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行方不明

 高まってしまった魔力を深呼吸をしながらアキトは落ち着けるように努力した。

アキト自身も今更、河本を暴力に訴えて殴っても何も変わらないという事は分かっている。

しかし、まだ十五歳としての自分の心の中では、河本を許すことが出来ない気持ちの方が大きかった。

客観的に考えて今のアキトは子供の喧嘩のような事は絶対に出来ない。

だからこそアキトは河本の件を誰かに相談するべきかと悩んだ。

もし本当に妖精国の王族の護衛を河本もしているのであれば、今後アキトは関わる可能性が非常に高い。

その時アキト自身が冷静でいられるか自分自身でも分からなかったのだ。


 その時、アキトのスマホから着信が鳴った。

液晶を見て成瀬からの着信と知り、すぐに電話に出る。


「成瀬か、どうしたの?」

「遠野さん、申し訳ありませんが至急こちらへ来れますか」


 予想していなかった成瀬の切羽詰った声にアキトは驚いた。


「分かった、すぐに移動する。詳細は?」

「こちらに到着次第ご報告を。私は現在学園の正面入り口から少し離れた場所に車を止めております」

「了解。すぐに向かうね」


 成瀬の声色から察するに何か緊急の要件が出たとアキトは考える。

少し早歩きをしながら移動を開始した。幸い、今いる場所から正面入り口は比較的近いため学生らしからぬ速度で走る必要はなさそうだ。

多くの学生がいる正面の学園に入る入り口にアキトは辿り付き、周りを確認する。

すると、車の前でアキトを待っている成瀬がいた。

成瀬はカジュアルな服を身に纏っており、ウィッグもつけているためか普段の印象とは大分違って見える。

だが、面倒なことになっている様子だった。


「ねぇ、お姉さん。誰か待ってるの? 暇なら俺らと遊ばない?」

「そうだよ。大人っぽいね。もしかして先輩なのかな」


 元々顔立ちが整っている成瀬が、学生が多い場所で車の外に居た為だろうか。


「ごめんね。私忙しいのよ」

「じゃ連絡先教えてよ、いいでしょ? 俺ら魔戦学科だから結構魔物倒しててさ、結構お金持ってるんだよ」

「マジマジ、ご飯おごるよ」

「いや、興味ないわ。それに人を待ってるって言ったでしょ」


 ため息をつきながらアキトは成瀬の近くまで近付いていった。


「あ、迎えにきたよ」

「わざわざ迎えに来たんですか、恥ずかしいですよ」

「バイトに遅れちゃうでしょ? ほら早く乗った乗った。」


 そんなやり取りをしながら成瀬はアキトを車の後ろへ乗せた。


「ちょ、ちょっとお姉さん! せめて連絡先!」

「じゃあね」

「くっそ。なんだよあのガキッ!」


 そしてすぐに車を発進させ彼らを置き去りに進んで行った。


「なんだったんだ、あれは」

「申し訳ありません。外で待っていたらなぜかナンパされまして……」

「はぁ……今度から待つときは車内に居てくれ」

「そうします」

「それで、だ。態々人の多いところまで迎えに来たという事は急ぎなんだろう?」

「はい、昨日の夜ですが、学園の生徒が数名行方不明になりました」

「行方不明……ね」


 ここは普通の学園ではない。魔力を操る術を学び、戦う力を手に入れる学園なのだ。

一般学科や研究学科などは違うが、魔戦学科はよく学園外まで行き魔物の討伐などは積極的に行っていたはず。

主に魔物が多い山奥などへ移動する事が多いのだがら、生徒が行方不明になるという事件自体はそう珍しい事でもないように感じた。


「対魔が動くという事は普通の事件とは違うのか?」

「はい、今回行方不明になったのは研究学科の生徒2名と一般学科の生徒3名、魔戦学科の生徒1名です。

事件が明るみになったのは本日の朝になるのですが、この行方不明になった生徒の友人から昨夜より連絡が取れなくなったと教員へ連絡があったそうです。このような時代ですから人が行方不明になるという事自体はそうそう珍しくないのですが、どうも調べてみた所該当の生徒6名は間違いなく昨日まで学園内にいる事が監視カメラで録画されておりました」

「その録画されていた時間は?」

「夕方18時ごろになります」

「大体授業が終わる時間か……。消えた生徒に共通点は?」

「ありません」


 一人二人なら兎も角、同じ日に複数の人間が、しかも接点がない生徒が行方不明というのは確かに違和感を感じる。


「遠野さんには後部座席においてある装備をお願いします」


 アキトは近くにおいてあるジュラルミンケースの確認した。

持ち手部分に指紋認証の装置があり、そこにアキトの親指を当てる。

小さい機械音がなり鍵が開くのを確認した。ケースの中を開けるとアキトの仮面が収められていた。


「神代統括より事件の重要度を鑑みて、事件解決まで任務に就くようにと頂いています」

「了解した、暫く自主休校だな」


 少し冷たい感触の仮面を触り、アキトは顔に装着し魔力を流し、可変したマスクが顔を覆う。


「申し訳御座いません。一応公休扱いにすると聞いていますが」

「それなら幸いだよ。他の装備は?」

「不破副隊長のいらっしゃる拠点に用意してあります。玖珂隊長は外套だけ羽織ってください」


 綺麗に折り畳まれた白い外套を広げる。

ジーンズやシャツの上からこれを羽織るのは少々違和感があるが、今は仕方ないと割り切ることにした。

そしてすぐに不破のいる拠点へ車は到着した。

 小さいがホテルのようなビルの前にアキトは到着した。

入り口の近くにある駐車場へ車を止め、アキトと成瀬は車から降りる。


「玖珂隊長、お疲れ様です!」

「ああ、お疲れ様」


 入り口を警備している対魔の部隊員と簡単に挨拶を交わし、アキトを先頭になってホテル内へ入った。


「玖珂隊長。まずは着替えましょう。4階に部屋を用意しています」

「分かった」


 アキトと成瀬はエレベーターに乗り4階へ移動。その後、成瀬から指示のあった部屋へ入った。


「こちらがこの部屋のカードキーです。少々古い建物のため普段のブレスレットは対応していません。こちらのカードキーは無くさないようにして下さい」


 部屋の中へ入るとシングルベッドがあり、入り口の近くにユニットバスも設置されている。

10畳ほどのそこそこ広い部屋になっていて、クローゼットの中にはアキトが普段着けている装備が既に用意されていた。


「ではこちらで着替えて頂きましたら2階にある会議室へ行きましょう。私の部屋は隣になりますので何かあればおっしゃって下さい。

今後の任務に関しては私は自室で異能を使い玖珂隊長をサポートいたします」

「了解した。では15分後にエレベーターの前で落ち合おうか」

「はい!」


 そうして成瀬は部屋から出て行った。

それを確認してからアキトはさっそく着替え始めた。

少々大きなアーマーに袖を通し、ボタンを押すと身体に絞まるようにフィットする。

内臓がやや圧迫されるいつもの感覚を感じながら装着。

持ち歩く鞄には、今回何度が発生しているゾンビ対策のためにも普段使わない銃を携帯する事にした。

いちいち素手で倒すよりも数が多くなるゾンビ相手では銃の方が有効だと考えたからだ。

対魔本部から支給された魔弾入りの弾倉を数個ほど収納鞄へ納める。

そしてセーフティが掛かっていることを確認し、ハンドガンをボディアーマーの上から装着したホルスターへしまい、その上から白い外套を羽織った。


 そしてエレベーターに向かうと成瀬が既に待っていた。

成瀬も対魔用の装備で身を包んでいる。


「行くぞ、成瀬」

「はい、玖珂隊長」


 二人はエレベーターに乗り2階へ到着。そのまま廊下を進むとこのホテルの大ホールの扉があった。

そこを開き中へ入る。すると中にいた対魔部隊員達の視線がアキトに集まる。

アキトの様子を見た皆が息を呑むのが分かった。


「あれが、零番隊の……」

「魔人を仕留めた男か」


 そんなざわめきを聞きながらアキトはホールの中へ進んでいく。

すると大きなテーブルを囲んで会議している不破を見つけた。

またその近くに20台以上のモニターが学園内の様子を映しており、その様子からここで魔物を確認したらすぐに出動しているのだろうとアキトは考えた。


「不破副隊長、零番隊の玖珂です。これより本作戦へ参加いたします」

「玖珂隊長、来てくれましたか。それと俺の事は不破と呼び捨てで構いません」

「では、不破さんと。それで状況の説明を聞かせてもらえるか」


 一度不破と話したことはあるが、それはほぼ非公式の場だった。

以前はかなり砕けた様子で話しかけてきたが、流石に部下が多くいるためにこちらに対する態度には気をつけているようだ。


「ではまず、まず何名かの生徒が行方不明になっているという話は聞いておりますかな。これについて他に行方不明者がいないか調べてみました。全学科を対象に出席数が良好な生徒がここ数日授業に出ていない人物がいるかを調べました。今回の場合、よく授業を抜ける生徒や休む生徒は除いています。それで分かったのですが、他に5名ほどここ3日間ほど授業に出ていないという事が分かった形です」

「なぜ騒ぎにならなかったのか気になるな」

「単純に体調不良と考える人が多かったようです。友人たちも連絡がつかないのはあまり気にしなかったみたいですね。薄情というか何と言うか」

「という事は3日間前から事件が始まっていた可能性が高いか」

「ええ。そこで部隊総出でここ3日間の監視カメラ映像を確認して該当者の行方を追っている状態です。幸いこの場所は魔物を警戒する意味でも監視カメラの数は多いですからね、今日の朝から確認していますが、大体捕捉出来ました。後はどこで消えたのか行方を追っていく形になります」

「ふむ、では私が呼ばれた理由はなんだろうか、緊急と聞いていたが」

「ええ。本題はここからです。これを見てもらえますか?」


 そう言って不破は手元のタブレットを操作し一つの映像をアキトに見せた。

そこには複数のゾンビとハンターが戦っている場面の映像だった。しかし、そのゾンビの群れの中に2m近く大きな人型のゾンビがいた。

どこか継ぎ接ぎが目立つそのゾンビは図体に似合わないほど素早くそして凄まじいパワーを持っている様子だ。

戦っているハンターのガタイが良い人物だったが、明らかに力負けしている。

そして、劣勢になったタイミングでその巨大なゾンビは突然何かにぶつかったかのように吹き飛ばされた。

土煙が舞い、先ほどまでゾンビがいた場所には対魔の深緑の外套を着た不破であった。

 不破は負傷したハンターの方へ目配せすると誰かに指示を飛ばしている様子が見える。

そして、土煙を上げ不破は目にも止まらぬスピードでゾンビを吹き飛ばした方向へ向かっていった。

映像はそこで途切れている。


「これは監視カメラ外へ魔物が吹き飛んだため映像はここまでです。あの後、俺の方で仕留めましたが、正直レベルⅢのキングタイプ程度の力はあったと思います」

「レベルⅠのゾンビが、か」

「ええ。はっきり言ってこの学園島にいる学生はもちろんハンターでもきついと思います。玖珂隊長にはこの変異型のゾンビの討伐をお願いしたいと思っています。正直これだけで終わるとは思いません。以前にも報告がありました変異型を更に強化された感じに思えます。俺は基本ここで指揮を執りつつ、現場を纏めていますので、外をお願いしてもいいでしょうか」


 映像でみた限りであの程度であればアキトは瞬殺可能だと考える。


「例の要人の件もあります。ご注意を」

「――了解した」


 あのホテルの外にいるハンターの集団には出来るだけ近付きたくないと心の中でアキトは思うのであった。








読んで下さってありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思って下さった方は是非下の星から評価を頂けますと嬉しいです。


また、ブックマークや感想なと頂けますと作者のモチベが上がり、毎日更新出来る活力になって参ります。

宜しくお願いします。

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