魔獣討伐作戦Ⅰ
新型護衛艦【むらくも】の甲板に対魔部隊員が整列している。
三番隊の飛行術式が可能な隊員のみが選ばれた今回の作戦の要となる精鋭達だ。
アキトも含めて今回対魔から参加者は25名。それ以外に航空自衛隊による戦闘機部隊での援護を予定している。
あの膨大な魔獣の数から考えればこの人数は圧倒的に少ないが、それにも理由があった。
「では、では。以前説明した通り今回の作戦はここにいる我々対魔がメインアタッカーとなります。空自はあくまで撹乱です。基本行動は攻撃、離脱の繰り返し。幸い例の魔獣達は空中での移動を得意としていません。ここから少し迂回しながら接近し攻撃し、またその後にルートαよりここ【むらくも】に戻ります。予定している作戦行動期間は本日より10日間。本日は様子見をしつつ、明日以降の攻撃についてはまた戻り次第ブリーフィングにて調整していきたいと考えています。何か質問は?」
そういって杠葉は目の前に整列している三番隊の隊員たちを見た。
全員が杠葉の目を見ながら沈黙している様子を見て、杠葉は頷きながら列から少し離れていたアキトの方を見やる。
「さて、さて。玖珂隊長の方から何かありますか?」
そう杠葉から質問を投げられた。
「いや、私からも何もない」
「そうですか。では昨日メールでお渡しした作戦通り、我々三番隊はフラグメントたちを仕留めていきますので、玖珂隊長は一度インクブスの方にアタックを仕掛けて頂いてもよろしいですか?」
「ああ。了解した」
そう返事をしながらアキトは先日の出来事を思い出す。
昨日かつてハワイであった島から戻ったアキトは誰とも話さずそのまま眠りに落ちた。
とにかく何も考えたくなかったのだ。今後どう行動していくのか、そもそもあの話をどこまで信じていいのかは不明だ。
だが、少なくとも自分独自で調べなければならない事が発生したという事実は残っている。
あの日、ゼファーが残していった国の名前。アキトは護衛艦に戻り深呼吸をしてから自身のスマホで検索を掛けてみた。
結果としてキューバ、アイルランド、ナウル、イギリスこの四ヵ国は地図からその名前が消えているのが判明したのだ。
その近くに今のところ聖樹のような樹が発生しているという情報は手に入れていない。
それで少なくとも妖精国の仕業という事ではないと考えられるようにはなったのだ。
だが、これでゼファーの言っていたこの人界への侵略という意味が少し分かったようにアキトは考える。
当初、レベルⅤが発生し、世界中に魔物が発生するような事態になることが世界への侵略なのだと考えていたが、そのようなレベルではないようだ。どのような条件で発生するのか不明だが、この世界の歴史を改竄するレベルでこの世界はナニかに喰われている。
(一度ハワイ同様にこの四か所に行ってみる必要があるかもしれない)
アキトはそう考えながら、作戦開始の合図を待っていた。
本日の作戦行動は13:00から18:00までの約5時間。状況に応じて変動する予定だが、一旦これで様子を見る予定と聞いていた。
どうもフラグメント、インクブス共に昼と夜で行動か変わるという事がないそうだ。
では睡眠行動を行わないのかというとそういうわけでもないらしい。魔獣自体は元となっている生物と基本は同じサイクルで活動をすると報告が上がっている。だが、今回のインクブス、そしてフラグメントたちは昼も夜も関係なく行動し、定期的に活動を停止しているという事であった。つまり、決まった行動パターンというのは存在しておらず、不定期に攻撃行動と休息行動を取っているため判断しにくいようであった。もちろん魔獣の近くで観測する事が可能であればある程度予想が可能なのだが、戦艦で近づいた場合、万が一敵対行動と取られ襲われた場合、フラグメントの海中移動速度から逃げる事がほぼ不可能なために安全を取り以前の情報通り近づかないように徹底しているのだ。
「玖珂隊長。そろそろ作戦行動が始まるようです。準備はどうですか?」
「問題ないよ。今日は味方の数よりも敵の数の方が多いからな。成瀬は私ではなく杠葉隊長の援護に回ってくれないか」
「よろしいのですか?」
「ああ。今回は遮蔽物もないから、味方を巻き込む心配もないだろう。私の異能で一掃する場合の撤退合図も決まっているからな。以前あった静岡に比べればやり易いさ」
「分かりました。ですが、何かあればすぐに私に連絡してくださいね。私は零番隊の副隊長なのですから」
「もちろんだ。頼りにしているさ」
「……本当に何かあれば言ってくださいね」
成瀬はどこか心配そうな顔でアキトを見ていた。
「どうしたんだ? 以前のダンジョンに比べれば今回の敵の難易度はそれほど高くないと思うぞ。もちろん数が尋常ではないが……」
「そうではありません。昨日玖珂隊長が外から戻られてからどこか様子がおかしいような気がしていまして」
仮面の中でアキトは息を飲んだ。
「そうかな。まぁ初めての海上での戦闘だからね。緊張しているのかな」
「いえ、そうではありません。何と言いますか、心ここにあらずといいますか」
アキトは成瀬に気取られないように少し深呼吸をして手で軽く肩を叩いた。
成瀬はそれに少し驚きつつもアキトの顔を見る。
「安心しろ。少し考える事があったが、今は集中している。何があろうと私は負けない。心配するな」
「……はい、どうかお気をつけて」
そうしてアキトは杠葉達が待っている場所へ移動した。
アキトが近づくのを杠葉、そして副隊長の風見も気づいた様子だ。
「お待ちしておりました。そろそろ時間です。準備は宜しいですか?」
「ええ。問題ありません」
「では――」
そうして杠葉が背筋を伸ばし甲板を見る。
その様子を見て、三番隊の隊員達も踵を付け背筋を伸ばした。
「これより、作戦を開始します。各員飛行術式展開ッ!」
「「はッ! 飛行術式展開ッ!」」
アキト、そして杠葉を含めた三番隊員は飛行術式を展開し予定していた進路を進み魔獣の元へ移動を開始した。
杠葉を先頭にV字隊列を組み時速100km程度の速度で移動している。
杠葉を含めた第1班、風見の第2班の2班で行動を行っている。
アキトは遊撃のために隊列に加わっていないが、杠葉の後方を付いていくように飛んでいた。
飛行を始めてからしばらくして、先頭を動いていた杠葉の動きが徐々にゆっくりとスピードを落としていった。
それに合わせて風見の班も同様に速度を落としているためにアキトもそれに合わせて速度を落とし杠葉の近くへ移動した。
「さてさて、玖珂隊長。もうじき空自によるミサイルでの攻撃が始まります。それに合わせて私が異能を展開しフラグメントを撹乱しますので玖珂隊長はその後、予定通りお願いしますね」
「了解した。それまでここで待機を?」
「いえいえ、もう――ああ。来ましたね」
空気を引き裂くような轟音が聞こえる。
音のする方へ顔を向けると、8機の戦闘機がこちらに向かって飛行してきている。
そして、その両翼から4つの光が轟音と共にそれぞれの機体から発射された。
32本の魔石を使い改造したミサイルが前方の視界すべてを埋め尽くすようなフラグメント達を襲う。
目の前に太陽が現れたかのように瞬く爆炎とと共に、遅れて爆風がアキト達の身体を叩いた。
「ギィエアアアアッ!」
爆風に煽られ海面が波打つ。そしてまるで絶叫のような悲鳴が聞こえた。
その様子を見ながら杠葉の声がまだ耳鳴りがする中で指示を出した。
「――行動開始ッ!」
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