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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サンタがいる村

作者: ウォーカー

 これは、地方の村に引っ越してきた、ある男子小学生の話。


 12月24日、クリスマスイブの日。

その男子小学生は、都会から地方の村へと引っ越してきた。

地元の小学校に転入することになって、初めての登校。

教卓の横に立って、クラスの子供達に向かって頭を下げた。

「今日から、この学校に通うことになりました。

 この村のことを、これから知っていきたいです。

 よろしくおねがいします。」

その男子小学生は、クラスメイト達に温かく迎えられた。


 それから授業が終わって、休み時間。

その男子小学生は早速、

クラスの子供達に取り囲まれて、質問攻めにされていた。

「君、どこから引っ越してきたの?」

「東京からだよ。」

「今日ってクリスマスイブだよね。

 こんな時期に引っ越しなんて、珍しいわね。」

「パパの仕事の都合で、急に引っ越すことになったんだ。」

「得意科目は?」

「うーん。

 特に無いけど、体育は好きだよ。」

「得意な遊びは?」

「かくれんぼ。

 隠れるのが得意なんだ。」

転校生という絶好のおもちゃを前にして、子供達の話は尽きない。

今日が12月24日だということもあって、

その話題は自然とクリスマスの話になっていく。

その男子小学生を取り囲んでいる子供の一人が、

ヒソヒソ声になって尋ねた。

「・・・なあ。

 お前、サンタの話って信じてるか?」

それは、小学生くらいの子供がよくする質問。

その男子小学生は何気なく応えた。

「まさか。

 小学生にもなって、サンタがいるなんて信じてるわけないよ。」

それは、よくある応えのはずだった。

しかし、その応えを聞いた子供達は、次々と真顔になっていった。

お互いに顔を見合わせて、それからその男子小学生に聞き返す。

「何を言ってるんだ。

 サンタはいるよ。

 お前、小学生にもなって、まだ大人の言うことを信じてるのか。」

「・・・どういうこと?」

今度は、その男子小学生が聞き返す番だった。


 サンタと言えば。

大人が幼い子供に対して、サンタは実在すると教え、

子供は大人になるにつれて、その嘘に気がついていくものだ。

だが、この村では逆だった。

この村では、

大人が子供に対して、サンタは存在しないと教え、

子供は大人になるにつれて、その嘘に気がついていくのだという。

子供達の説明によれば、そういうことのようだ。

この村の独自の風習だろうか。

その男子小学生が、周りの子供達に問い質す。

「つまり君達は、サンタは実在するって言うのか?」

「ああ、そうだよ。

 サンタは実在するけど、大人達はそれを隠そうとしてるんだ。」

「まさか。」

その男子小学生は、信じられないという表情をしている。

それを見て、他の子供達が口添えする。

「本当よ。

 クリスマスイブの夜に、実際にサンタの姿を見たって子もいるの。

 でも、大人達にそれを言うと叱られるから、

 私達子供だけの内緒なの。」

「お前も、大人の前でサンタの話をしない方が良いぜ。」

そう話す子供達の表情は真剣で、冗談を言っているようには見えない。

もっと詳しい話を聞こうとした、その時。

教室にチャイムの音が響き渡った。

「いけね!

 すぐに先生が来るぞ。」

その男子小学生を取り囲んでいた子供達が、

蜘蛛の子を散らすように自分の席に戻っていく。

もっと詳しい話を聞きたかったが、次の授業の時間が来てしまったようだ。

仕方がなく、話を中断して、

その男子小学生も次の授業の準備をすることにした。


 その日の授業が終わってから。

その男子小学生は、

サンタの詳しい話を聞くつもりだった。

しかし、その男子小学生もクラスの子供達も、

先生達に何のかんのとお使いを頼まれてしまい、

お互いに話をする時間も無く、

各々が別々に下校することになってしまった。

その男子小学生は、寄り道することもなく、

一人で真っ直ぐ家に帰った。

それから夕方を過ぎて夜になって。

両親と夕飯を食べて、早々に寝る時間になった。


 自室で布団の中に入ってはみたものの。

その男子小学生は、中々寝付くことができなかった。

頭の中では、学校で聞いたサンタの話が渦巻いていた。

「学校のみんな、サンタが実在するって信じてたな。

 実際にサンタの姿を見た子もいるって言ってたっけ。

 まさかこの村には、本当にサンタがいるんだろうか。」

そうしてその男子小学生が、布団の中で考え事をしていた時。

ふと、周囲を見ると、

自室のドアが、ゆっくり静かに開き始めているのに気がついた。

開いたドアの隙間から、人影が滑るように入ってくる。

その人影は、赤い服を着ていた。

「・・・!」

その男子小学生は、口を抑えて悲鳴を押し殺した。

寝た振りをして、推移を見守る。

まさか、本当にサンタがやってきたのか。

そう思ったが、よく見るとそれは違った。

部屋に入ってきたのは、その男子小学生の父親だった。

ご丁寧に赤いサンタの服を着た父親は、

手にプレゼント箱を持って、抜き足差し足忍び足。

その男子小学生の枕元にやってくると、

プレゼント箱を置いて、静かに部屋を出ていった。

サンタ姿の父親が部屋から出ていったのを確認して、

その男子小学生は緊張を解いた。

「ふぅ。

 なんだ、パパか。

 学校でサンタの話を聞いたから、てっきり本物のサンタが来たのかと思った。

 まったく、紛らわしいな。」

それから、

枕元のプレゼント箱に手を伸ばそうとして、

ふと、どこからか人の気配がするような気がした。

「・・・誰か居る気がする。

 これは、人の歩く足音か?

 まだ近くにパパがいるのかな。」

しかし人の気配は、家の外からしているようだ。

カーテンを薄く開けて、隙間から窓の外を覗く。

すると、

家の外の通りを、誰かが歩いているのが見えた。

ゆっくりと歩くその人影は、真っ赤な服装をしている。

その前方には、

茶色いトナカイのようなものも見えた気がした。

「こんな夜中に、外に赤い服の人が歩いてる。

 トナカイもいるし、今度こそ本当にサンタかも。

 なんとか確認できないかな。」

窓の外に目を凝らすが、

詳しく確認するには距離が離れすぎていた。

赤い服の人影は、もうすぐ曲がり角を曲がり、

窓からは見えなくなる位置に差し掛かっていく。

その男子小学生は、赤い服の人影が気になって、

いてもたってもいられなくなった。

「こんな夜中に外に出るのは怖いけど、学校で聞いたサンタの話が気になる。

 もしかしたら、あれが学校のみんなが言うサンタなのかも。

 ちょっと見に行ってみよう。」

好奇心に負けたその男子小学生は、

部屋にあった服に手早く着替えると、

両親に見つからないよう、部屋の窓から家の外に出ていった。


 その男子小学生は、家の外に出ると、

通りを歩いていた赤い服の人影の後をつけることにした。

少し距離を取りながら、赤い服の人影についていく。

そうしてしばらく観察していると、人影の様子が確認できた。

赤い服の人影は、どうやらお爺さんのようだ。

お爺さんは、サンタのような白い髭を蓄えている。

しかし、着ている赤い服は、サンタの服ではなかった。

もっと和風の、神社の神職が着るような服に見える。

そして、

その前方にいたのはトナカイではなく、

茶色い大きな藁人形を持った人達だった。

その様子を確認して、その男子小学生が小声で呟く。

「・・・なんだ。

 サンタとトナカイじゃなかったのか。

 クリスマスイブの夜に赤い服を着てるから、てっきりサンタかと思ったよ。

 きっと、

 サンタの姿を見たって子の話も、

 あの人達の姿をサンタと見間違えたんだな。

 サンタの正体が分かったって、

 明日、学校でみんなに自慢してやろう。」

その男子小学生は、

白い息を一つ吐くと、家へ帰ろうと身を翻して、

それから足を止めて立ち止まった。

好奇心が袖を引いている。

「・・・あの人達、こんな夜中にどこに行くんだろう。

 赤い服の人を見たってだけじゃ、

 ただの通行人かもしれないし、サンタの正体だって証明できないかも。

 あの人達がどこへ何をしに行くのか、確認しておこう。」

その男子小学生は、

またしても好奇心に負けて、

赤い服の人影の後をつけていった。


 雪がちらつき始めた深夜。

赤い服を着た神職を、大きな藁人形を持った人達が先導していく。

そこから少し遅れて、その男子小学生が後をつけている。

その一行は、

寝静まった村の中を練り歩き、

やがて、山道へと入っていった。

そのまま静かに山道を登っていく。

後をつけているその男子小学生が、

額にうっすらと汗を滲ませるくらいに、山道を登っていった頃。

山道の先に、赤い鳥居のようなものが見えてきた。

赤い服の一行は、その鳥居をくぐって奥に進んでいく。

少し遅れて、その男子小学生も後に続いていった。

その鳥居の先が、その一行の目的地だった。


 山道の鳥居の先にあったのは、小さな神社だった。

境内の広さは、小学校の校庭くらい。

真っ暗な境内では、焚き火が煌々と焚かれていた。

赤い服の一行は、

その焚き火の周りに並ぶと、

何かしらの念仏のようなものを唱えながら、

手にしていた大きな藁人形を焚き火に焚べていった。

焚き火に焚べられた藁人形が、火に包まれていく。

燃えていく藁人形からは、

藁の匂いに混じって、肉の焼けるような匂いが立ち昇っていった。

その匂いは、

少し離れた場所にいる、

その男子小学生の元にも漂ってきた。

「・・・くんくん。

 これ、焼き肉の匂いみたいだ。

 あの藁人形の中に、肉でも入れてあったのかな。

 何のために、そんな勿体ないことをしてるんだろう。」

辺りに肉の焼ける匂いが漂ってから、しばらくして。

神社の周囲の山林が、にわかに騒がしくなった。

木々がガサガサと揺れて、鳥達が飛び立っていく。

そうして山林から姿を現したのは、大きな獣だった。

その男子小学生が驚いて声を漏らす。

「何だ、あれ!?

 あんな大きな獣、見たことがない。」

山林から現れた大きな獣の姿を見て、

その男子小学生は腰を抜かしそうになっていた。

それもそのはず。

その獣は、

大きさは二階建ての建物くらい。

毛むくじゃらの体は筋骨隆々。

横に大きく広げた口からは、大きな牙が顔を覗かせている。

動物園でも見たことがないような、大型で凶暴そうな獣だった。

その大きな獣は、

焼けた肉の匂いをくんくんと辿って、

焚き火に焚べられた大きな藁人形を荒々しく齧り始めた。

中に詰めてあったらしい肉が溢れ落ちる。

その間も焚き火の周りでは、

赤い服の一行が、一心不乱に念仏を唱えていた。

早々に肉を食べ終えたその獣は、

さらに鼻をヒクヒクとさせると、

ギラリと光る眼で、その男子小学生の姿を捉えた。

その眼光に射抜かれて、その男子小学生は声を震わせた。

「あわわ。

 あの獣、僕を見ているぞ。

 早く逃げないと・・・」

その男子小学生は腰を抜かして、

地面を這い回るようにして逃げようともがいた。

遅々として進まないその身を、その大きな獣の目が捉えて離さない。

その大きな獣は、

大きくて太い脚で地面を蹴って跳躍すると、

逃げようとするその男子小学生の後ろから襲いかかった。

大きくて鋭い爪が、その男子小学生の無防備な背中に突き立てられた。

肉が引き裂かれて、骨が砕ける音が響き渡る。

焼けた肉の匂いに混じって、生の臓物の匂いが辺りに漂い始めて、

そうしてようやく、

赤い服の一行は異変に気がついた。

唱えていた念仏を中断して、声を掛け合う。

「待て!

 何かおかしいぞ。

 誰かそこにいるのか?」

「なんてこった!人だ!

 子供が境内にいたみたいだ。

 惨多サンタ様に、子供が襲われた!」

「ありゃあ、もうだめだ。

 完全にやられちまってる。」

「子供達には厳しく言い聞かせてあったのに。

 どこの子だ?」

オロオロとする一行を、赤い服の神職が叱咤した。

「皆の者、狼狽えなさるな。

 手遅れになったものは仕方がない。

 それよりも、

 今、儀式を止めてしまったら、

 我々だけではなく、村の者まで危険に晒される。

 祈祷を続けるのだ。」

赤い服の神職の言葉に、一行の動揺が抑え込まれていく。

それから一行は、どうにかこうにか念仏を再開した。

その間も、

哀れなその男子小学生は、

その大きな獣の生贄にされていた。


 翌日。

村の役場の掲示板に、ひっそりと訃告が掲示された。

小学校では、

空席になった席の周りで、

子供達が恐恐と噂話をしていた。

そうしてその村では、

サンタの正体を突き止めた子供はその姿を消していき、

サンタが実在するという話だけが、伝えられていくのだった。



終わり。


 通常、サンタというものは、

大人が子供に対して、サンタは実在すると嘘を教えるものですが、

その逆に、サンタは存在しないと嘘をつくとすれば、それはどういう場合か。

それをテーマにしてこの話を書きました。


お読み頂きありがとうございました。


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