マジョリーナ
魔石研究の第一人者である梓音博士の弟。
以前、対魔部隊でも使用していたボディアーマーの製作にも携わっていたらしい。
なぜいつもピチピチのシャツを着ているのか疑問でしかたがないが、技術力は確かだ。
ちなみに、化粧もし、若干オカマ言葉であるが、特に同姓が好きという事はないらしい。
本人曰く、美しい物が好き。との事だ。
その美しさとは、容姿であったり、生き方であったりと様々との事。
実際にマジョリーナさんが作った魔道具はデザインが良いものが多く人気も高いため、とにかく美意識が高いのだ。
もっとも製作者本人が気に入った人にしか売らないという事なので、買い手が多くとも、実際に購入まで出来た人は少ないようだ。
また、過去に一度魔道具を転売されたこともあったが、マジョリーナさんは誰に何を売ったのか完璧に記憶しているため、
どのような事情があったにせよ、転売した人には2度と商品は売っていないそうだ。
「それで、今日はどうしたのかしら」
「前と同じ特殊弾を5ケースと、後は――」
少し言い難いが仕方ない。
「実は前に買ったショートソードが壊れてしまって……」
「――ふーん、今持ってるかしら」
見えない圧力を感じる。
恐ろしくて目を見る事が出来ない。
出来るだけ壊さないように気をつけて使っていたのだが、力加減を間違えて使ってしまったのだ。
僕はバックから柄が折れてしまった銀色の剣を取り出しマジョリーナに渡した。
「ちょっと力を入れ過ぎてちゃって……」
「あらあら。これはなんとも」
そういいながらマジョリーナは折れた剣を確認しはじめた。
「握り部分から折れている、というより砕けてるわね。柄自体の耐久が足りなかった……というより、貴方の力に耐えられなかったという感じかしらね」
「――すみません、また壊しちゃって」
頭を下げて謝罪すると、マジョリーナは僕の肩を軽くたたいて軽い様子で言葉をかけてきた。
「いいわよ。わざとじゃないでしょ? 一応あきらちゃんが使う事を想定して魔鋼合金で柄の部分を作ったのだけど、こうも簡単に壊れると逆に清々しいわね」
「ははは……」
「あきらちゃん、やっぱり剣は向いてないんじゃなーい?」
「まぁ、あきら君は素手の方が強いもんね」
一応マジョリーナは僕たちの事情を知っているが、僕の異能の詳細は知らない。
対魔部隊隊長が何故かハンター業をしているという程度の認識だ。
「いや、僕の見た目だと剣と銃がないとクエスト受ける事も出来ないから!」
「前にギルドの人に止められたもんね」
「あれ以来、クエスト前に必ず武器を見えるように装備するようになったからね……」
中々苦い経験だ。
まだハンターに成りたての頃にクエストを受け、レベルⅡの区画に入ろうとしたときに偶々いたギルド職員に呼び止められてしまった。
他のハンターが見ている中で装備について指摘され、笑いものにされたのは苦い経験だ。
今の時代では、銃の携帯程度は小学生ですらしている。
いくらハンター用の銃を所持しているとはいえ、それだけの装備の見るからに学生であるハンターはクエストを受ける前に注意されてしまうのだ。
「そうね。ちょっと待ってて、念のため、作っていた奴があるのよねぇ」
そういってマジョリーナは裏へ何かを探しに戻っていった。
その間、店に陳列されている魔道具を見る。
すべて特殊強化ガラスケースに入っている。一見するとただのアクセサリーに見える物が多いが、商品説明をしたプレートなどがあり、
どういった魔道具なのかを記載されている。
例えば、目の前にある指輪型魔道具。
金属に魔術式の刻印が刻まれており、魔力を流すと簡易的に籠められた術式が発動する代物だ。
商品説明によると、この指輪は防護術式が発動する魔道具のようだ。
値段は64万円。
魔道具の中では比較的安価である。発動する守りの強度はレベルⅢのキングタイプの魔物の攻撃を数度は受け止める事が可能との事だ。
ちなみに、これと同じ魔道具を成瀬は複数装備している。
重ね掛けが出来るため、複数装備する事によって防御面が安定するのだ。
「詩織さんは何か欲しいものあるの?」
「この間買ったばかりだから、大丈夫かなぁ」
「弾薬は買わなくていいの?」
「うん。前回買ってからほとんど消費してないからね」
僕と成瀬は基本二人で行動している。
稀に、臨時で他のハンターと組む事もあるが、基本は二人きりだ。
そのため、主な戦闘では僕が敵を殲滅。成瀬は索敵を行っている。
対魔部隊に入るだけあって成瀬の個人技能は決して低いわけではないが、前衛が得意というわけではない。
なので、成瀬は基本魔物との戦闘では、支援をメインに担当している。
「一応さ、気配遮断系の魔道具も買っておいた方がよくない?」
「でも、あれって気休め程度なのよね」
「あーら。そんなことないわよぉ」
マジョリーナが手に見た事がない赤い剣を持って裏から戻ってきた。
「その『見えちゃイヤ』はレベルⅡ程度の魔物であれば装備すればまず発見されることはないわ。もちろん、攻撃したり、大きな物音を立てたら別だけど、足音程度ならまず見付からない代物よ」
「え? もしかして『見えちゃイヤ』って商品名?」
嘘だろ。どこにもそんな変な名前書いてないぞ?
「詩織ちゃんレベルの人がそれを装備して気配をちゃんと殺せば、レベルⅢの魔物にだって十分通用するわ」
うーん、華麗に無視されたか。
「そうなんですね。どうしよっかなぁ」
「ええ、十分に悩んで頂戴。さて、あきらちゃんにはこれよ」
そういってマジョリーナは手に持っている剣を手渡してきた。
全体的に赤色で統一された変わったデザインの片手剣のようだ。
光沢のあるワインレッドのような色で、それが柄から、刀身まですべて同じ色になっている。
鍔の部分には何かの花のようなデザインが刻印されているようだ。
持ってみると、以前使っていた剣と重さも変わらない。
ただ、気になる点が一つだけある。
「なんか柔らかい……?」
「そうよ。それ私の異能で新しく編んだ金属なんだけど、強度は以前の剣より低いのだけど、その代わりに粘度が高いのよ。多分あきらちゃんにどれだけ硬い金属を作っても壊しちゃいそうだから、いっそ少し金属にも柔軟性を与えちゃおうかなって思って作ったのよ。試しに強めに握ってみて」
「”魔力強化”を使っても?」
「もちろんよ」
マジョリーナに言われ、普段魔物を倒す時と同じ程度の魔力を纏う。
「――相変わらず、凄いわね。それで何割程度の魔力なの?」
「え? うーん。大体2割くらいですかね」
「……2割ね。その魔力量でもBランクハンター程度の魔力だわ。ちなみに、あの剣を壊したのはそれくらいの魔力?」
「いえ、もう少し出力を上げた状態です」
「そう。なら同じくらいの魔力を使って思いっきり握ってみて。多分大丈夫だと思うわ」
「了解です!」
魔力をもう少しだけ強く纏う。
確か前回はこのくらいの魔力量で握ったら柄が砕けたはずだ。
その時のことを思い出しながら赤い剣を思いっきり握ってみる。
少し硬いゴムのような感覚。
店の中なので振るわけには行かないが、問題なさそうだ。
「あきらちゃんはその馬鹿みたいな魔力をそのまま”魔力強化”に使ってるからフィジカルだけで言えば、正直そのままでも番外ランクのハンター並なのよね。普通は魔鋼合金を握り潰すなんて無理だもの」
番外ランクハンター。
ギルドの規約ではA+までしか存在していないが、中にはこのA+を大きく超えた力を持つハンター達も存在している。
それは、特級異能者と呼ばれる力を持ったハンター達のことだ。
対魔部隊の隊長などはこの特級異能者と呼ばれる括りの異能者だが、軍には所属せず、ハンターとして活動している者もいる。
その多くは日本ではなく、海外で活動しているが、皆強力な力を持った人達だ。
アメリカの特殊部隊イディオムに所属するセレスティアも元々は番外ランクハンターとして活動していた所をスカウトされたらしい。
「大丈夫そうです!」
「良かったわ。それで駄目なら純粋な魔鋼だけで作った武器にしないといけないけど、そうなると値段がねぇ」
「はははは……。魔鋼高いですからね」
そう、魔鋼は高い。
その事実を知ったのはハンターになってからだ。
純粋に魔鋼だけで作られた武器は例え小型のナイフだろうと最低でも500万円は超える。
世界でもっとも硬く、魔力浸透率も高い金属だ。
加工は難しく、また魔鋼は人工金属であるが、生成には莫大な費用が掛かる。
それゆえ、以前は生成した魔鋼は最優先で軍に回されていた。
だが、現在では生成する技術も上がり、各企業でも作れるようになり、ハンター達もお金を出せば買えるようになってきたのだ。
もっとも非常に高価であることに変わりはないのだが。
今はさらに技術も進み、魔鋼合金と呼ばれる魔鋼を少しだけ混ぜた比較的安価な金属も作られたため、
そちらの金属の方が主流になっている。
当然、純粋な魔鋼武器には劣るが、それでもただの既存の金属で作られた物よりも優秀な金属なのだ。
そして僕は魔鋼武器には一つトラウマが出来ている。
それは、以前の中国へ向かう途中のヘリの出来事。
僕は当時、魔鋼の価値を知らずに雲林院隊長が持っていた魔鋼製のナイフを粉々に砕いたのだ。
あの時はただ硬い金属という程度にしか思っていなかったが、今なら分かる。
(僕はあの時、数百万はする武器を意味もなく壊したわけだ)
いつか隊長職に復帰したら最初に雲林院隊長に謝ろう。
僕はそんな事をハンターになってから誓ったのであった。
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