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記憶

少々胸糞な話です。苦手な方はご注意下さい。

 玖珂アキトが中学生の頃。

2年生までは普通の学生として青春を謳歌していた普通の学生だった。

初恋もし、その相手には彼氏がいて失恋。友達が出来て些細な言い合いから喧嘩をしてまた仲良くなった。

そんな普通の学生生活を送っていた。

 そんな歯車が狂ったのは3年生に上がった時だった。

クラス替えがあり名前の順に並んだ席の後ろ。そこにいたのが河本泰(こうもとやすし)だ。

河本は運動部にいたためか身体も大きく、少々粗暴ではあったがアキトはすぐに仲良くなった。時間が経つにつれ、河本はクラスの中心となっており皆が河本の話には耳を傾けるようになっていった。

 最初は仲がよかったアキトであったが、徐々にそのノリについていけず、偶に会話する程度の関係に落ち着いていった頃、同じクラスの平山高志という友人が新たに出来て、アキトは彼とよく話すようになった。

彼は物静かな人であったが、学校内で彼と話すのは楽しくそれなりに充実していたと思う。だが、平山を放課後遊びに誘うと何故かいつも断られる。最初はそれが少し寂しくもあったのだが、段々何か様子がおかしいとアキトも気付くようになったのだ。

 そんなある日の放課後の学校の帰りに路地の隅の方へ行く、河本とその取り巻きのような連中があるいているのを見かけた。

それだけならアキトも気にしなかった。だが、取り巻きの中に平山がいるのをアキトは見つけ驚いた。

アキトは平山が河本たちと話している所はほとんど見たことがなくない。それに傍から見たらどうみても無理やり連れ出しているようにしか見えなかったため嫌な予感がし、アキトは恐る恐る彼らの後ろをつけた。


「おい、なんで今日は金持ってこなかったんだよ」

「もう無理だよッ! 散々お金貸したんだからそろそろ返してよ!」

「てめぇ、何大声出してんの?」


 河本の取り巻きは平山の腹を思いっきり殴った。

平山は腹を押さえ身体をくの字に曲げてうずくまる。


「もう……かんべんしてよ。貯金も全部下ろしたんだ。本当にないんだよ」

「なぁ平山。本当にないなんて決め付けるのはよくないだろ、よく考えてみろ本当にないのか?」


 諭すように河本は優しい声色で平山に声を掛けた。


「河本君。もう本当にないんだ。お小遣いも全部下ろしたし、お年玉とかも全部河本君達に全部渡したんだよ」

「本当か? 家の中全部探したのか?」

「そうだよ、平山。お前の両親が金を持ってないわけないだろ」

「ど、どういう事! まさか盗んでこいって事!?」


 そうして河本は平山の腹に蹴りを入れた。


「平山。誰も盗んでこいなんて言ってないだろう。言いがかりはやめてくれ。どうするかはお前が考えるんだよ。

俺たちは何の指示もしてない。なぁそうだよな?」

「ああ。俺たちは何も言ってないぜ。よく考えろよ平山」


 そうしてまた暴力が始まった。

そのあまりの光景にアキトは呆然と立ちすくんでしまった。


「痛いッ! もうやめてッ! わかったから、明日はちゃんと持ってくるから!」

「おい、幾ら持ってくるんだよ?」

「1万円持ってくる!」

「だから大声出すなよ。っていうかそれ今日持って来いっていった額だろ。足りないから明日は3万持ってこい」

「そ、そんなッ……」

「何、口答えするつもりなの?」


 取り巻きが平山の顔に思いっきり蹴り入れた。


「ぐぁッ!」


 平山の口から血が流れ始めた。


「おいおい、平山。お前その口の怪我どうしたの? あぁ転んだのか間抜けだな」

「そうだな、いきなり何も無い場所で転ぶんだもんな。いくらなんでも間抜け過ぎるだろ」

「――う、うん。転んだんだ。びっくりさせてごめんね」

「いいって。俺たち友達だろ。――で、明日いくら?」

「さ、3万円持ってくるよ」

「おお、分かってくれてうれしいよ。平山君。やっぱ友達っていいよな」


 そういって河本は平山の頭を撫で、そして急に髪の毛を鷲づかみにし、平山の頭を上げさせた。


「次から反抗するなよ、面倒だからさ」

「う、うん。ごめんなさい」


 その光景を見て、もうアキトは我慢できなかった。

正義感からではない。あの会話から察するに以前からこういったやり取りがあったんだとアキトは考えた。

それなのに、アキトは平山が苛められていた事に気付くことが出来なかった。

それが悔しくて、腹ただしくて、とにかく平山を助けようと河本たちに突っ込んで行ってしまった。


 夢中で叫び声を上げ、後ろから河本の取り巻き達に殴りかかり、アキトなりに彼を助けようと必死になった。

そこからアキトの記憶は無い。

ただ、体中が痛く、いたるところから出血して、地面に転がされていたアキトだけがその場にいた。

あの場にいた平山がどうなったのか分からない。

ただ、怪我が治り、学校へまた登校した時には平山は転校していた事がわかった。





 そしていじめのターゲットは平山からアキトへ変わった。

しかし、平山のように裏でのいじめではなく、クラスを巻き込んでの苛めへと発展していた。

クラスの皆からは遠巻きに無視され、休み時間になれば河本達から呼び出され暴力を受ける毎日になった。

アキトはひたすらこの理不尽な暴力に耐える日々を過ごした。また金を要求されたがそれにも従わなかった。

平山のことを考えると金を渡したところで増長する事は目に見えていたからだ。

 初めのうちはこれほどわかりやすい形でいじめを行っているのだから担任がすぐに気付くのではないかと期待していたが、

河本の親が学校内では有名なモンスターペアレントでさらにPTAの会長をしており、学校側も関わりたくないと思っているという事が河本の口から語られた。

 毎日傷だらけで帰るアキトの様子を見て両親もすぐに苛めに気付き、学校へ苦情を出したが、案の定学校側からはそのような事実はないと一点張りだった。

アキトが自宅の自室へ入ると、いつからかアキトの母親が涙を流している声が聞こえ、アキトはいじめに屈している自分が情けなくアキトも涙を流していた。

 アキトが大人しいことをいいことに、段々と苛めはエスカレートしていった。

殴るなどの暴力から、アキトの鞄を捨てたり、物を無くすのは序の口となり、体育の時間などアキトの服を無理やり脱がせ、女子更衣室や女子トイレに放り込み、変態野郎と罵るのが最近の彼らのトレンドのようだった。

女子などに関してもいじめをしている河本達ではなく、いじめられるアキトに対して罵倒をする始末だった。


 そんな地獄のような日々が続いたある日、いつになっても収まらないアキトのいじめに対し両親は学校に対し何もしないのであれば警察へ相談すると学校へ訴えた。

それに慌てて、学校側も河本達とアキトを呼び出し事情を聞くようになった。

しかし、そこで河本は元々最初に後ろから不意打ちで暴力を振るってきたのはアキトであって、自分たちは正当防衛をしているだけだと訴えたのだ。当然アキトはそれに反論したが、学校側は話の落とし所を見つけたのか、現在起きているアキトの苛めはなかったことにして、アキトの最初に行った暴力を問題として取り上げた。

 その事が河本の親に伝わり、アキトは学校を転校せざる得ない状況になってしまった。

在校最後の日、河本がアキトに言った言葉は今でも覚えている。


「てめぇみたいな小物が俺に逆らうからこうなるんだよ。間抜け」


 その言葉を聞き、その場で河本を殴り倒した。

すぐに近くにいた取り巻きに押さえられ、学校教員もその場に駆けつけアキトはすぐに帰された。

だが、それに激怒したのは河本の親だった。

 どのような方法か不明だが、アキトは地元の神奈川県内のほとんどの中学校にアキトの悪い噂が流され、アキトは県内の中学校へ転校する事が困難になった。そのため、アキトの両親はアキトを東京の中学校へ転入させる事を決心。

出来ればアキトの両親も一緒に東京へ引越しをしようと考えていたが、両親は小さなお店を開いておりその店に絶大な愛情を注いでいる事をアキトは知っていたために、一人暮らしをする事を両親に告げた。

最初は反対されたが、両親に今の店を畳ませるようなことだけはしたくなかったアキトは毎週日曜日には必ず実家に帰る事。出来るだけ毎日連絡を取ることを条件に両親をなんとか説得させた。

そうしてアキトは杉並のアパートへ一人暮らしをする事となり、世界的な事件へと巻き込まれることとなった。






****





 アキトは落としてしまったスプーンを取り上げた。

震える手をなんとか抑えながらも視線は河本から外さなかった。

二十年経って子供らしさは随分消えたと思う。


「なぁ、渡邉。あのエルフの後ろにいるハンターの男いるだろ、あいつの事知ってる?」

「ん、あぁ。河本さんじゃん、護衛してるかなってことはあの妖精種のエルフってやっぱりいいところの出なのかな」

「河本……さんの事知ってるんだ」

「ああ。テレビで見たしな。あの仮面つけた零番隊隊長の玖珂さんの親友らしいよな。あんなすごい人の親友だなんてすごいよな。

やっぱり一緒に飯食いに行ったりしてるんだろうし、素顔知ってるんだろ、どんな顔してんのかな、すげぇ見てぇ!」


 思わずスプーンを持っている手に力が入る。

あの日みたテレビは不愉快のあまり消してしまったためどんな事を河本が語っていたのかは知らないし興味もない。


「おい、遠野大丈夫か?」

「……ああ。大丈夫だよ。それより渡邉って思ったよりミーハー?」

「いや、そりゃ興味あるだろ? 世界で始めて出現したレベルⅣのダンジョンを破壊した立役者だぞ!? 日本の異能者は海外に比べて弱いってよく聞いてたけど、全然そんな事なかった! やっぱ日本軍って強いんだな」

「ああ、そうだね。……ごめんな、渡邉。そろそろ時間だから僕はもう行くよ」

「ん? そうか。なんか体調悪そうだけどバイト気をつけろよ」

「ああ。ありがとう」


 そういってアキトは食器を配膳口まで運ぶ。

食器を戻している途中に誰にも見られないように、思わず力んで曲げてしまったスプーンを引っ張って戻し、食堂を後にした。

読んで下さってありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思って下さった方は是非下の星から評価を頂けますと嬉しいです。


また、ブックマークや感想なと頂けますと作者のモチベが上がり、毎日更新出来る活力になって参ります。

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 河本の明日はいかにって展開がきそうですね [気になる点] 物語の展開的にはしょうがないけど軍のリスクマネジメントがザルすぎるのがちょっと気になります
[一言] 身辺調査など言ってる人多いけど、災害時の混乱で20年前の情報とか精査できなくなってるんじゃない? 主人公の両親も行方不明て事は、その周辺の学校も同じような状況だろうし。
[気になる点] 正直学校とか同級生とかも虐めに加担してるのでこいつ1人に制裁を加えたところでスッキリしないと思います。
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