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10話 変化

 


 ミアが朝のトレーニングに加わって3日が経った。



 彼女の魔力循環の上達振りは、舌を巻いてしまうほど素晴らしい。

 剣聖というジョブに胡座をかく事なく、長い間鍛錬してきたであろう事は、彼女の剣術を見ていれば容易に想像できる。

 研鑽を積み重ねて来たからこそ、修行の要点を掴むのが早いんだろう。


 僕もうかうかしていられないな。


 レインとミアとの早朝トレーニングを終えた僕は、始業20分前に教室に着くように寮を出た。


 レインは学級長の雑事が有るらしく、僕より30分早く登校したので、今日は一人ぼっちの登校だ。

 と言っても、寮から校舎までは歩いて10分くらいなんだけど。



「ランディ、さっきぶり〜!

 教室まで一緒に行こ?」



 元気な声と共に、ミアが後ろから抱きついて来た。


 め、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど…

 僕は自慢じゃないけど、ミアと仲良くなるまで女の子と間近で接した事がない。

 普通は異性であっても、学友にはこれくらいの距離感で接するのだろうか?

 王国は恋人同士のスキンシップはかなり激しい。学院生の恋仲の男女は、人前でハグやキスを当然のようにしているけど、学友同士もそんな感じなのかな?


 僕のキョドッた状態を他所に、ミアは腕を組んで来た。

 な、何だか色々と当たって…



「ねぇねぇ聞いて〜。

 女子寮の寮母ってめちゃうるさいの〜。

 今朝もランディ達と朝トレが終わって寮に戻ったじゃない?そうしたら、寮母が夜遊びして朝帰りしたんじゃないかって疑って来たの。

 ミアにはランディが居るっていうのに、そんな夜遊びなんてする訳無いじゃない?

 他にも…」



 ミアが女子寮の事を色々話してくれてるけど、僕は腕に当たる柔らかな弾力とか、ミアの綺麗なロングヘアから漂って来るフルーティーな香りとかで、最早それどころじゃ無い。

 そんなドキドキ登校タイムを味わっている内に、校舎の玄関に到着した。



 ああ…またか…



「うわっ、な、何か凄い匂いがしない?」



 そう言うと、ミアが制服のブレザーのポッケから、ピンク色の可愛らしいハンケチーフを取り出して、鼻を押さえる。



「コレは僕のせいなんだ。

 ミアは少し離れてて」



 ミアに下がるよう言って、僕は自分の下駄箱を開けた。

 上靴に、白濁色のドロドロした物が溢れんばかりに盛られている。

 恐らく瓶入りのミルクを腐らせて、僕の上靴にぶち撒けたんだろうな…


 すぐに学校から支給されているマジックバッグからゴミ袋を取り出して、周囲に展開している魔力を操作する。

 上靴は防水防汚効果が付与されているので、中に腐ったミルクが染み込む事は無い。

 魔力で上靴をそっと動かして、ゴミ袋に突っ込んで初級の風魔術で腐ったミルクを吹き払う。

 下駄箱に残っている腐ったドロドロのミルクは、魔力で包み込んでゴミ袋に放り込んだ。

 コレで上履きと下駄箱はすっかり綺麗になった。



「酷い!誰がランディにこんな事するの!?」



 ミアは怒りの表情で声を荒げた。



「良いんだよ。こんな事はしょっちゅうだからさ。

 気にしても仕方ないよ」


「こんな姑息な嫌がらせされて、腹は立たないの!?

 ミアはランディにこんな事をする奴は許せない!」



 ミアが自分の事のように怒っている。

 何か少し嬉しいかも。

 今まで僕の為に怒ってくれる人は、レインしか居なかった。



「腹が立つ事も有ったさ。

 特にこの2ヶ月は、嫌がらせの首謀者をブチ殺そうって思うくらいだったよ」


「じゃあ何でブチ殺さないの?

 ランディだったら、姑息な奴らを殺すくらい訳ないでしょ?」



 僕がゴミ袋をマジックバッグに収納しながら答えると、更にミアは殺さない理由を尋ねてきた。



「うーん、こんな僕でもレインって言う親友がいるからね。

 レインとは卒業後に一緒にパーティーを組む約束をしてるからさ、あんな優しいヤツを裏切れないんだよね。

 それに、今はミアも仲良くしてくれるから、こんないやがらは余計気にならないよ。

 僕の為に怒ってくれてありがとう」



 僕はそう答えて、ミアに頭を下げた。



「え、あ、う、うん…どういたしまして…


 ……ランディって心が広いんだね」



 ミアは恥ずかしそうに顔を赤くしている。

 何か照れるような事を言ったかな?


 僕たちは気を取り直して教室に向かった。


 僕がいつも座る席にも画鋲が置かれていたり、机に死ねとかクソ雑魚とか落書きされている。

 本当にヒマな連中だなぁ。

 こんな事をする時間が有るなら、トレーニングに精を出すべきなのに。



「ちょっと!こんな酷い嫌がらせしたの誰よ!?

 ミアが叩き斬ってやるから名乗り出なさい!」


「ミア、落ち着いて。そんな怒るような事じゃないさ。

 僕、雑巾を濡らして来るよ」



 怒り心頭のミアを宥めた僕は、掃除用具入れから雑巾とバケツを取り出して、手洗い場へと向かった。

 教室に戻って机の落書きを雑巾で落としていると、ミアとロシュも手伝ってくれた。



「ミア、ロシュ…あ、ありがとう」


「何言ってるの。

 ミアとランディの仲でしょ?」


「気にすんなって。

 ホント姑息な事をする奴らだよな」



 クラスで僕を庇ってくれる人が出来るなんて…



 僕は不覚にも泣きそうになってしまった。

 ミアに加えてロシュまで…

 僕の学院生活は最高な友達のおかげで、変わり始めていた。




 ◇◇◇◇◇




 昼休み。


 僕はいつも屋上でレインと一緒に食べているんだけど、今日はミアとロシュも一緒に来てくれた。



「2人とも、今朝は本当にどうもありがとう!」



 僕は改めて、ミアとロシュにお礼を言って頭を下げる。



「もう、何回お礼を言うの?

 大した事してないよ?」


「そうだぜ。

 俺だってランディにダンジョンで助けて貰ったじゃねえか。

 困った時はお互い様ってヤツだ」



 本当に2人の好意はありがたかった。

 絶対に嫌がらせに屈しないという心の強さを、今朝の一件で2人から貰ったんだ。

 感謝してもしきれないよ…


 しばらくするとレインも屋上に来たので、ロシュの事を紹介して4人でお昼ご飯を食べた。

 レインはロシュとも直ぐに打ち解けて、ダンジョンでの話などで盛り上がった。



「今まであまり話す機会が無かったけどよぉ、ランディは俺の事を見下さないのな」



 ロシュが不意にそんな事を言い出した。



「確かに。

 それだけ強いんだから、ミアやロシュを下に見ても不思議じゃないのにね」



 ミアも同じことを思ってたようで、ロシュの言葉に同調する。



「正直に言うと、ロシュの事はビビりだなっては思ってたよ。

 ミアの事も脳筋だなってね。

 でも同時に、2人とも素質があるのに勿体ないなって思うんだよね」


「素質が有る?劣等生の俺がか?」


「うん。

 ロシュはタンクとして有用なスキルを幾つも持ってるじゃないか。

 ただ、臆病過ぎて活かしきれてないだけさ。

 心を強く持って、経験を積めば良い冒険者になるのになぁっていうのがロシュの印象だったよ」


「マ、マジかよ!

 俺に素質が有るって?

 俺がチキンロシュって呼ばれてんのは知ってんだろ?」



 ロシュは自分の実力に気が付いて無いのかな?



「ロシュは体幹はしっかりしている事からも、常に厳しいフィジカルトレーニングをしている事が分かるし、この間の探索の時もポジション取りがとても上手かった。

 ロシュが相当な努力を重ねて来ているのは間違いないんだ。

 それに、臆病な事は必ずしも悪い事じゃ無いんだよ。

 言い換えれば慎重さが有るって言う事だからね」


「そ、そうか…

 ランディ、お前ホント良いヤツだな。

 お世辞でも嬉しいぜ」


「え、お世辞なんかじゃないよ。

 次にまたダンジョンの実習が有ったら、是非同じ組でやりたいなって思った程だよ。

 ロシュだけじゃなく、モネやセレナも光る所が有るし、そういう素質のある人に見下す態度なんて取れないだろ?」



 僕は思っている事をロシュにブチまけた。

 ロシュは照れ笑いをしている。

 僕も言った後で少し照れ臭くなった。



「ランディって凄いなぁ…

 強いし…カッコいいし…優しい…」



 な、何かミアがトロンとした表情で僕の方を見て、何やら呟いたみたいだけど、声が小さくて良く聞こえなかった。



「ミアちゃんって大胆だねえ。

 それはランディへの告白かい?」



 レインがミアの呟きに、掘り下げ的なツイートをした。



「え?あ、いや、そ、そんな…

 ち、違うの!えっと…

 あの、ミアは客観的な事実を言っただけ!」



 ミアがめっちゃ顔を赤くしている。



 何だか良く分からないけど、今まで孤立していたクラスの中にも友達が出来て本当に嬉しいな…

 午後の授業と放課後のトレーニング頑張ろう!




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