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魔獣討伐作戦Ⅲ

偽剣(ぎけん)千鳥之太刀(チドリノタチ)


 アキトの右手から水圧カッターのように放出された魔力を纏い振り下ろした。

攻撃する進路に聖樹がない事を確認し細心の注意を払いながらの斬撃。

アキトの振り下ろした右手に沿うように海が割れ、顔を出したインクブスから大量の血が噴出し海を赤く染めた。

(斬撃を模した魔力放出なら通るのか)


 アキトはそう考え纏わりつくフラグメント達を無視しインクブスの近くの海面まで飛行しながら、右手に集めた魔力を維持し横薙ぎに切り裂いた。インクブスの身体を輪切りにするかのようにアキトの魔力は皮膚を裂き、その下の肉を切り裂いていく。

だが、その巨体のためか完全に切り離すことが出来ないとアキトは攻撃した手ごたえからそれを察知した。


「オォオオオオッ!!」

「ッ!」


 海面が振るえ、鼓膜が破れそうになるほどの叫び声が上がったためにアキトは咄嗟に音の振動を停止した。


「――うるさいッ!」


 左手に魔力を込め、インクブスへさらに接近する。

飛行中では体勢制御が難しく体重を乗せる攻撃は難易度が高いが、それを身体を捻り空中での魔力制御を使い、ただ異能や魔力だけに頼った攻撃ではない、渾身の力でインクブスを殴打した。


 アキトの拳が直撃したインクブスの身体がゴムボールのように凹む、拳から発生した衝撃波が海面を叩き、そしてアキトの周りに纏わりついていたフラグメント達もその余波で吹き飛ぶ。

インクブスはアキトの攻撃を受け、その衝撃を身体で受け止めることが出来ず破裂した。

攻撃の余波により海面が荒れている。

アキトの目の前には切り裂かれ破裂した頭部から内臓のような物を垂れ流している巨体が横たわっていた。


「念のためもう少し攻撃を加えておくべきか?」


 そう一人言葉を零しながら魔力を更に練っていると周囲にいたフラグメント達がアキトではなく、インクブスの方へ一斉に集まり始めた。

アキトを攻撃していた固体ですらその場を離れインクブスの方へと向かっている。

すると、海面に横たわり血液と臓物を流していたインクブスの身体が発光し始めた。


「……これは? まさか!」

 

 アキトはすぐに練っていた魔力を手に集めながら上空へ飛ぶ。

そこには失った頭部に群がり徐々に発光するフラグメント達がインクブスの失ったパーツへと変化していく様子が目の当たりにされていた。


フラグメント(欠片)とはよく言ったな」


 つまりこのインクブスが生産しているフラグメントとは、多様に攻撃するためのユニットではなく、母体(インクブス)の傷を癒すための補助的な役割もあるという事だったのだ。

練り上げた魔力を右の掌に集約する。

それを圧縮し、また魔力を放出し右手に集め圧縮する。その工程を幾度となく繰り返し、超高密度の魔力を生成した。


「これは先ほど攻撃した魔力波の比ではないぞッ!」


 集めた魔力を叩き下ろすように上空から再生していくインクブスへ放つ。

アキトの異能を使い行き場がなく暴走しかけるほどの高密度な魔力を攻撃へと転化した。

空気中が断層のように魔力が通過した場所がアキトの魔力によって押しつぶされインクブスを直撃する。


「――――ッオオオオ!!」


 アキトの攻撃が直撃した瞬間それは起きた。

超高密度に圧縮したアキトの魔力波がインクブス諸共消し飛ばせるだけの威力はあったと考えられる。

だが、直撃する直前、インクブスが眩い光を発し、空間が湾曲した。

紫色の光の粒子を撒き散らしながらアキトの攻撃を辛うじて逸らし、周囲のフラグメント諸共消えたのであった。

アキトの放った特大の魔力波が海面を叩き、巨大な水柱を上げながらもその中心は海底が見えるのではないかと思えるほどの穴が空いている。


『玖珂隊長ッ! 先ほどの大きな衝撃は!?』

「すまない。逃がしたようだ。まさか空間転移まで使えるとは恐れ入った」

『そんなまさか……』

「信じられないが事実だ。杠葉隊長に報告を上げてくれ。私は一旦後退する」

『はッ! 承知しました』


 通信を切りアキトは未だ周囲に群がってくるフラグメント達を攻撃し、一気に加速し上空へと移動した。

それに釣られるように千を超えるフラグメント達がまるで餌に喰らいつく稚魚のように接近する。

アキトはそれを確認し十分に聖樹から距離を取ってから異能を展開した。


「異能”停止結界(ステイシス)”」


 アキトを中心に周囲500mほどの絶対停止の結界を展開すると先ほど追いかけてきていたフラグメント達は一時停止された映像のように止まる。アキトはそれを確認しさらに周りの様子を見た。

あの400mを超えた巨体の魔獣は見付からない。どこか遠くへ逃げた可能性があるが周囲にいない以上アキトの感応を使用しても発見は困難だろうとすぐに考えた。

そうして思案しつつ周りにはアキトを追いかけ自ら異能の中へ飛び込んできたフラグメント達が空を覆いつくしていた。


「そろそろいいか。まぁ念のためだ。――”死の結界(ムエルトステエイス)”」


 光さえも破壊する黒の結界を同じ範囲に展開。

そしてすぐさま解除した。周りから見れば一瞬突然空に穴が空いたように見えただろう。

結界を解除すると元素レベルで肉体を停止してしまったことにより結界内のフラグメント達は肉体を保てず崩壊していく。

小さな光となり発光しながら散っていく様を見てアキトは一旦その場から距離を離れるように移動を開始した。



『玖珂隊長、杠葉隊長より本日の作戦を中断し帰還という指示になりました』

「なに? ふむ、了解した。ポイントへ移動する」


 退避するαルートのポイントに既に退避してきた対魔部隊が集まっていた。

アキトが杠葉のいる所へ飛行するとすぐに近くにいた風見なども含めアキトへ話しかけてきた。


「あらあら、お疲れ様でした。遠めで見ておりましたが聞いていた通り素晴らしい異能をお持ちのようですね」

「ほんとです! アタシも見てましたけど、なんかこぉ空に集まったクラゲ共が急に動かなくなって、黒い球体みたいなのが出てきたらと思ったらあのクラゲ全滅してましたぁ! すごいすごいです!!」

「いや、対象を逃がしてしまった。しかし杠葉隊長。なぜここに?」

「ええ、ええ。先ほど話してた通りです。玖珂隊長の戦闘の様子をこちらでも見ていましたが、当初想定以上の戦果だったと言えます。

あのまま予定時間までフラグメントを倒しても時間の無駄でしょう。インクブスが逃げたのか、死んだのかまだ不明ですが、これ以上はここにいても無意味と判断しました」


 まだ聖樹の周りにフラグメント達はいるが、肝心のインクブスがいない。

少なくともこれ以上フラグメント達が増える事は防げたようだが、以後がどうなるかまったく不明だ。


「ここで考えていても仕方ないでしょう。予定通りのルートで【むらくも】へ戻りましょうか」

「おけまるでぇっす!」

「了解した」


 そうしてアキト達は一旦聖樹の居る場所から離れ始める。

本来予定していた作戦を大幅に短縮する事になったアキト達は帰還する事となった。




読んで下さってありがとうございます

面白かった、続きが読みたいと思って下さった方は宜しければ下の星から評価を頂けますと嬉しいです。


また、ブックマークや感想なと頂けますと作者のモチベが上がり、毎日更新出来る活力になって参ります。

宜しくお願いします。

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