進化を促すモノ
お待たせしており、大変申し訳御座いません。
まさかGWも休みがないとは思いませんでした……
現在、過去に執筆していた作品を投稿しています。
もし、よろしければこちらの作品もあわせて目を通して頂けますと幸いです。
こちらはストック分がそこそこあるため、2日に1度の頻度で更新しています。
『女神様は殺したいッ!』
https://ncode.syosetu.com/n3044gx/
深海のため、光が届かず目には見えない。
ただ、術式から受けた情報だけで考えれば、それは歪な形に膨らんだ卵のようだと思った。
それでも、だ。
これは繭だと私の直感は言っている。
胎動する気配、魔力の質、それらから受ける感覚がアレに似ているのだ。
そう。
以前私が中国で破壊したレベルⅣのダンジョン内にある繭に……
接近したことを察したのかこちらに向かってくる気配を感じる。
様子を見るべきか?
異能を展開しているため、幸い仮面の中に海水は入ってこない。
これなら通信も問題ないはず。
「成瀬ッ! 聞こえるか!?」
『玖、玖珂……隊長! 聞え――ます』
やはり通信が安定しないか。
「この通信を杠葉隊長へ繋いでくれ、大至急だ!」
『は……! 少々お待―く―さい!』
『こち―杠葉です、どう―れました―玖珂―長」
ノイズが混じるが何とか聞き取れるか。
「魔獣インクブスが恐らく繭となり現在海中に沈んでいます! 繭は卵のように胎動していますので、これより破壊行動に移ります!」
『待っ―! 魔―が繭になった!? それはどういう――――――』
通信のノイズが強くなった。
海中に漂う魔力量も上昇しているようだ。これは時間がないと見るべきか。
たが、どうやって破壊する?
海底近いこの場所にある繭を以前のレベルⅣと同じ要領で攻撃しては地球に大きなダメージを与えてしまう可能性が高い。
被害を最小限に留めるためには、やはり私自身が繭に接近し、繭を覆うように異能を展開する方法がベストか。
視界は変わらず最悪だ。
だが、感応でどこに繭があるのかは分かる。
魔力を漲らせ、接近する。襲ってくるインクブスが作った鮫はすべて無視し、最短の道を辿って接近する。
「異能“完全なる破壊”」
1mまで接近し、繭を覆うように異能を展開する。
触れるすべての元素を停止し、破壊する最強の結界。
まるで空間に穴が開いたかのようにすべてを飲み込む黒の結界が繭を多い尽くそうとした時だ。
突如、繭が三倍以上に大きく膨れ、破裂した。
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杠葉は焦っていた。
突如回された玖珂からの通信が途切れたためだ。
だが、彼女が焦っているのはそれが理由ではない。
仮に玖珂の周りに1000体以上の魔獣がいようとも彼の異能であれば一瞬で倒す事が可能だろう。
最初、神代から玖珂のことを聞いたときは本当に驚いた。
どこからこれほどの異能者をスカウトしてきたのかと問い質したくなったほどだ。
だからこそ、概要だけしか報告されていない玖珂の異能であったが、その能力の強さは良く分かっている。だから、玖珂の心配を杠葉はまったくしていない。
では、何を焦っているのか。
それは通信が途切れる前に玖珂から報告があった事が起因する。
魔獣が繭になった。
過去にも同じ事例があった。
今から15年以上も前のこと、アメリカの南部での出来事だ。
バイソンタイプの魔獣が発生したというニュースが流れた。
当時近くにいた住民が襲われたという事ですぐに近隣にいたハンターが派遣。
大きさは通常のバイソンの約3倍。まるでトラックのような大きさになったこの魔獣を討伐するためにCランクのハンターチームが5組集まった。
結果だけ見れば討伐は完了した。
たった1人の生還者だけを残して。
バイソンタイプの魔獣は珍しくはない。
ただ、そのサイズが今までの魔獣と比べ異様ともいえるほどに大きかった。
途中までは最初に派遣されたハンターチームだけで問題なく討伐できると考えられていた。
だが、そこから状況が一変したのだ。
魔獣が突如逃げ出し、巨大な繭となったと報告が上がった。
世界でも始めての出来事だ。魔獣が繭になるなど、当時のハンター達にも初耳だっただろう。
だが、繭になったということは何かへ進化すると考えるのは容易なことだ。
そのため、あらゆる武器を使い、繭の破壊を試みた。
その結果。
破壊された繭から、膨大な魔力が放出し、あたりを包んだ。
あの時、応援として駆けつけたハンターチームが居なければあの現象は未知のままになっていただろう。
繭から生まれたモノ。
それは、全身が毛で覆われていながらも人と同じ形をし、背中には骨のような翼が生えていた。
そして、異常な出来事後に、軍へ応援を要請し、すぐにその場にいたハンターは逃げ出した。
それから応援に駆けつけたアメリカ軍が見た光景は、たった一人の生存者を除いて全員が死亡した様子であった。
その唯一の生き残りの証言によって巨大なバイソンタイプの魔獣が繭となり、人型に進化したこと。
そして、その進化した魔獣は、上空へ飛び、光りとなって拡散するように消えたことが分かった。
映像記録もなく、ただのハンターの証言のみであったため、当時はただの討伐任務失敗に対する言い訳だと考えられていた。
だが、その日から世界は変わった。
正確に言えば、世界中にいる魔獣が変異したのだ。
それは、異能の発現。
世界が変異し誕生した魔獣達はいうなれば凶暴な動物というだけであった。
ただ、世界に生まれた魔力によって動物が変異したために魔獣と呼ばれていたのだ。
それが、人と同じように、異能と思われる力を世界中の魔獣が使用するようになったのだ。
その事があり、このアメリカ南部で起きた事件は世界中でもっとも注目される事件となった。
あの日。
突如、繭に覆われ進化した魔獣。
それは、単体の魔獣が進化したというだけではない。
世界規模での魔獣の進化という歴史的事件となった。
それと同じ現象が今も起きている。
インクブスは鯨をベースに誕生した魔獣。その大きさは従来の魔獣の中でも間違いなく最大の大きさだ。
他に鯨型の魔獣は発見報告がないため、あれはそういうものだと思っていた。
でも、玖珂の報告によれば繭になったという。
ならば次は?
また魔獣の進化が始まる?
皐月に報告するべきか? いや今から報告しても恐らくは間に合わない。
そもそも報告したところで事態は――
そう杠葉が思考をめぐらせている時、遥か前方で大きな爆発が起きた。
海面が爆発するように水しぶきを上げ、そこから、何かが高速で上空へと飛んでいく。
魔力を目に集めなんかと姿を捉えたが、黒いラバースーツのような人型に、骨のような翼が生えていた。人型であるが、サイズは人間のそれではない。
比較対象物がないため確実ではないが、恐らく50m近い巨人ではないだろうか。
「あらあら……これは本当に、どうしたものかしらね」
杠葉の後ろには、紅葉もおり、不安そうに両手を合わせ、あの謎の人型が上がった上空を見やった。
「皐月隊長。緊急事態です」
『どうした杠葉隊長?』
「例の魔獣インクブスが進化しました」
『ッ! 15年前のアレか!?』
「急ぎ、各国との情報共有をお願いします」
『それは分かった! だが、玖珂隊長は無事なのか!?』
「恐らくは……海中での戦闘だったため、こちらでもまだ確認が取れておりません」
『至急救助へ向かってくれ!』
「はッ。かしこまりました」
通信を切り、杠葉は上空を見る。
そこには、まるで雪の結晶のように世界に降り注ぐ光の結晶があった。
こちらで第4章は終了です。
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