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2話 レイン・ブラッドリー

 


「やぁ、ランディ。久し振り!ちょっとお願いがあるんだ」



 怒りに駆られてマックの所へ行こうとすると、不意に横から声をかけられて我に返った。

 僕に声をかけて来たのは、ルームメイトのレイン・ブラッドリー。

 僕と普通に接してくれる、唯一の生徒だ。

 エリスと呼ばれる事を嫌っているのを知っているので、僕の事をランディという略称で呼んでくれている。



「あ、レイン。久しぶりだね。

 頼み事って急ぐのかい?急がないなら後にして欲しいんだけど」


「ああ、実は食欲が無くてさ。

 良かったら僕の晩ご飯を食べてくれないか?」



 僕はレインの気遣いに、涙が出そうになった。

 身近にこんな優しいヤツがいるのに、僕はさっきまで悲劇の主人公のように悲観していた。

 僕らは2年生で、ここ2ヶ月程は長期野外演習の兼ね合いで、まともに顔を合わせていなかった。

 大事な友人の事が頭から抜けてしまう程、僕は精神的に追い込まれていたんだな…



「それと、アイツらをブチのめすのは辞めた方がいいよ」


「何でだよ。

 レインの気遣いは本当にありがたいけど、これは晩飯のための戦争じゃない。

 僕という存在と、マックという存在、互いのアイデンティティを賭けた戦争なんだ」


「イヤイヤ、戦争って…

 ランディは知らないと思うけど、マックはマクスウェル侯爵家の長子だ。

 下手に揉めると、自主退学に追い込まれるかも知れない」


「このまま嫌がらせを受け続けて学院生活を送るくらいなら、退学になってでもアイツをブチ殺した方がマシだ」


「そんな悲しい事言わないでよ。

 僕はランディが退学になると悲しいな…

 あの約束を果たそうと、僕なりに頑張って来たんだけどなぁ…」



 レインの悲痛な表情を見て、僕は怒りを鎮めた。

 思えば同室になった始めの頃、お互い成績上位で卒業して、一緒にパーティーを組もうと約束したんだ。



「ゴメン…頭に血が上ってたよ。

 それに、貴族の跡取りをブチ殺したら死罪だよな。

 せっかくレインは成績4位だし、僕も7位なのに…

 危うく『魔術的兄弟(マジカルブラザーズ)』を組めなくなる所だった」


「ホントに殺そうとしたんだ!

 比喩かと思ってたよ…っていうか、その『マジカルブラザーズ』っていう名前辞めない?」


「何で?カッコいいじゃないか。

 略して『マジブラ』だよ?」


「略したら、女の子の勝負ブラみたいに聞こえるのも、如何なものかと…」



 レインのおかげで落ち着いた僕は、ありがたく彼の晩ご飯を頂きながら、卒業後の話に花を咲かせた。




 因みに、レインと僕が成績上位に拘るのには理由がある。

 この学院は2年制。

 冒険者学院を無事卒業生すると、冒険者ギルドに登録する際に優遇される。

 冒険者ギルドの登録は通常15歳から。

 僕らは今年で14歳で、年末の16月で卒業する。

 冒険者学院の生徒は、卒業と同時に冒険者登録が可能なので、他の人より数ヶ月早く登録出来る。


 もちろんそれだけじゃ無い。

 冒険者は実力や実績によって、FランクからSSSランクまで格付けされている。

 通常はFランクからのスタートだけど、卒業生は最低でもEランクからのスタートになるんだ。

 更に、成績上位10名には、Dランクスタートが保証される。

 FランクからDランクに上がるのに、平均で3年必要だと言われているので、大きなアドバンテージだ。


 成績上位者は他にも優遇がある。

 依頼達成の報酬や素材売却の報酬は、手数料として30パーセントをギルドに引かれるけど、上位者は手数料が15パーセントで済む。

 引かれる税金も、10パーセント引かれる所が、5パーセントで済むんだ。


 ギルドで受けられる依頼や魔物も、冒険者と同様にランク付けされていて、Dランクからは報酬の額が上がって来る。

 Dランク依頼の平均報酬は10万ルエン。

 通常は税金と手数料を引かれて、手取りが6万ルエンになる所、成績上位者の手取りは8万ルエンとなる訳だ。


 冒険者は武器や装備品のメンテナンス、依頼によって揃えなければならないアイテム類等の出費が嵩む。

 冒険者は殆どが4〜6人のパーティーを組むので、4人パーティーで手取りが6万ルエンの場合、経費に2万ルエンを積み立てるので、1人1万ルエンの収入だ。

 成績上位者がいる4人パーティーの場合、1人1万5千ルエンの収入になる。

 この差は地味に大きい。


 ランクが上がるに連れてこの差額は当然大きくなるし、この優遇は、パーティーメンバーに2人以上成績上位者が居れば適用される。

 これが、卒業後にパーティーを組む約束をしている僕とレインが、何としても成績10位以内に入りたい理由なんだ。



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