19話 魔族討伐 ②
さて、魔族討伐を行う土曜日になった。
僕らは王都の冒険者ギルド前で待ち合わせをして、手続きに来たんだけど…
2つばかり問題が発生した。
「キャアアアア!!あなたがミアちゃんね!
イヤァァア!凄く可愛い〜!
あ〜ん!オッパイも凄〜い!!!」
レインの彼女のベティが、ミアを見てめっちゃテンションが上がってる。
ベティは何気にミアの胸を触ろうとして、ミアに避けられてるけど、アレはセクハラじゃないんだろうか?
「ねぇねぇ、ランディにいやらしい事されてない?
アイツ、絶対に隠れ変態だと思うの!
気を付けないと何されるか分からないわ」
「おいおい、人聞きが悪いね。
僕は生憎とそんな事に興味が無いんだ」
「あ、あの…ホントにランディはそういう事して来ないの。
ミアは、さ、触られたり…その、ランディに色々として欲しいんだけど…」
待ってくれ。ミアもベティの軽口に乗らないで欲しい。
「コラ!お前らはしゃぎ過ぎだ!
これから魔族の討伐なんだぞ!気を引き締めろ!」
ジェニス教官が、僕らを一喝した。
そう。もう一つの問題は、ジェニス教官が同行するという事。
先日の件からも、悪い人ではないと思うんだけど、掴み所が無い独特な雰囲気のジェニス教官の事を、僕は好きになれない。
でも、学生がBランク以上の討伐依頼を受ける場合、学院長の承認と、教官の同行が必須だと言う。
彼の同行もやむを得ない。
朝からやたらと熱量の高いジェニス教官の先導で、ギルドの手続きを終えると、王都郊外のヤプー鉱山の坑道に向かう為、ギルドから提供された馬車に乗った。
どうやらAランク以上の討伐依頼の場合、ギルドが馬車や魔導車を用意してくれるらしい。
「お前らのパーティーは、前衛がミアとエリスランディ、後衛がレイン・ブラッドリーとベティ・クロフォードで間違いないな?」
ジェニス教官が馬車の中で、僕らに役割の確認をして来た。
皆んなが頷くと、教官は何とも難しい顔をし始めた。
「今回討伐対象のレッサーデーモンは、魔術耐性がとても高い。
出来れば前衛がもう1枚欲しいな」
「何よ、心配症ね。
ミアとランディが居れば、下位魔族なんて瞬殺よ。
ね?ランディ?」
うおおーい!あんだけ魔族は危険だと言ったろうが!
それから、ミアは本当に僕たち以外への人に対して当たりがキツい。
教官もムッとしているじゃないか。
「ミアが剣聖なのは知っているが、力を過信しない方が良いな。
そんな事では、お前は間違いなく魔族に瞬殺される」
流石に教官だ。魔族の恐ろしさを良く分かっている。
この人苦手だけど、言っている事は正しい。
「何よ、さっきから偉そうに!
じゃあ、ミアがレッサーデーモンを瞬殺出来たら、ランディとの学生結婚を特例で認めなさいよ!」
は?何て事をおっしゃる!
僕らは結婚が出来る年齢だけど、学院では学院生同士の結婚を認めてない。それでミアは特例でと言ったんだろうけど、特例も何も結婚するという誤解は…しまった…解いてない。
ゴタゴタし過ぎてて、失念していた。
「おいコラガキ!
あんま大人を舐めんなよ?
上等だ!お前如きが瞬殺出来たら何でも言う事聞いてやらあっ!
その代わり瞬殺出来なかったら、夏休みは全部補習だかんな!
あと、そのデカイ乳を揉みしだかせろ!」
お、大人気ない…
そんなの絶対ミアが不利だ。
それにセクハラこの上ないぞ、この教官…
「ちょっと教官!
ミアの胸を触るとかダメですよ!
僕はそんなおかしな条件には黙っていられません」
「ああ…ランディ…
ミアのためにそんなに怒ってくれるのね」
うわぁ、ミアがめっちゃ密着して来る!
あ、教官が露骨に舌打ちしてるし、もうちょっと自重してくれないかな?
「先に条件を出したのはミアだぞ!
チッ!ならお前らパーティー全員で、5分以内に倒せたらって事にしてやらあ!
出来なければ補習と乳揉みってのは変えねえ」
「クソ!何てダメな大人なんだ!
分かりました。
ミアの女性としての尊厳は僕ら全員で守りますから!」
「きゃあっ!ランディカッコいい!
ねえ、レッサーデーモンを倒したらお金が一杯貰えるみたいよ?
夏休みに新婚旅行に行きましょ?」
おおい!自分の身体が賭けの対象になってるんだぞ?
いい加減危機感を持ってくれよ…
僕ははしゃぐミアに、諦観の眼差しを向けた。
「ランディ、アナタは根暗過ぎて思った事を口に出せないのがいけないわ」
向かい側のシートでレインに甘えていたベティが、急に尤もらしい事を言い出した。
確かに、僕はクラスメイトから嫌がらせを受けても、何も言わずにいた。
根暗だという自覚もある。
「た、確かに、ベティの言う通りかも知れない」
「でしょ?
だから思ってる事をちゃんと言いなさい。
『5分以内に倒したら、ボクがミアちゃんのオッパイを揉みたい!』ってね」
「いや、揉みませんが何か?」
ベティを見直して損した。
僕は冷めた目でベティを見るのだった。
ややあって。
僕たちはレッサーデーモンが拠点にした坑道にやって来た。
ここはミスリル鋼の採掘場だったのだけど、レッサーデーモンの襲撃を受けて以来、採掘作業が出来ずにいるらしい。
討伐出来れば、採掘作業が再開出来るので、かなり王国の経済に貢献出来る。
「30メートル進んだ先に、レッサーデーモンが居るわ」
賢者のジョブを持つベティが、索敵魔術でレッサーデーモンの正確な位置を割り出した。
どうやら他に魔物は居ないようだ。
ベティが指し示した場所は少し広めの空間になっていて、そこに魔物の肉を貪るレッサーデーモンが居た。
ベティが隠蔽魔術を並列でかけているので、僕らに気付いている様子は無い。
「行くわよ!身体能力強化!加速強化!鋭刃化付与!魔術強化!」
複数のバフをベティが僕たちにかけてくれた。
僕とミアはすぐさま坑道の陰から飛び出し、一瞬でレッサーデーモンの背後を取る。
何だか思っていたよりも、レッサーデーモンの動きがトロい。
「ホーリーランス!」
レインの中級聖属性魔術が、レッサーデーモンの翼を貫き、僕はレッサーデーモンの両脚に、ミアはジャンプしてヤツの首に剣を振るった。
スパパン!ドシャッ!
あ、ミアが一撃で首を刎ねた。
ほ、本当に一瞬でレッサーデーモンを屠ってしまった…
う、嘘だろ?
相手は魔族だぞ?
そ、そうだ!魔族は生命力が強いから、胸の魔核を砕いて確実にトドメを…
「お兄ちゃんの仇!」
ミアが既に倒れ伏した魔族の胸を、ロングソードで貫いていた。
それにしても、ミアのさっきの言葉と悲痛な表情…そういう事だったんだな…
「そうか…ミアはお兄さんを魔族に…」
「あ、うん…コイツらのせいでね。
あんなに…強くてカッコ良かったお兄ちゃんが…」
「ごめん…辛い思いを掘り返すような事を言ってしまったね」
「ううん…いいの。彼女は今、第二の人生を謳歌しているみたいだし」
あれ?第二の人生って事は、亡くなった訳ではないのかな?
いや、それよりも、彼女って言わなかったか?
いや、聞き間違いだろう。
「お、お前ら…な、何をしたんだ?
どうしてレッサーデーモンを瞬殺できた!?」
あ、ジェニス教官の事をすっかり忘れてた。
「何すっとぼけた事言ってんの?
ちゃんと約束守ってよね!
ミアは早くランディのお嫁さんになりたいんだから!」
「いやいやいや!ちょ、ちょっと待とう!
僕らは結婚どうこう以前に、恋愛関係ですら無いでしょうが!?」
「え!?ミアの事を騙したの?
今日だって、『僕のミアを絶対に守り抜く!キリッ』って言ったのに!?」
「いやいや!僕のとは言ってないから!」
「男のくせに優柔不断なんだから。
ミアちゃんみたいに可愛いコに好かれる事なんて、ランディの人生に1回も無いくらいの奇跡なのよ?
男らしく責任を取りなさいよ!」
何故か僕とミアの話し合いに、ベティまでも介入して来た。
流石にしんどいんだが…
その後、結婚を主張する2人に何とか食い下がって、今すぐの結婚ではなく、夏休みに婚前旅行に行く事になった。
というか、既に僕とミアが付き合っているという体で話が進んでいるような…
因みに旅行で使ったお金は全額、賭けに負けたジェニス教官が負担するらしい。
「なぁ、エリスランディ。
お前ら行きの馬車の中で、魔力を素早く循環させるトレーニングをしていただろ?」
帰りの馬車内で、さっきまで幾ら払うのかビクビクしていたダメ大人が、急に僕らのトレーニングを言い当てて来た。
僕が無言で頷くと、ジェニス教官は真剣な面持ちで話を続けた。
「そのトレーニングは、絶対他のヤツには教えるな」
「あまり広める気は無いですけど、どうしてですか?」
「体内魔力を緩急つけて循環させるトレーニングは、膨大な魔力量と強靭な肉体の2つが揃ってないと不可能だ。
一般的な冒険者がそれをやると、下手したら死ぬ」
マ、マジですか〜!
あ、危ねえ…ロシュが朝練に参加したいと言って来たばかりだ…
ミアから地獄のトレーニングだと聞いて諦めてたけど、参加してたらロシュが死んでたって事か。
「ああ、勘違いさせてしまったな。
ゆっくりと体内魔力を循環させるトレーニングは、とても効果的なトレーニングだ。
ベテランの冒険者はやっている者が多い」
「え?じゃあ、何で学院で教えないんですか?」
「馬鹿か!?
普通は体内魔力の流れを掴むだけで、5年以上かかるんだぞ!?
ましてや意識して循環させるなんて、2年間で出来る訳が無い。
お前らが規格外過ぎるんだよ。
とても人間業とは思えん」
マジか…俺たち4人は人間をやめてしまったんだな…
あまり目立たないようにしよう。
いや、待てよ?
「行きの馬車の中で、魔力循環をしているって気付いたんですよね?
じゃあ、何であんなセクハラな賭けを吹っかけたんですか?」
「ああ、お前らの中で、ミアは魔力の循環が少しだけぎこちないようだったからな。
あのままだと、ミアが1人で突っ込んで行きそうだったろ?
お前はミアの事が好きだと思ったから、お前もけしかける為さ」
「い、いや、す、好きとか…そ、そういうのじゃねえし」
「嘘つけ。顔が赤いぞ?」
「やっぱり、ランディもミアの事が好きなのね!
もうこれは結婚しか無いよね!」
う、うわ。ミア、抱きついて来るな!
クソ!意識すると、ますます顔が赤くなる。
ジェニス教官は、ニヤケ面でこっちを見てるし。
それにしても、この男…本当に何を考えているのか掴めない。
「ただ、あんなアッサリ倒すなんて、思いもよらなかったけどな。
実際の動きを見たら、ミア1人でも瞬殺出来たっぽいから、俺が吹っかけたのは余計なお世話だったかもな」
教官はそう言うと、馬車の窓から外の景色を眺め出した。
その後、冒険者ギルドで討伐報告を終えて、レッサーデーモンの魔石の買取をして貰った。
僕らが手にしたお金は、なんと1人300万ルエン!
内訳は、下級魔族の討伐達成報酬が800万ルエンで、魔石が400万ルエン。
学院生は、全員入学時に自分の口座を開設しているので、それぞれの口座に入金して貰った。
学院に入ってから、レインとベティと一緒にちょこちょこ小遣い稼ぎをして来たので、結構な貯金額になった。
色々とあったけれど、ミアが今日から『魔術的兄弟(仮)』の仲間になりました。




