族を討伐した噂やミアとの事で、チョーシこいてると思われているみたいだ。
「教官の中には君のような堕落した生徒を評価する者も居るが、君は所詮レイン君やミア君の腰巾着でしかない。
魔族を倒したのはミア君なのに、それを自分の力だと思っているのかね?
思い上がるのも大概にしたまえ!」
はぁ…早くお昼ご飯を食べに行きたいなぁ…
今日はミアがわざわざ僕にお弁当を作ってくれたのに。
女の子から手作り弁当だなんて…それも、ミアのように容姿端麗な女の子から…昼休みを楽しみにしてたのになぁ。
「何だその不貞腐れたツラは!?
君は本当に反省しているのか!!」
「はい。
自分の不徳を恥じていた所です。
この度は、学院生にあるまじき醜態を晒してしまい、申し訳ありませんでした。
今後は慢心する事なく、精進しますのでご容赦ください」
僕はとにかく丁寧に謝って、頭を下げた。
下手に何か言って、これ以上時間を削られたくない。
「ふん。
反省しているなら、今回は大目に見てやる。
だが、今度学院の品位を落とすような事をしてみろ?
私が直々に厳罰を下してやるからな」
「はい。
学院の品位を落とすような事は致しません。
この度は本当に済みませんでした」
僕は再度イログラハ教官に頭を下げた。
生徒指導室を出た後、僕は窓から外に飛び出した。
最短ルートで屋上に行きたいので、魔力を放出して空中に足場として固定する。
階段のイメージで幾つか足場を空中に固定すると、一気に駆け上がって屋上まで急いだ。
「う、うわぁ!
ランディが空を飛んで来た!」
一番最初に僕を見たレインが大袈裟に驚いている。
魔力操作をしっかりとやれば、こんな事は朝飯前だろうに。
「ランディってば、空を飛んで来るほどミアの愛妻弁当を食べたかったのね!
嬉しい!」
ミアのテンションがだだ上がりのようだ。
お弁当が楽しみなのは認めるけど、僕らは結婚してないので愛妻弁当というのは違うと思う。
「チッ、リア充はコレだからムカつくぜぇ!
弁当が爆発しねえかな」
ロシュはやはりリア充が憎いんだな…
でも、僕とリアは恋仲では無い…ハズ…うん、意識すると恥ずかしいから深くは考えないようにしよう。
「愛妻弁当…って事は、ランディ君はミアをついに孕ませたのね」
「うん。間違いなくミアは犯されたね。
しかも、何度も犯されたに違いないわ」
セレナとモネはとんでもない事を言っておる。
学院生の僕が、そんな如何わしい事をする訳が無いのに。
この2人が妄想を口にした時は無視するに限る。
「はい、ランディ。
ミアの愛妻弁当だよ?」
ミアが柔らかな笑顔で、ピンクの巾着に入った弁当箱を渡してくれた。
やはりミアはとても顔だちが整っていて、可憐な女の子だ…
ヤバい、笑顔を見るとドキドキして来る!
多分、コレはいつもの状態異常の類いだろう。
「あ、ありがとう。
もうお腹ペコペコだったんだ」
僕はミアにお礼を言うと、早速可愛らしいデザインの弁当箱を開けた。
中にはピンク色の大きなハートマークが…
「おー、見せつけてくれるじゃないか。
でも、コレは何だろう?ハートの周りはスクランブルエッグかな?」
真っ先に食いついたレインも、違和感を抱いたみたいだ。
僕もピンクの大きなハートマークの周りがスクランブルエッグのようだとは気付いたんだけど、このピンク色の物体は何だろう?
食べ物とは思えないくらいのピンク色だ。
弁当箱の中は仕切りが有って、横の方にタコさんウインナーとポテトサラダが詰められている。
うん、タコさんウインナーは安定の味だ。
お、ポテトサラダめっちゃ美味い!
生の玉ねぎの食感も良い感じだし、細切りのカリカリベーコンも良いアクセントになってる。
さて、問題はこのピンク色のものだけど…
僕は恐る恐るスプーンで黄色とピンクの物を掬った。
ハートマークの下から麦のような白い穀物が現れた。
今、スプーンには黄色とピンクと白が乗っている。
見ているだけでは失礼なので、取り敢えず口に入れてみた。
「……う、ウマッ!え、何これ?
ピンクのヤツは不思議な甘さがする!白い穀物はなんかモチモチした食感だ!
コレはお菓子か何か?」
「ふふふ、お菓子じゃないよ〜。
ピンクのは桜でんぶって言うの。下の白いのはライスっていう穀物よ。
どっちも東方の国で食べられている食材なの」
なるほど、東方の国の食材なのか。あそこは伝説の勇者ハジメ・オゥシタの影響が特に強いと聞く。
これは勇者が好きだった食材なのかも…不思議な味だけど美味しい。
さらに食べ進めていくと、ライスの下から茶色い粒々が出て来た。
「それは鶏の挽肉をそぼろ煮にしたの」
僕の顔色を見て察してくれた様に、ミアが茶色いつぶつぶについて説明してくれた。
ミアは料理が得意なんだな。
そぼろ煮なんて聞いたことのない調理法だ。
僕はそぼろ煮と卵、桜でんぶ、ライスを一緒に掬って口に入れた。
……!!!
めちゃくちゃ美味い!
甘じょっぱい味付けの鶏肉が、ライスと凄くマッチしている。
初めて食べた料理なのに、とても懐かしいような、とても優しい味がする…
気がつくと、僕の頬に涙が伝っていた。
「ら、ランディが泣きやがった!」
「ホントだ!料理を食べてフツー泣く?」
ロシュとモネに言われて、慌てて制服の袖で涙を拭った。
「う、うるへー!美味しすぎて感動しただけだい!
ミア、本当にありがとう!
このお弁当凄く美味しいよ!」
「ホント!?
良かった〜!早起きして頑張ったんだ〜!」
ミアの優しさを実感して、またも涙が出て来そうになった。
ロッカーにエロ本を大量にぶち込まれる程皆んなに嫌われてる僕だけど、こんなに優しくしてくれる友達がいるんだ…
あんな嫌がらせなんてもうどうでも良くなった。
僕は涙が溢れないように、時折上を向きながらも夢中でミアの作ってくれたお弁当を頬張った。
「な、泣くほど美味しいんだ…わたしもミアにお弁当作ってもらいたいな」
僕が食べる様を見ていたセレナが呟くように言った。
確かにこんな美味しいお弁当なら毎日食べたい。
「嫌よ。
ミアがランディの為だけに作る愛妻弁当だから、他の人には作らないの。
ランディ、これからは毎日ミアが愛妻弁当を作ってあげるね?」
ミアが速攻でセレナの分の弁当作りを拒否した。
その言葉や気持ちはとても嬉しいんだけど、愛妻弁当という表現は…
うん。恥ずかしいけど、嬉しいよ。
「ありがとう、ミア。
凄く嬉しいよ」
「チキショウ!見せつけやがってぇ…
そうだミア!
トリカブトっつう食材を使うと良いらしいぜ!」
「ロシュ、トリカブトって猛毒だから」
リア充に怨みを持つロシュに、レインが冷静にツッコミを入れた。




