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1話 僕の学院生活

 


「アイツまた目を閉じてブツブツ言ってるよ」

「なんかキモくね?」

「やめとけ、アイツ禁忌の呪術を使うらしいぞ」

「呪われるから向こう行こうぜ」



 クラスの連中が何やらヒソヒソ話をしている。

 きっと僕の事を蔑んでいるんだろう。

 僕が通う王立冒険者学院は、希少なスキル持ちや有望なジョブを持つ者、高い戦闘能力を持つ者のみが入学を許される。

 言わば、冒険者のエリート候補生が集まる学校だ。


 そんなエリート校の訓練場で、僕は体内魔力を操作するトレーニングを行なっている。

 今さっき僕を悪く言っていた連中には、僕の行なっている訓練が少しも理解出来ないんだろう。

 僕からすると、クラスメイトの連中の訓練は、それっぽく見せる為の行為にしか見えないんだけどな。

 木剣で意図も無く素振りをしたり、漫然と魔術を的に当てたりと、全く意味のない事をして『努力してますよ感』を出している。

 皆んな凄いジョブやスキルを持っているのに、勿体ない時間の使い方をしているなぁ。



「オイ!ぶつぶつエリス!

 テメエ目障りなんだよ!

 俺様の特訓の邪魔だ。さっさと訓練場から出て行け」



 剣豪のジョブを持つマックが、怒声と共に背後から蹴りを入れようとしている。

 後ろに目が有る訳では無いので、見えては居ないけど、彼の動きを捉えてはいる。

 僕はマックのすっトロい前蹴りを、最小限の横への移動で躱した。



「ぎゃ、ぎやあああああ!!!あ、脚があああ!」



 マックの蹴り足が伸び切る瞬間を見切って、膝に軽く触れただけなんだけどな…

 蹴り足のヒザ関節が外れて、マックの脚は変な方向に曲がってしまった。

 脱臼程度で泣き喚くとは、情け無いヤツ。



「ハァ…僕の名前はエリスランディだ。

 エリスで切らないでくれるかな?女の子の名前みたいじゃないか」



 泣きながら地面に転がっている、マックにそう伝えると、僕は訓練場を後にした。



「エリス!ちょっと待ちなさいよ!」



 訓練場から廊下に出た所で、不意に呼び止められた。

 途中で名前を区切られたのが気に入らないので、僕は無視してそのまま図書室の方へと歩き出す。


 ハァ…ウンザリだ。


 僕を呼び止めた女子生徒が、魔力を雷属性に変換して魔法杖に込めている。

 初級魔術のスタンを使うつもりなんだろう。



 バチィッ!ドサッ!



「きゃっ!…はっ、あっ…な、何で!?」



 女子生徒は自分の魔術を食らって、その場に崩れ落ちた。

 初級魔術を放つ事なんて、ちょっとでも素養が有れば誰でも出来る。

 才能がある者は、どのように魔術を放出すると効果的に相手に当たるかを考える。


 だけど彼女は、ただ僕の方に向けてスタンを放っただけ。

 惰性で放った魔術に対して、軌道を逸らすように角度を付けて魔力をぶつけると、微弱な魔力量でも簡単に軌道は逸れる。

 僕は彼女がスタンを放った瞬間に、周囲に展開している微弱な魔力を6回ぶつけて、軌道を彼女の方へと向けただけ。

 そんな事も彼女には分からないらしい。



「おい!レジーナがパンツ丸出しで倒れてっぞ!」

「うぉ、マジだ!エグいの穿いてんなぁ」

「キャッ!見、見るなぁっ!」



 後ろから男子2人と、スタンで痺れている女子の声が聞こえる。

 あの女子はレジーナか。

 校則を破ってスカート丈を短くしているから、衆目に下着を晒す羽目になるんだ。


 マックとレジーナは特にボクの事を嫌っている。

 今回は初めて直接的に危害を加えて来たけど、これまでもカバンを隠されたり、机に酷いことを書かれたり、教室の扉にウォーターボールが挟まれていたり、陰湿な嫌がらせを受けて来た。

 その程度なら別に我慢は出来る。


 ただ、最近の2ヶ月は、彼らの嫌がらせがエスカレートしている。

 先日行われた中間査定の座学試験では、僕がカンニングをしているとデマの報告をされた。

 直ぐに僕が不正をしていない事が、記録用魔導具で証明されて事なきは得たけれど…

 正直、こんな学院生活にウンザリしている。




 精神的に追い詰められた僕の、今の憩いの場が図書室だ。

 さすが王立校だけあって、珍しい魔術理論の本や、失われた魔法に関する本も置いている。

 今日も、僕の大好きな窓際の席が空いている。

 穏やかな午後の日差しを感じながら、魔術の本を読む時間が、僕にとっての至福の時の一つだ。



「おい、もう閲覧時間は終わりだ」



 図書委員の人に声をかけられて、いつの間にか日が暮れかけている事に気がついた。

 慌てて読んでいた本を元の棚に戻して、カバンを持って図書室を出る。



「ぶつぶつエリスのくせに、毎日読書に来てんじゃねえよ。

 マジでキメェ」



 図書室のドアを閉める瞬間、図書委員の侮蔑の篭った言葉が聞こえた。


 僕はただ本を読んでいただけなのに…


 図書室で本を読むなんて、当たり前の事じゃないか。

 わざわざ図書室で教科書を広げて勉強している連中を注意しろよ。

 連中は図書室の本を読まずに、集団で教科書と板書ノートを広げて勉強している。



「何で僕だけ、こんな不当に扱われなきゃいけないんだよ…」



 生徒が下校を終えた無人の廊下を歩きながら、そう独りごちた。



 ◇◇◇◇◇



 王立冒険者学院は全寮制だ。

 当然、僕も男子寮に入っている。

 学院から戻った僕は急いで部屋にカバンを置いて、食堂に向かった。

 晩ご飯の時間は午後5時30分から午後8時まで。

 今は7時30分。

 結構ギリギリだ。


 僕は配膳のカウンターにいた食堂のおばちゃんに学生証を見せる。



「あれ?アンタは課外活動で遅くなるから、晩ご飯は要らないって聞いたよ」


「え、課外活動なんてしてないですよ。

 一体誰がそんな事を?」


「学級長のマックだよ。

 そういう訳だから申し訳ないけど、アンタの分の食事は用意してないんだ」



 あの野郎!訓練場の事を根に持ってこんな事を!

 食堂の隅のテーブルで、マックと取り巻き連中がこっちを見て笑っているのが目に入った。



 もう我慢の限界だ!アイツの土手っ腹を吹っ飛ばしてやる!



 僕は怒りに駆られて、マックが座るテーブル席へと向かった。


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