再会
3体の人型ゾンビを1体は銃で、残りは周りに被害を出さないように小さい魔力波を当てて襲ってきたゾンビを撃破した。
アキトが警備についてから以前に比べゾンビの襲撃が増えてきている印象がある。
最初は銃撃による撃退を行っていたが、思った以上に襲撃してくるゾンビが増えてきており、弾薬を節約するためにも今は魔力による攻撃を混ぜながら倒すようにしている。
だが、それ以上に煩わしい問題がアキトを悩ませていた。
それは周囲の学生やハンター達である。アキトが出動しゾンビを倒すようになるとそれを見物する姿が多く現れるようになったのだ。
幸い話しかけてくる様子はなく、遠巻きに見ているだけで済んでいるのだが、気になってしかたがなかった。
「あれが噂の対魔部隊の隊長か……」
「やっべぇ生で見ちまった。サインとかだめかな」
そのような声がやけに聞こえ、こういった事になれていないアキトは逃げるように飛行術式を展開しその場を去った。
「すげぇ! あれ飛行術式だろ!?」
「上位のハンターでも術式を展開するのに時間掛かるらしいけど一瞬だったな。やっぱりすげぇな!」
その声を無視するように速度を上げて学園島の上空へアキトは移動した。
白い外套を風になびかせながらアキトは鞄からペットボトルを取り出し、仮面の口部分だけを開閉する。
そこから乾いた喉を潤すように水を一気に飲み干した。
「ふぅ。成瀬。他にレベルⅠが発生している場所は?」
『現状はありません。ですが、先ほど不破副隊長より何か追加の情報があると連絡がありました』
「よし、ではそちらへ戻る、ホテルの大ホールで合流だ」
『了解しました』
そうして、アキトは飛行術式を使い、不破達がいるホテルへ急ぎ戻った。
ホテルの上空へ戻るとホテル入り口になにやら人だかりが出来ているようだった。
どこか面倒な予感を感じたためにアキトは入り口からではなく、ホテルの屋上へ着地し、ホテルの内部へ入った。
そのままエレベーターに乗って2階へ行くと、すぐ近くで成瀬が待機していたためそのまま合流して大ホールへ移動する。
扉を開け、中へ入ると少し疲れた様子の不破が出迎えてくれた。
「不破さん。随分疲れているようだな」
「玖珂隊長、お疲れ様です。ええ、少し面倒ごとが起きましてね」
「もしや入り口の集団か?」
アキトは戻る途中に見えたホテルの入り口にいた集団の事だと考えた。
「いえ、あれはまだ可愛いものですよ。俺ら対魔部隊が滞在している施設なので遊びに来ているみたいですね」
「遊びってなんなんだ?」
「遊びですよ。俺らハンターも対魔部隊と一緒に調査させてくれって言っているんです。必要であればハンターギルドを通して声を掛けますが、現状では足手まといですからね」
「まったく、どういうつもりなんだか」
「恐らく、玖珂隊長がいるから顔見知りになりたいと思っている奴らが多いみたいですね。二言目には玖珂殿はどこだと言ってましたから」
「……迷惑を掛けるな」
「大丈夫です。それより少々面倒なのは妖精国の要人の方ですね」
「――何だって?」
妖精国の要人、つまり王族の連中という事か。
「なんでも今回の魔物の異変に備えて玖珂隊長を護衛につけろと言って来てます」
「神代殿は?」
「首を横に振ってますね。どうも元々こちらへ来る際に対魔部隊から護衛を出すと言っていたらしいのですが、自前の護衛とハンターを雇うので不要と断られたそうです。それ自体は別に構わないそうなのですが、例の要人たちが学園に来てからこの騒ぎ、そして魔人を撃破した玖珂隊長の存在を知って、24時間体勢の護衛として寄越せと言って来たみたいです」
随分都合のいい事を言ってくる連中だとアキトはあきれた。
遠目で見ただけだが、妖精種の護衛の二人は決して弱いようには見えなかった。少なくとも現状発生している変異型ゾンビと戦っても十分に倒せる力はあるとアキトも考えているからだ。
「それほどまでに襲撃に怯えているのであれば一度本国へ戻ってしまった方がいいんじゃないか」
「恐らくそれが本音でしょうね。多分ですが、玖珂隊長を護衛に迎えて妖精国まで戻ろうとしてるんじゃないですか?」
「どのみちこちらで判断できることではないか。不破さん、それで新たに分かった事を教えて貰ってもいいかな」
護衛任務については考えても仕方が無いと割り切り、本来の予定だった新しい情報をアキトは聞こうと考えた。
「そうですね。現在、五番隊の隊員総出でカメラ映像を確認して一つ分かった事があります。それは消えた生徒は全員学園島駅の監視カメラを最後に行方が分からなくなっているようです」
「駅……?」
「はい、ここ学園島から本州へつなぐ駅です。消えた学生は最後電車に乗って帰宅途中に消えたもようです」
「学園島の寮に住んでいない生徒を狙ったのか、もしくは――」
「誰でも良かったかですね。正直無差別に狙っているように感じます」
「何時ごろの電車か分かるか?」
この学園島へ行き来する電車は一つのホームで約4本程度が一時間で行き来している。
学園島駅のホームの数は確か六番までだった。一体何本程度電車が一日に行き来しているか不明だが、それらすべてを調べるには一度すべての往来する電車を止める必要性が出てしまう。
せめてどの時間帯なのか分かればその時間走っている電車を限定して調べることが出来るのではないかとアキトは考えた。
「幸いといいますが、全員が同じ21時頃の駅で最後の姿が監視カメラに記録されているようです。既にその時間に走っている該当車両は駅に問い合わせをしています」
「その車両は?」
「既に運行を停止させています」
「流石に早いな」
「それが仕事ですからね、一応念のため、前後の時間で走っていた車両も運行停止にしています」
「調べてみた結果は?」
「まだ何も出ませんね、一応探知用の魔道具を使いながら、探索系術式が得意な連中を捜査につけていますので何かしら痕跡は見つかるかと思います」
電車内という空間で何があったのか不明だ。しかし毎日どの時間であってもそれなりの乗客が乗っているはず。
それなのに他の乗客に気付かれず学生を連れ出すことが出来るだろうか。
もし、停止した車両から何も見つからない場合やはり電車の運行自体を――
「報告ですッ! 学園島南部に新しい変異型のゾンビと思われる魔物が出現、数は5体です」
監視カメラをモニターしていた対魔の隊員が大声で状況報告を行った。
それを聞き、アキトと不破は目を合わせすぐに行動を開始する。
「成瀬、異能を使って私の援護に回れ」
「はッ!」
アキトは成瀬に指示を出し、近くの窓へ近付いていく。
「玖珂隊長が出る! 引き続き周囲を警戒しろ!」
「「はッ!」」
不破の指示がホール内に響く。
そしてアキトが窓に近付くとその意図を理解し、近くにいた隊員が窓を開けた。
窓のふちに足を掛け、窓から外へ飛び出す。重力へ引かれながらもすぐにアキトの身体は飛行術式によって浮上し、移動を開始した。
『玖珂隊長、気をつけて下さい。魔物以外も何か近くにいるようです』
「――了解した」
飛行術式を使い、アキトは指定された場所へ向かった。
すると、そこには報告にもあった2m近い巨大な腐乱死体が5体いる。それらと戦っているのは妖精種のエルフ達だ。
周りに学生と思われるハンター達もおり、変異型の近くにいる通常のゾンビ達と戦っている様子だ。
例の変異型とはエルフとリザードマンが戦っているが、数も多いためか非常に劣勢になっていた。
(あれは妖精種の王族か、確かに魔物に狙われているようだが、それより気になる奴がいるな)
変異型のゾンビの後ろに灰色のローブを来た人物が二人いる。
特に戦っている様子はないが、手を動かし何かしているようなので恐らくあのゾンビ共を操っている可能性が高いと考えた。
「成瀬、今回の首謀者と思わしき人物を発見。そして変異型のゾンビに例の要人が襲われている。要人の警護と首謀者と思わしき人物の捕縛を行うが流石に人手が足りない。五番隊で足の速い奴を何名かこちらへ回せるか?」
『はい! 確認しますッ! ――不破副隊長と五番隊の第6,7班の班長3名が至急そちらに向かいます。到着予定時間は十五分程とのことです!」
「了解した。これより行動を開始する」
アキトは膨大な魔力を使い身体能力を強化する。
上空から一気に首謀者の後ろへ接近しアキトは異能を短い射程で2秒ほど使用した。
「異能”死の結界”」
「――ッ! はぁはぁ何が……」
「く、苦しい……」
アキトの異能によって2秒だけこのローブの人物の心臓などを含めた内臓器官を停止させた。
それにより、一時的な心肺停止などが起こり、二人の人物は苦しそうに胸を押さえ、地面に座り込んだ。
それを確認したアキトは軽く二人の頭を撫でた。
強靭な魔鋼さえ砕くアキトの異能の力を最小限に留め、頭部に衝撃を与えることによってアキトはこの二人に対し脳震盪を起こさせた。
狙い通り地面に伏したローブの二人を確認した後に、アキトは歩法”雨燕”を使い瞬間的に加速した状態で地面をすべり護衛達が戦っている変異型のゾンビを後ろから上空へ向かって1体蹴り上げた。
「なッ! お前は!」
護衛のエルフがアキトを見て驚いている様子を無視し、アキトは上空へ打ち上げたゾンビに高密度に圧縮した魔力波をぶつけ破壊した。
そのまま足に込めている魔力を維持し、近くの変異型に向け拳を放ち、頭部を破壊する。
異常をさっした残りの変異型はこちらに向かって突進してきた。
「少し実験させてもらうぞ」
アキトはホルスターから銃を取り出し、こちらに向かってくる新しい変異型へ発砲する。
火薬が破裂した音と共に魔弾が確かにゾンビの頭部へ命中したが、頭から血を流しながらもこちらに向かってくる様子から破壊するまでには至らないようだと考えた。
(ゾンビの弱点は脳か魔石。この魔弾を受けても活動している様子を見ると脳は破壊出来ていない様子。となると思ったより頭蓋骨が硬いようだな)
その後魔石があると思われる心臓部分に銃弾を打ち込んだが、やはり活動が停止しない。それを見て銃を使っての破壊は諦め、アキトは手刀で首を切断した。切断した頭部を右手で掴み、そのまま握りつぶした。
(感覚としては魔鋼と同じ硬度か、つまりこれは……)
残り2体のゾンビに向けてアキトは”雨燕”を使い踊るように身体を回転させ、先ほどと同様に首を手刀で切断する。
そして頭部を失った変異型を観察した。どうやら、頭部を切り離してしまえばすぐに身体が崩れるような状態は起きていない。
魔石を奪わなければすぐに崩れ去ることはなさそうであった。
(これを持ち帰り研究所へ引き渡した方がいいな)
他の変異型はすべて頭部か魔石を破壊している。両方無事なのは2体だけだが、調べるには十分と考えてよいとアキトは考えた。
そうしてゾンビの死体を観察していると後ろから声を掛けられた。
「お前は、例の対魔部隊の隊長か?」
話しかけてきたのは護衛をしていたエルフの男であった。
金属の鎧を着込んだ美丈夫な護衛はこちらを少し警戒している様子であった。
「そうですが、貴方は?」
「私はファータエールデン護衛騎士のテディ・ラフィット。貴公は日本軍の玖珂アキトか?」
「……そうだがそれが? ファータエールデンの騎士は助けられて礼もいえないのか」
「クッ! 救援など求めていない! 貴公がいなくても我々だけで切り抜けられた!」
「そうか、ならさっさとどこかへ移動してくれ。私はまだここに用があるのでな」
そういって踵を返すアキトをこのエルフがまた呼び止めた。
「ま、まてまだこちらの話は終わっていない」
「テディ殿。ここは私に任せて下さい」
その声が聞こえアキトの足が止まった。
「よう。久しぶりだよな玖珂。いやアキト。俺の事覚えてるか?」
思わず全身に魔力が漲るのがアキト自身にも分かった。
もしアキトの異能で魔力を完全に止めず外へ垂れ流していたら常人なら意識を保つことすら困難なほどにアキトの身体中を魔力が漲っていた。
「河本……泰か」
止まった足で再度アキトは振り返り、河本との再会を果たした。
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