妖精の国
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海上自衛隊の新型護衛艦【むらくも】にアキトと杠葉、そして風見、そして対魔三番部隊の1班の小隊が搭乗している。
小松島の基地から護衛艦に乗って移動を開始しているが、皆が一応に緊張状態に包まれいる。
「玖珂隊長。申し訳ありません。最新型の護衛艦ではありますが、あの魔獣と交戦は非常に困難です。そのためこの艦は対象から10km以上はなれた場所で停止致します。
申し訳ありませんが、そこからは対魔部隊の方々で移動をお願いする形となります。どうかご理解を」
「了解した」
アキトは報告書を読んで魔獣の凶暴性を理解していた。
「確か同世代の戦艦が5隻、妖精国の要請により出動、しかし万を超えるフラグメント達に囲まれ文字通り跡形も無く消えた、だったか」
「はい、私も一度直接目撃しました奴らは一度敵対した相手には容赦はありませんが……」
「何故かこちらから攻撃を加えない限り敵対しないだったな。と言う事は今回のインクブスが妖精国を襲撃しているのにも何か理由がある可能性も高いな」
インクブスに攻撃をまだ行っていないが、現時点でフラグメント達は攻撃するまでこちらに対し敵対行動を取る様子がないようであった。
しかし、一度でもこちらから攻撃を与えると、フラグメント全体にまるで水面に波立つように一斉に攻撃を加えてくるのだ。
何故か妖精国へ執拗に攻撃を行っている理由は不明だが、まずは直接確認するところから始めるべきだとアキトも考えた。
「玖珂隊長。今回は様子見になりますので、飛行術式で近付くだけに留めてください」
「攻撃をするなという事ですか、杠葉隊長」
アキトの後ろから杠葉が近付きこの後の行動について話を振ってきた。
「はい、一度攻撃するとこちらが逃げるか、殲滅するまで魔獣の攻撃は終わりません。本日は様子見、明日は私達三番隊と共に一度出撃しましょう。その際も注意点があります」
「注意点ですか?」
「はい、それは撤退する場合、直線距離で帰還しない事です」
「追いかけてくる魔獣を巻いてからでないといけないという事ですね」
「ええ、ええ。その通りです。奴らは泳ぐだけでなく低空ですが飛行も可能です。一度高度を上げて飛行し撤退するとよいと思います」
「気をつけましょう」
そうしてアキトと杠葉が話をしていると護衛艦の動きが停止した様子であった。
「杠葉隊長、玖珂隊長。予定地点へ到着しました」
「ありがとうございます。では一度ご対面と行きましょうか」
「了解した」
「かしこまりです!」
アキトと杠葉、そして風見の3名で飛行術式を展開し護衛艦を後にして飛んだ。
先頭を杠葉が、その後ろにアキトと風見が並んで飛行している。約100kmほどの速度で飛行しながらアキトは太陽が反射する海面を見ながら杠葉の後に続いた。
「さすが玖珂隊長。この速度の飛行についていけるとは素晴らしい」
「そうですか。それほどスピードも出ていないと思いますが」
「そんなことないですよお! アタシなんてこの速度で精一杯です!」
「ええ、ええ。大丈夫ですよ、紅葉ちゃん。飛行術式の重要な点は速度よりも精度ですからね。ただ今回の場合は最低でもこのくらいの速度は維持しないと何かあった時に逃げ切れません」
つまり100km以上の速度で飛行していないと魔獣達に追いつかれるという事だ。
そう考えると普通の戦艦で戦いを挑んでも逃げきることは不可能だろうと思う。
「戦闘機などであれば戦闘可能という事かな」
「過去にあった作戦では航空自衛隊による作戦行動で戦闘機によるミサイルでの迎撃も行ったのですが、倒す数よりもフラグメントの増える数が勝ってしまい逆効果という結論になりました」
「攻撃を加えなければフラグメントが増える事はない?」
報告によれば今回のターゲットとなる魔獣インクブスは常にフラグメントを増やしながら行動しているとの事だ。
その生産数は正確に観測できていないが、報告によれば一時間で5体のフラグメントが作られているそうだ。
ただし、現在軍用ヘリで確認したところフラグメントの生産は現在止まっているらしい。
これが、生産出来なくて止まったのか、もしくは生産する必要性が低くなり一時的に止めているのか不明との事だったあのでそれによってインクブスの脅威度は変わってくるだろう。
そしてフラグメントの方だ。
こちらもインクブスと違う意味で非常に厄介な性質を持っている。
それが、攻撃を加えた場合、分裂するという習性だ。単純に二つに分かれるのではないようでミサイルなどの爆発物で攻撃を加えた場合は3体以上に分かれることもあったようだ。
そのため、完全に殲滅しなければ逆に数を増やすことになってしまうため軍の方でも下手に手が出せなくなっている。
「杠葉隊長の異能で同士討ちさせた際は、フラグメントの分裂は発生しなかったので?」
「フラグメント達は触手を使ったエナジードレインをしてきます。そのためか互いに攻撃する際は増えるようなことはありませんでしたね」
「つまり倒し方を気をつければいいという事か」
ならば妖精国を巻き込まないように気をつければアキトの異能で一掃できそうだと考えた。
そこまで考えてアキトは目の前にある光景を見て、呆然とした。
「あれは……」
「ええ、ええ。見えてきましたね」
それは思わず声を失うような光景であった。
水平線の向こうまで見えるほどの海すべてにまるで絨毯のように並んだ少し青色のクラゲ。あれがフラグメントだろうか。
その数は想像もつかない。1万、いや10万以上だろうか。それほどの数のフラグメント達が海面や少し浮遊した状態で漂っている。
そしてその奥。
比べる対象がないためサイズ感が分からないが、アキト達がいる場所から大よそ数十キロ程度だろうか。
それほど距離が離れているにも関わらずそのデカさが手に取るように分かる。
全長400m以上の巨体の羽が生えたような鯨。
当然、それらも圧倒する普段の常識から考えられない景色だろう。
だが、それ以上に違和感を感じるものがそこにあった。
もっとよくそれを確認しようとアキトは高度を上げた。
「―――ッ。なんだあれは」
アキトが驚いたのは、視界を埋め尽くすクラゲでも、あまりにも巨大な鯨でもない。
その魔獣、インクブスの正面にある巨大な樹。
海面から高く高く上空へ、それこそ成層圏にまで届きそうな大樹が生えていた。
その樹を囲むようにフラグメント達が囲んでいる。
「あのように妖精国を取り囲んでいるのです。まだ守護結界の力で近寄れないそうですが、あのように昼夜問わず襲撃されているためいつまで保てるか分からないという事でした」
「いや、杠葉隊長。それよりもあの樹は……? まさかアレが妖精国?」
「おや、おや。資料で見ませんでしたか? 妖精界にある大樹の枝が20年前にこちらの世界へ来ているのです」
違うとアキトは心の中で考えた。
以前アキトが資料で見たときは確かに、太平洋に島が増えたという話だった。
そこに妖精国へ続くゲートがあり往来しているという話だったはず。
間違ってもあのような異質な大樹ではなかったはずだ。
海中から生えたその大樹は雲を突き抜けておりここからでもその先が見えない。
(中国ダンジョンの大樹と似ているような気がする。いや、あれほどの禍々しさは感じない。だがこれは……)
「成瀬、すまないが、妖精国についての資料をもう一度私宛に転送してくれないか」
『え、急に如何されましたか?』
「すまないが大至急だ。以前私が見たものと同じデータで構わない」
『は、はいッ! 承知しました』
アキトには確かめなくてはならない事が出来た。
以前アキトに配られた妖精国の資料をもう一度目を通せば何かこの違和感を掴めそうな気がすると考えた。
アキトの視界の先にある大樹は地球という星に寄生するナニかのように見える。
それを仮面の中でアキトは困惑した表情で大樹とそしてそれを攻撃する魔獣の様子を見ていた。
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