星の獣達
今回から新章になります。
別で連載しておりますこちらの作品もよろしければお読みいただけますと幸いです。
『女神様は殺したいッ!』
https://ncode.syosetu.com/n3044gx/
「ハンターライセンスを確認しました。ライセンスの方をお返しします」
「どうも」
僕はDランクのハンターライセンスを受け取り、それを財布の中に入れた。
「……一応、こちらにライセンス用のケースも販売しておりますよ?」
「いや、大丈夫です。一応空間魔道具も持ってるので、無くさないと思いますし」
「そう言って無くす人は毎年見ているんですよねぇ」
受付をしてくれるお姉さんの目が痛い。
でもケースに入れていても無くす時は無くすと思うのだ。
どうしても必要性を感じないんだよな。
「ライセンスの紛失のもっとも多い理由は魔物との戦闘によって破損する事です。
こちらのケースであれば、レベルⅢの魔物の群れに踏まれても傷一つ付きませんよ?」
「はははは……。お金が入ったら考えますね」
「遠野さん。先月も同じ事を言ってましたよね?」
「……よく覚えていらっしゃいますね」
「ソロの学生でDランクは優秀ですからね。流石に覚えます。それよりも遠野さんこそ、私の名前覚えていらっしゃいますか?」
「さーて、3丁目に発生したレベルⅡの現場に行ってきますね!」
「ちょっと! 遠野さん!! そんな連絡は来ていませんよぉ!!」
ハンターになって初めて知った事だが、Dランク以上のハンターには担当が付くらしい。
といっても、ハンター一人に対して、ギルドの担当が一人付く訳ではない。
Dランクであれば、百数人くらいのハンターに一人の担当が付くのだ。
これはランクが上がるごとに変わって行き、Aランクとかになれば専門の担当が付くようになるそうだ。
自動ドアが開き、中野区ハンターギルドをあとにする。
この後はブロードウェイに行って、弾薬の調達をしようか、もしかしたら掘り出し物があるかもしれないし、そこを散策するのもいいかもしれない。
「あきら君。長かったわね?」
「詩織さんこそ、随分早いね」
外に出ると自動販売機の近くにいる女性の近くへ行く。
以前の黒のボディアーマー姿の方が見慣れているために、こうして改めて違う服に違和感がまだある。
以前まで装備していたアーマーよりも薄く、防御力も落ちている廉価品であり、それだけでは装備が心もとないため、別の装備品を身につけている。
以前は軍からの配給品だったため、よくも悪くも性能重視であったが、今は各企業で生産されている装備は見ためを重視している物も多く、多少でもお洒落を楽しむことも出来たりする。
「……成瀬さんまで着いてくる必要はなかったんじゃない?」
半年前。
魔獣インクブスは進化し、世界中の魔獣のレベルを一つ上に引き上げた。
それに伴い、様々なことが判明した。
一つは、魔獣とは姿形は違えども、何か見えない力で全て繋がっているのではという仮説だ。
魔獣が進化するという現象。
世界でも2度目の現象だが、これによって繭となり、人型へ進化した魔獣はどういう理屈なのか未だ不明だが、魔獣全体を進化させる力を持っているという事がほぼ確実になった。
世界中でも魔獣の被害は魔物と同じくらいに多いため、その魔獣を進化させてしまったという事で、僕は各国から責められる立場になっている。
その主な理由はレベルⅣのダンジョンを破壊出来る玖珂アキトであればこの事態を未然に防げたはずというものがほとんどであった。
そのため、表向きには現在僕は停職中となっている。
「あれは玖珂隊長だけで防げる事態ではありません。それを何でもかんでもこちらの問題とする他国に問題がありますよ」
「停職については僕から提案したことだよ、形だけでもそうしておけば納得するみたいだしね」
神代さんが言うには、日本軍に僕が所属しているということが大切なのだそうだ。
仮に停職していようが、いつでも情勢によってはすぐに復職できる。あくまで僕の停職はポーズでしかない。
「でも、それに付き合う必要はないでしょ?」
「私は玖珂隊長と同じ零番隊の副隊長です。隊長についていくのは当たり前ですよ」
成瀬にはまた神代さんの秘書をやってもらうのかと思っていたが、まさか一緒に停職するとは思っていなかった。
「ごめんね。でも、うん。ありがとう」
「ふふふ。どういたしまして、あきら君」
停職し、仮面を脱ぐようになるため、今は遠野あきらとして生活している。
一応学生でもあるが、現在は別の目的のためにまだ休学中だ。
あの日、魔獣インクブス討伐作戦の時に得た情報。
組織の幹部と思われえるゼファーから入手した情報は神代、皐月、鴻上の3名に報告している。
もっとも、そのまま伝えたわけではなく、元々ハワイがあった島が組織の隠れ家であった事のみを報告している。
それ以外にゼファーから入手した情報。
既に地球上から消えてしまった国、キューバ、アイルランド、ナウル、そしてイギリス。
調べたらその内、キューバ、ナウルのあった場所は既に島はなく、ただ海となっていた。
海中に沈んでいるのか、土地ごとなくなったのか。
そのあたりは不明だが、調べるとすれば、イギリス、アイルランドの2箇所に絞られる。
「当面の目標はCランクになって海外へ行けるようになる事ですね」
「うん、Dランクハンターでは、国内の活動しか認められてないからね」
そのため、イギリス方面に行くためにハンターランクを上げる必要がある。
そのために、依頼をこなす毎日を過ごしている状態だ。
「あきら君。とりあえず、どこに行くの?」
「ブロードウェイで弾薬の補充がしたいかな」
どうしてもこの辺りは人が多い。
以前、といっても僕の記憶なので、正確には20年前では、私服を着た学生や社会人などオタクが集まる場所だったが、今ではハンターオタクが集まる不思議な場所になってしまっている。以前であればコスプレと笑い飛ばせるような風景が今では当たり前となっているのはそこはかとなく慣れないものだ。
「我々が真に戦わなければならないのは、果たして本当に魔物なのでしょうか!!」
駅の近くにあるバスロータリーの近くで拡声魔道具をしようし、声を上げている集団がいる。
そこには人だかりも出来ており、まるで選挙前の政治家のような状態だ。
「半年前に起きた覚醒によって、我々が本当に戦わなければならない相手がわかったはずです! 今こそ、地球を、我らの星を取り戻しましょう!!」
熱弁する40代ほどの男性の周りには、プラカードを持った人が10名程度いる。
そこには【星獣の意思を、星獣の裁きを】と書かれている。
「星獣協会ね、随分見かけるようになったわね」
「……そうだね」
星獣協会。
魔獣を星獣と呼び、それらを星の使者と考える協会。日本だけではなく、各国にもその信者がいる最近誕生した宗教団体だ。
エルプズュンデのような無差別に人類を殺そうとしている団体とは違い、星獣協会が掲げるものはシンプルだ。
人界と妖精界の断交。星獣を害することを禁止。
この二つだ。
そしてこの団体の誕生に僕は決して無関係ではない。
半年前。
インクブスが世界中の魔獣を進化させた。
突然、舞い落ちる光の結晶に戸惑う住民が多く、嘗て同じ現象が起きた事を知る者達はすぐに事態を把握した。
そして世界中で起きた魔獣の二つの変異。
一つは、あらゆる魔力に対する耐性が着いた事。
現在は“耐魔力結界”と呼ばれており、魔獣達は特殊なオーラを纏うようになった。
有する能力は、高濃度の魔力に触れた場合、その魔力を粘度の高い海水に変異させる力。
おそらく、インクブスが途中から僕に使ってきた力だ。
それがすべての魔獣に新たな力として与えられた。
そのため、現在魔獣を狩ろうとする場合は異能は使わず、武器を使用しての討伐が推奨されている。
そしてもう一つ。
こちらが問題の原因になっている。
それは今まで無差別に襲いかかっていた魔獣がその日を境に、妖精種のみを襲うようになったこと。当然、襲い掛かれば地球人でも反撃されるが、どれほど凶暴であった魔獣であってもこちらから何もしなければ襲ってくることがなくなったのだ。
妖精種のみを狙う魔獣を神聖なものと称えるものが増え、その結果新たな宗教が誕生したというわけだ。
(もっとも、この宗教の動き方には違和感がある。間違いなく、ゼファーが絡んでいるだろうな)
あの日、ゼファーが語った内容。
地球への侵略とは、魔界だけではない、妖精界もまた同じ侵略者だと語っていた。
執拗に聖樹を狙っていたインクブス。妖精種のみを狙うようになった魔獣達。
何か狙いがあるのか、今の僕では調べる方法がない。
だから、行ってみるしかないだろう。
ファータエールデン。太平洋とは別に以前からそこにあったとされた妖精の国。
嘗てイギリス、アイルランドと呼ばれていた場所だ。
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