11話 因縁の対決
「ちょ、ちょっとくっ付き過ぎだぞ」
始業時間15分前に教室に入り、いつもの角にある長机に座ると、ミアが何故か僕の隣に座ってやたらと体を寄せて来た。
元々女子と接し慣れてないのに、ミアのように容姿が整った女子にくっ付かれると、とても落ち着かない変な気分になる。
「教科書どっか行っちゃったの。
お願い、見せて?」
「わ、分かった。見せるから、そんなにくっ付かないで貰えるかな?」
また女性誌に影響されたのだろうか?
何か僕に甘えているみたいな態度だ。
ミアは、僕の言葉は聞こえないとばかりに身を寄せる。
「ぶつぶつエリスの癖に、朝から女とイチャついてんじゃねえぞ!
ったく、雑魚の分際でチョーシこきやがって」
不機嫌そうな剣豪のジョブ持ちのマックが、僕に罵声を浴びせて来た。
コイツは相変わらずだな。
「は〜あ、自分が雑魚過ぎるからって、ランディに嫉妬しないでよね。
それに、ブツブツってニキビ面のアンタの方でしょ?
ランディはとても綺麗な顔をしてるわ!」
あ、またミアがトゲのある感じに戻ってる。
何もそんなヤツに言い返さなくても良いのに。
「な、何だと!自分が剣聖だからって、図に乗ってんじゃねえぞ!」
「まぁ良いじゃない。小汚い平民同士が傷を舐めあってるだけでしょ」
登校して来たレジーナが、マックに声をかけて諌めている。
一緒になって罵倒して来るかと思ったんだけど、少々意外だな。
「エリス、2限目の戦闘演習で半殺しにしてやるわ。
楽しみにしておきなさい」
あ、やっぱり何も変わってないんだね。
コイツら2人は特に嫌がらせをして来るから、態度を改めるなんてしないよな。
「おい、校則に則ったスカート丈にした方が良いぞ。
この前みたいに、みんなの前で下着を晒したく無いだろう?」
「なっ、て、テメエ!絶対にブッ殺してやる!
逃げんじゃないわよ!」
親切で言ったのに、何をそんなに怒ってるんだ?
すぐに始業のベルが鳴り、怒った様子の2人が席に戻って行く。
「ミアもスカート丈を直した方が良いぞ」
「ミアは折ってるだけだから大丈夫。
ランディ以外の人に下着を見せたりしないわ」
「いや、僕に見せるのもダメだろ」
ミアはどうしてやたらと甘えて来るんだろう?僕は本当に女子に耐性が無いので、あまりくっ付いて来られると心臓がバクバクして落ち着かない。
ダンジョンでの中間査定前までと態度が違い過ぎて困惑しているので、余計パニクっちゃうな。
授業が終わった後に、ミアにあまりくっ付いて来ないように注意しよう。
はぁ…
どうやら、マックとレジーナの怒りは1時間で収まらなかったらしい。
僕は床から1メートルほどせり上がった闘技舞台上で、殺気立ったレジーナと向かい合っている。
ミアも僕の隣で、木剣片手に殺気立つマックと対峙している。
2対2の状態だ。
それにしても、マックとレジーナが両手にしているグローブと、履いている靴は魔導具じゃないだろうか?
模擬戦での魔導具の使用は禁止されている筈だ。
「あの、デーブ指導員。
マックとレジーナが、魔導具を付けているようだけど?」
「魔導具を使うなんて禁止でしょ!早くグローブと靴を外させなさいよ!」
僕とミアは指導員のデーブに抗議をした。
「いや、あのグローブと靴は魔導具では無い。
だから、全く問題無い」
何とも姑息な連中だ。
恐らくマックとレジーナの家の権力を恐れて、ヤツらに肩入れしているんだろう。
この学院も腐っているな。
「言い掛かりを付けて逃げんのか?
これだからクソ雑魚どもは」
「私たちと戦うのが怖いなら、2人とも全裸で土下座なさい!
それで許してあげるわ」
「ヒャハハハ!そりゃ良い!
ミアはツラと胸の発育は上等だからな。
裸土下座の後は、俺様の性奴隷にしてやるよ」
とことん醜悪なヤツらだ。
僕だけに嫌がらせをするなら構わない。でも、ミアまで巻き込むのは許せないな。
「2対2でやるのは構わない。
だが、そのグローブと靴が魔導具と分かったら、お前らの両手と両足をズタズタにする。
それで良いな?」
「ハハッ!テメエみたいな雑魚にそんな事が出来る訳がねえだろ。
やれるもんなら手足をズタズタにして見ろよ。
その代わりお前らが負けたら、ミアは俺様の性奴隷だ」
何て下衆な男だ。
しかも、あんな発言をしたら、自分が魔導具を使っていると明かしたようなものだと言うのに。
一応魔導端末で動画を撮っている。
後で難癖をつけられても、動画が有ればどうにかなるだろう。
僕たちが負ける事は無いけど、ミアの体を賭けさせたくは無い。
どうするかな。
「それで良いわ。
ミアのランディが、アンタ達なんかに負ける訳無いんだから」
「ちょ、ちょっと待とうか。
こんな下らない勝負に、ミアの事を賭けさせる訳にはいかない」
「ミ、ミアの事をそこまで…そんなに大切に思ってくれるのね…
幸せ…もう死んでもいい」
何かミアがおかしな事になっている。
しまった、模擬戦開始のブザーが鳴った。
直ぐにマックの魔導具が起動する。
赤い光を放ったマックの靴は、高速移動が出来る魔導具のようだ。
靴底から風が噴射して、ミアに急接近する。
移動中にマックのグローブが青く光り、模擬戦用の木剣が金属で覆われて鋼鉄の大剣となった。
「はい、アウト」
僕は魔力操術で、マックの両腕と両足の筋肉を内側から破裂させる。
ボシュッ!ボシュッ!
「へ、へぎゃあああああ!あ、あ、あぁ、、、い、でええええ!!!」
両腕と両足がズタズタになって床に倒れたマックは、奇声を上げながら体を痙攣させている。
「さて、マックはその内くたばるだろう。
動脈が傷ついたみたいだしね。
お前もその魔導具に魔力を込めたら、一瞬で両腕と両足がズタズタになるけど、どうする?」
「ふ、ふざけんじゃないわよ!
平民のくせに、貴族の私たちにこんな事をして良いと思ってるの!?」
露骨に狼狽えるレジーナは、見苦しく家柄を振りかざして喚きだした。
はぁ、メンドくせえ。コイツは頭を破裂させよう。
「エリスランディの行為は全く問題ねえぜ!
寧ろ、模擬戦で魔導具を使ったマクレランとレジーナ。それと黙認したデーブ。
お前らは処罰の対象だ。
マクレランとレジーナは除籍。デーブは懲戒免職を覚悟しておくんだな」
大声でそう言いながらこちらにやって来たのは、僕らのクラスの担任教官のジェニス教官だ。
冒険者学院の教官は、様々な分野のスペシャリストが多いので、日々の授業にかかりきりになる事が出来ない程多忙だという。
こんな模擬戦に顔を出すなんて珍しい。
「は?魔導具?
そんな事より、エリスは貴族に大怪我を負わせたのよ!」
「レジーナ、君は学院の規約を知らんのか?
当学院は、家柄での差別は固く禁じている。これに背く者は国王陛下への叛逆とみなされる。
君は除籍では飽き足らず、叛逆罪で投獄されたいのか?」
余りにも腐った指導員が多過ぎて、本当に学院が平民を守るなんて思わなかった。
「待ってください教官。
レジーナは魔導具だという事を聞かされずに装備している可能性が有ります。
現にまだ一度も起動させて無いですし、先程僕に食ってかかったのも、マックを破壊した事に対する抗議だけでした」
まぁ、こんな女が処分されるのは構わないけど、あからさまに魔導具という指摘に反応したのはマックだけだった。
レジーナに非がないのに、とばっちりで退学をさせたとなったら、僕はマックと同類になってしまうような気がする。
「ああ、確かにレジーナからは魔導具の使用を匂わす言動は無かったな。
どうなんだ?魔導具と知らなかったのか?」
「は、はい…知りませんでした。
でも、例え知らなくても、不正な装備を身につけて模擬戦を行った事に変わりはないわ。
マックが除籍になるなら、私も除籍になるべきです」
レジーナがこんなに潔いとは知らなかった。
友達想いな所も有るのかも。
「マックも除籍にならないよ。
今回は模擬戦じゃなくて、条件付きの決闘扱いになるだろうからね。
証拠はコレ」
僕はそう言って、先程録画した動画を再生した。
「僕は、魔導具だと分かったら、彼に手足を吹き飛ばすと条件を出した。
マックはその条件を飲んで、ミアの事を勝負の条件に出した。
ミアがその事を了承した事で、お互いの条件が合意された決闘という扱いに出来る。
僕は決闘だったと言うし、マックが目覚めた時に決闘だと認めれば処罰の対象にならない」
「うう〜ん…結構無理のある決闘だな。
ミアはそれで良いのか?」
ジェニス教官はミアに確認を取る。
ミアは困った表情で僕を見て来た。
「ホントに良いの?
アイツ、ランディに散々嫌な態度を取ってたんだよ?」
「う〜ん、ミアと仲良くなる前までだったら、このまま切り捨てたと思う。
ミアと話すようになったからかな?
マックにもミアと同じように、冒険者をやりたい強い想いが有るんじゃないかって思ったんだよね。
今までの蟠りで、そういう夢や目標を切り捨てるのは良くないかなってさ」
僕の言葉を聞いて、ミアは渋々納得してくれた。
勝負に敗れていたら、ミアはマックに酷い目に遭わされただろうし、彼女がマックの排斥を訴えるなら、彼女の意思を尊重するつもりだった。
結果として、何とか事態が収拾したようで嬉しい。
さっきはレジーナを降参させる為にハッタリをかましただけで、マックの動脈に傷は付いてない。
学院の治癒師に手当てして貰えば、5日程で治るだろう。




