魔物の登場で変わる日本
アキトが学園に無事入学してもうすぐ2週間が経過する。
それまで目立った事件は起きていなかった。もっともレベルⅠ、Ⅱの魔物は以前と同じく定期的に発生はしていた様子だ。
人工的な島といえども小動物、特にネズミや虫などの侵入は避けられない。そしてそういった小さい生物がゾンビ化する際に、魔力が集まる際に、過剰に魔力が溜まる結果、本来の身体よりも肥大したゾンビが発生するという事が多い。
これは授業内でアキトが習った今の日本経済の話だが、現代の日本では以前アキトが知る時代に比べ人口の偏りが減ってきているそうだった。
理由はまさに魔物が原因となっている。今ハンターは特に若者の中で人気の職業となっている。なぜなら国の法律で副業が禁止されている職業であってもハンターとして収入を得ることを認める法案が出来ているからだ。これは日本に限ったことではなく、世界中で同様の法案が認可されている。その結果ハンター専業の所謂【プロ】もいれば片手間でやっている人まで幅広くいる世の中になった。
もっとも軍に所属している人間はその限りではないため、公平性を保つために莫大な給与が与えられるようになった。
レベルⅠのゾンビであれば都市部であっても割りと頻繁に発生しており、これに関しては現代の人間であれば銃で簡単に倒せるし、何か武器を携帯しているのであればそれで攻撃して倒すことも容易なのだ。ちなみにゾンビの魔石は各地にあるハンターギルドへ持っていけば小遣い程度は稼げるために酷い場合だと魔物の取り合いになる事も度々発生している。
ではプロのハンターはどうしているのかというと、都市部ではなく、郊外の田舎、森や山の多い地方へ行くことが多いのだ。
なぜなら人の数が多い都市部に比べ野生動物がいる地方の方が魔物が強く、またそこから取れる魔石も高価になる。
そのため、プロのハンターとして食べていく人達は大体はそういった地方へ流れるために、その場所の経済が回り豊かになってきているのだ。
結果、開拓も進み以前は若者がいないと嘆いていた場所でも多くのハンター達が活動するようになり街や都市が賑かになってきたらしい。
もっとも良いことだけでは当然ない。
どうしても命懸けで魔物と戦うハンターが多いために粗暴なハンターは多く、度々近隣住民とトラブルを起こしたり、ハンター同士の揉め事が絶えないという事案も多くあるそうだ。
そういった場合に主に全国へ派遣されている陸上自衛隊や警察官がそういったハンターを捕縛等をしているそうだ。
ちなみにここ神代魔戦養成学園でも似たようなトラブルは多くある。
例えば、魔物の横取りなどだ。魔物を倒した人物がその魔石を獲得できるために他人が戦っている魔物がいても援護の是非を確認し、必要なければ手を出さないのがルールなのだが、入学したての生徒の中には学園島内で魔物を見かけると他のことは目に入らないとばかり他の人が戦っていても攻撃を加えてしまう。下手に止めを刺してしまうとその魔石の所有権を主張し、トラブルが発生という事は新しい生徒が入ると毎年のように起きるそうだ。また、今回は対魔部隊が警護のために学園島内にいる。
当初は魔物が発生した際に五番隊の隊員達が迅速に制圧していたそうなのだが、学生たちが魔物の戦う機会が激減してしまい、苦情が入るという事件が起きた。通常の都市では礼を言われてもおかしくない働きなのだが、このハンターなどを志望している学生たちのいる場所では余計な仕業と見られてしまい、理事もこなしている神代と協議を重ね、ある程度はこの島で活動しているハンターや学生たちに預けるという結論に収まった。
このことを通信機越しに不破副隊長から愚痴のように聞かされたアキトは苦笑いが止まらなかった。
アキト自身も異常なレベルⅠについては警戒すべきだと思っているために不破達の行動は何も間違っていないと思う。
しかしハンターとして今後やっていくためにお金が掛かるのは間違いない。
高級な武器や防具、魔道具も買い揃えようと思ったら小さな収入源とはいえ、特に学生のハンターからすれば喉から手が出るほど欲しいと思うだろう。
そうして勉強に取り組みながらも授業がなくなった日などは成瀬や不破と連携し、学園島の調査をしていた。
「遠野。次授業ある?」
授業が終わった後、横に座っていた金髪に髪を染めた男が話しかけてきた。
彼は渡邉といい。アキトと同じ授業を受けている内に少しずつ仲良くなった友達だ。
「いやないよ、渡邉は?」
「ないから、食堂行こうぜ」
「オッケー。行こうか」
アキトは渡邉と共に、教室を出た。
授業が終わると一斉に学生たちは食堂に向けて移動を開始する。学校内で飲食が可能な場所は多くあり、その中でも学園島の食堂は比較的安価で量も多く美味いという学生の懐に優しい場所だ。この学園島内に食堂は全部で数箇所あり、アキト達はいつも行く近い食堂へ向けて歩き出した。
「遠野は今日残り何の授業があるんだ?」
「いや、僕はもうないからご飯食べたらバイトいく予定」
「バイトか。そういやどこでバイトしてんの?」
「知り合いのところで簡単な手伝いしてんだよ」
「ふーん。飲食店とか?」
「いや、掃除とかの雑用だね」
そうやってアキトと渡邉は話をしていると食堂に到着した。
既に混雑している食堂の様子にアキトは流石に慣れてきた。入学当初はこの100人以上は入れそうな食堂がほぼ満席になっていることが多く、また学生特有なのか大声で話している学生が多かったため、アキトも最初は気圧されていたが、流石に2週間もすれば慣れてきたものだ。
そしてこの食堂には暗黙のルールが存在していた。
それは――
「おい、お前その服装だと一般の奴か? ここは魔戦優先なんだよ。おめぇらは端のほうへ行け」
「なんだよ! 別にどこ座ろうが自由だろう!?」
「あ? なんだおまえ。人が親切に教えてやってるのによぉ」
ハンター用の装備を着た学生に肩を強く押され、一般学科の学生は床に尻餅をついた。
それを見た周りの魔戦学科の人達は声を上げて笑っている。
尻餅をついた学生は顔を真っ赤にしながら食堂から出て行ってしまった。
「ほんと魔戦学科の連中態度悪いよな」
「そうだな」
小声で回りに聞こえないように愚痴を零す渡邉にアキトは同意した。
この食堂の中心、主にウォーターサーバーが近くに設置されている場所は入学当初から魔戦学科の特等席になっている。
一般学科の学生たちは食堂を使う場合、端になる席を使うことしか許されていないのだ。
研究学科の生徒達はどこへ座ろうとも何も言われないのだが、周りが魔戦学科の人ばかりのために研究学科の人達はあまり積極的に食堂を利用していない。しかし一般学科だけは差別的に見られており食堂だけではなく、他の場所でも主に魔戦学科の人達に下に見られるため、この学園島で肩身の狭い思いをしていることが多いのだ。
恐らく理由は一般学科の学生のほとんどが”身体の強化”の異能を持っているために差別的に見られているのは間違いないと思う。
アキト自身もそのような態度に最初苛立ちを覚えていたが、自分の能力を考えると下手に手を出しても何も良いことがないと考え、今は極端に酷い現場でもない限り傍観するようにしていた。
たまに、魔戦学科の生徒が一般学科の生徒にカツアゲしている現場を見かけた時は、流石に割って入ろうと思ったが、下手に目立つと碌な事がないと思い、その場で不破に連絡し、対魔の部隊員に現場に来てもらいその場を収めてもらった。
そんな学園内のヒエラルキーを感じながらアキトと渡邉は食券を買い、おとなしく食堂の空いている端の席を見つけて座った。
大盛りのカレーを頼み、アキトは席について食べ始めた。
周りの騒いでいる魔戦学科を無視し、黙々とカレーを口の中に入れていく。
「やっぱ美味いよな」
「うん、この美味さのためなら多少騒がしいのは我慢するよ」
そうやってカレーを食べていると騒がしかった食堂が急に静かになったのを感じた。
「ん、なんだ」
「遠野、たぶんあれだ」
渡邉が指差す方を見ると、そこに妖精種の集団がいた。
妖精種の人達が歩くと周りの学生たちが自然と道を譲っていく。その割れた人垣の中を悠々と先頭を歩くエルフが二人いた。
(あれは、アウリール・エールデン、そしてローゼ・エールデン。妖精国の王子と王女、後ろは護衛か?)
今回の任務にあたり事前に写真でその姿を見せて貰っていたアキトは二人の事が直ぐにわかった。
まるで人形のように整い過ぎた容姿を持つ妖精種のエルフ。
服装はゆらりとしたあまりボディラインが出ない服のようだが、その独特の衣装がまた二人の容姿を引き立てている。
そして後ろにいるのは、同じエルフの男性と初めて見るリザードマンの護衛のようだ。
リザードマンは初めて見たが思ったより人間に近い容姿であった。所々が鱗に覆われており両の手は鋭い爪が伸びている。
目は爬虫類のように瞳孔が縦に伸びていて、護衛のエルフ同様その纏っている魔力から実力者である事は見てとれた。
だが、アキトはそれ以上に気になる存在を見つけ、思わず手に持っていたスプーンを落としてしまった。
(なぜ河本がここにいるんだ!?)
それはエルフの護衛の後ろにいたハンターだ。
いつかテレビでその顔を見かけ、すぐに忘れようと思った記憶は新しくその姿を見かけ、アキトは中学時代に河本と出会った時の事を思い出していた。
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