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変異するもの

 立ち上った水の壁がそのまま渦を巻いている。

恐らく私を中心に展開されているこの水の壁、いや渦と言ったほうがいいのだろうか。

それが高く立ち上がり、まるで檻のように周囲に螺旋を描いている。

見たところ、その壁は海へ沈む様子もなく、今もなおその高さを維持しているようだ。


 アレを突破して、護衛艦に戻る事は容易い。

だが、それは完全に悪手となるのは流石に分かる。

あの魔獣(インクブス)は間違いなく(アキト)を狙っている。

このまま戻ったら間違いなく追撃してくるだろうし、出来ればここで仕留めてしまいたいな。

 そう考えていると前方でこちらの様子を見ていたと思われるインクブスから魔力が発せられたのが感知出来た。

何をする気だ? どんな攻撃か分からないから、様子見をするべきだろうか。

いや、だめだ。この魔獣の攻撃は範囲が広すぎる。


「成瀬、そちらに被害は?」

『はい、少し揺れましたがお陰でこちらに被害はありません、玖珂隊長の方は如何ですか?』

「そうか。そちらからここは見えるか?」

『……はい。まるで海の上に巨大な滝が発生している様に見えています。杠葉隊長も護衛艦の近くで浮上し、様子みていらっしゃいます』

「出来るだけ抑えるが、そちらに何か被害が出るかもしれない。気を付けてくれ」

『はいッ!』


 成瀬との通信越しで監視していたインクブスは活性化された魔力がこの場に満ちたように感じた。

この水壁の範囲は半径数キロ程度だろうか。

一番手っ取り早いのは異能”完全なる破壊(デストルクシオン)”を使ってこの水の壁の範囲ごとインクブスを消し去ってしまう事だと思う。

でも”完全なる破壊(デストルクシオン)”の有効範囲は自分自身を含めて数十m程度。

それ以上拡大させると制御できる自信がない。

どうしてもこの完全なる破壊(デストルクシオン)は使用中自分の視界が完全に消え、感応による感知も出来なくなるから万が一にでも異能が暴走しようものなら本当に何もかも消し去ってしまう。

だが、以前のダンジョンの時のように自分の周囲に展開し、全力で殴るだけで物理法則を無視した攻撃を加える事が出来る。故に狙いとしては完全なる破壊(デストルクシオン)を使い、インクブスを塵のように破壊する事。


 感応によって知覚領域を拡張していた五感から、3時方向と7時方向から何か触手のような物が伸びこちらに迫ってくるのが分かる。身体を捻り迫ってくるものを目で確認した所それは、水で出来た鮫だった。

大きさ10m程度だろうか。随分とデカい。それが大きな口を開け足に噛みつこうとしているが、それを腰を捻り浮遊する身体を回転させ蹴りで破壊する。

異能の力のお陰で大した強度を感じない。仮に魔鋼に近い強度があろうとも関係はないのだ。

風船のようにまず1匹目の水の鮫を破裂させ、もう一体近づてきた鮫を手を振るう程度の力で当て、同様に破壊した。


「オオォォオオッ!!!」


 一瞬空気が歪んだと錯覚するほどの咆哮を行っている。

だが、私の異能で近くの空気の振動も停止させているのでその程度では止まらない。

足元に魔力を固め停止させる。

それを地面に見立て、思いっきり蹴った。


 まるで弾丸のように急加速した私はそのままインクブスへ近づく。

だが、私の接近を阻むようにフラグメント達が突進してきた。でもそれも意味はない。そのままフラグメントを無視し、目の前に立ちはだかるフラグメントを破壊する。

だが、違和感を感じた。


 何か変だ。

破壊したフラグメントは以前であればそのまま水のように液体になって崩れていたのに、今回は何故か視界を遮るように液体が残っている。

まるで窓ガラスに付着するスライムみたいだ。

これは”停止結界(ステイシス)”の境界でフラグメント達が付着してるか。

粘度の高い水? これに何の意味がある? 

いやそれよりもフラグメント達の構成物質を変化させて生成できるという事の方が問題だ。

このままフラグメントを破壊し続けるとこの粘度の水に異能ごと包まれてしまう可能性があるんじゃないだろうか。

無視するべきか? 

仮に視界を覆われても感応で探知は出来る。

何か嫌な予感がするが、私ではそれをすぐさま判断できる能力がない。


 また鮫だ。

今度は21体。そしてフラグメント達もこちらに向かっている。

止まっても意味はない、また足元に魔力を作り停止。

それを踏み台にまた弾丸のように飛び出す。

飛行術式をまぜながら、跳弾する弾丸のように移動しインクブスへ突っ込む。


「はぁあああ!!!」


 すぐさま完全なる破壊(デストルクシオン)を展開し、攻撃を加えようとした時だ。

すぐ目の前にまで近づいた()()()()()()()()()()()()


「――ッ! 何?」


 400mを超える巨大なクジラのような魔獣が破裂する。

粘度の高いスライムのような物がすぐさま塊、クラゲのような形にフラグメントを形成した。

それが、すべてこちらに向かってくる。

まるで餌に飢えていた魚のように。


「ちッ!」


 すぐに視界を覆うようにフラグメント達が群がるが、当然ながらダメージはこちらに一切ない。

でもそれを大人しく受けるつもりも私にはない。


「”完全なる破壊(デストルクシオン)”」


 30m程度の完全なる黒の結界を展開する。

これを十数秒後に解除してからもう一度感応で探知するべきかもしれない。

この術式は魔力で空間を覆い、その中にいる魔力反応を感知するために、あのようにインクブスと同じ形をしたデコイを作られるとすぐに偽物とわからなかった。

通常の魔物であれば、あのように停止していればすぐ分かるが、このインクブスはむしろ動く方が少ない魔獣だったせいで誤認してしまったのか。


 反省は後だ。まずは本体を見つけ叩く必要がある。

これほどの力を使っているのだ間違いなく近くにいるはずだ。

まずは異能を一度解除し、感応を使う所からだ。


「――ッ! これは……」


 完全なる破壊(デストルクシオン)を解除し、目の前に広がった光景に私は思わず呆けてしまった。

私の視界を覆う程のフラグメント達が、目の前にいたからだ。

あの異能を受けて破壊されなかったのか?

いや、違う。

私から大よそ30mほど離れた場所でフラグメントは止まっていた?

そこから先に踏み出せば死ぬ事が分かったというのか。


「ぐあッ」


 足に激痛が走る。

そこを見れば、あの水の鮫が私の足に食らいついていた。

そうか、完全なる破壊(デストルクシオン)を解除した瞬間は停止結界(ステイシス)もないためにその瞬間は私に攻撃が通る。()()()()()()()

だが、すぐに異能を展開し、その鮫を破壊した。

まさか、私が異能を解除した瞬間を狙い、こちらに攻撃を仕掛けてきたのか。

鮫と同調したように周囲のフラグメント達はまたこちらに接近し攻撃を仕掛けてくるが、今度はそれを魔力波で破壊した。

足は痛みはあるが、幸い膨大な魔力量で身体を強化していたお陰で骨に影響はないようだ。


 魔力波でフラグメントを破壊しながらまた足元に魔力を固め、蹴って飛行をする。

本当に厄介な魔獣だ。()()()()()()()()()()()

それにこのフラグメント。

完全に構成する物質が変異している。

単純に粘度が高い液体ではない。それならばこの高速移動についてこれるはずがない。

だというのに、

フラグメントを破壊したこの液体はまだ私の身体を纏う異能の近くで停止している。

つまりこれは……




「私の魔力に反応しまるで接着剤のように固まる液体……か」


 私の異能も当然魔力で構成されている。

それ自体に反応し定着しているとしか思えなかった。

感応で周囲を探知し、フラグメント、鮫がいない事を確認し、一度異能を解除し、魔力も完全に体外に出ないように抑えた。

その瞬間、私の周りに張り付いていた水はすぐさま下へ落ちていく。

それを確認してまた異能を展開し、魔力を身体に漲らせた。


「なるほど、本当に厄介だな」

読んで下さってありがとうございます

面白かった、続きが読みたいと思って下さった方は宜しければ下の星から評価を頂けますと嬉しいです。


また、ブックマークや感想なと頂けますと作者のモチベが上がり、毎日更新出来る活力になって参ります。

宜しくお願いします。

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