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レベルⅠ

「随分大きな学園だな」


 シャツにジーンズという非常に無難な私服を着ているアキトは今、神代が経営している学園の前に来ていた。因みに髪の毛は普段の黒髪から明るい茶髪に染め伊達メガネも付けていた。今の時代はかなり手軽に髪を染める魔道具もあるため、興味本位で試しに使用してみた形だ。伊達メガネは何となく外を素顔で出歩くのが気恥しいために購入して付けている。

 この神代魔戦養成学園は東京湾に人工的な島を作りそこへいくつもの校舎を建てている。

専用の電車も通っておりこの学園のある島へ行くために朝はいつも学園の生徒、そして教員の人たちがその電車に乗って通っている。

 アキトも普段着ている装備は外し今回の筆記テストのために私服で来ていた。

この学園へ向かう駅にはハンターや軍なども常駐されており、レベルⅠのゾンビなどが出た場合にその対処を行っているようだ。もしレベルⅡが出た場合はすぐにハンターギルドへ要請し、ゴブリンやオークなどの魔物をすぐに倒しているようだ。中には学生のハンターもおりその魔石を回収し小遣いを稼いでいる人も多いと聞いた。


(さて、一般受験は6番棟の校舎か)


 アキトは受験用に貰った用紙を見て該当の校舎へ向かって歩いていく。

その中で人が多く集まっている場所があることにアキトは気がついた。


「すごい人だな」


 思わずそう口に出してしまった。

手元の案内用の地図を見るとあの人だかりが出来ている場所は魔戦学科の実技試験を行う戦闘訓練所があるようだ。その場所にそれぞれ戦闘用の装備に身を包みいる者もいれば今のアキトの同じように普通の私服を着ているものもいた。

 その人の多さに少々気後れしながらアキトは6番棟の校舎へ入っていった。

案内用の看板をもったスタッフの案内を見ながらアキトは指定された教室へ入っていく。

そこは既に多くの受験生がおり受験番号順に着席している様子だった。


「遠野、遠野っと、これか」


 遠野あきら。アキトに与えられた別の戸籍だ。ちなみにこの遠野とは母方の旧姓となっている。

アキトという名前は割りとよくあるありきたりな名前ではあったが、念のためこちらも偽名に変更されている。

 アキトは自分の振り分けられた席を確認しそこへ着席した。

周りを見るとアキトと同じくらいの年齢の学生が多い印象だが、明らかに年上の人も受験生として参加している様子だ。この教室だけでも受験者数は100人を超えている。

この教室以外でも受験をやっているため、受験者の数だけでも相当なものだと思う。

 神代の話ではこの学園は大学と同じような形で授業を履修して行き、自分で授業スケジュールを立てる事が可能のようだ。もちろん必修科目などもあり、出席数が足りなくなれば進学できず、最悪退学処分になることもあるらしい。また必修科目の数も学科ごとに違っているようで、特に多いのは魔戦学科のようだ。魔術構築式、戦術理論、魔物専攻学など必修科目が多いようだ。


「時間になりました。それでは試験を始めます」


 試験官と思われる教員が教室へ入ってきた。

時間となり教室の入り口が閉まり机の上にあるタブレットの電源が一斉についた。


「これよりこの部屋内での電波はすべて遮断いたします。当然ですが、カンニング行為が発覚した際には即時退場して頂き、受験は失格となります。また、異能や魔術式を用いたカンニング行為も容認しません。この部屋は複数台のカメラで監視されていますため、注意して下さい。では始めます」


 そうしてテストが始まった。

各受験生の机に設置されているタブレット画面に5科目のテストが順番に表示される仕組みだ。

各項目ごとに制限時間は1時間となっており、それぞれを付属のペンで記入していく。

 今回の受験のためにアキトも勉強をしていたが、例えば歴史などは20年前の変異の事などもあり、中学時代に習っていた勉強と違った部分が多くそれなりに楽しんでアキトは勉強が出来た。







 「では、ペンを置いて下さい」


 五科目のテストを行っている途中、試験官の声が聞こえたためアキトはペンを置いた。

するとタブレットの画面が一斉に消え、もう書き込めないようになった。


「お疲れ様でした。本日の試験はこれで終了になります。忘れ物がないように気を付けてお帰り下さい」


 固まった肩を回しながらテストに対しそれなりの手ごたえをアキトは感じた。

(流石に受験で落ちてるようじゃ、笑えないからな)


 そう思いながら机の上に置いていたペットボトルなどを鞄にしまいアキトはその教室を後にした。

友人同士で来ている受験生も多いようで、各々が先ほどのテストについて語り合っていたりする。

その様子を見ながらふとアキトは窓の外を見た。

 そこにはこの校舎へ来る前に見た魔戦学科の戦闘訓練所の様子が見える。

既に夕方の17時を越えようとしているにも関わらず、そこでは実技試験がまだ行われている様子だった。どうやら実技試験は教官相手に一定時間戦い、その戦闘内容によって評価されているようだ。


「すげぇ、あれ魔戦学科志望の受験者だろ?」

「ああ。いいよな。俺もすごい異能だったら絶対受けたんだけどな」

「俺らは外れの異能だからな、仕方ないねぇって。もう帰ろうぜ、見てても気分悪くなっちまうよ」

「だな」


 なんの気なしにアキトはそれを見ていると、同じようにその様子を見ている受験生が話をしていた。彼らの言っている外れとは【異能”身体の強化”】の事だ。

この神代魔戦養成学園は学園名にもなっている通り、魔戦学科を全面に押し出している。

魔戦とは魔力戦術学科の略称なのだが、この学科へ入るためには一つ暗黙の了解のような物があるらしい。それは”身体の強化”の異能者は受験をしても必ず落ちてしまうという事だ。

その話を聞き、それとなく成瀬に調べて貰ったが、その異能を持っている受験者が必ず落ちているわけではないらしい。だが、受かる人数としてはやはり戦闘に向いている異能を所持している受験者の方が多いのが実情のようだ。

 先ほどの学生のやり取りを聞き、居たたまれない気持ちになりアキトはもう魔戦学科の試験には興味を失い、その場を後にした。



「成瀬か、こちらの方は終わったから今から戻る。何か報告はあるかな?」

『お疲れ様です、()()()()。特に大きな報告はありませんが、どうやら学園島駅でレベルⅠが発生している様子です』

「ん、レベルⅠ……ゾンビか。それなら常駐しているハンターや軍で対処するかな」

『そうですね――いや、少々お待ち下さい。何か妙です』

「妙? 何かあったのか」

『レベルⅠが発生したため現在学園島駅の電車が停止しているのですが、レベルⅠがまだ鎮圧されていません』


 レベルⅠのゾンビははっきり言えば対処は非常に容易だ。

なぜなら死者であるゾンビは魔力量が生きている生物に比べ圧倒的に低く、銃などでも十分に対処が可能だからだ。そのため、通常レベルⅠは発生次第、すぐに鎮圧されるケースの方が圧倒的に多いのだ。


「こういう時、以前の日本と違って銃の携帯が許可されているのは良いことなのか、何なのか。妙な気分だね」


 そういって念のためアキトは鞄の中からハンドガンを取り出した。

今の日本は銃の携帯が許可されている。もちろん、国から許可が出た人物のみ所持の許可が得られるのだが、比較的安易な試験で許可書を得る事は出来る。

以前なら考えられなかったが、今の銃は殺傷能力が低い武器のため、銃が原因で起きる傷害事件などは殆ど発生しないからだ。


「学園島駅のどの辺かな?」

『駅の近くにあるロータリーで発生しています。近くに飲食店などもあるためすぐに分かるかと』

「そんな人が多い場所で……か」


 通常レベルⅠは人が少ない場所で発生する事が多い。

なぜなら主に日本で発生するレベルⅠの動物のゾンビが主だからだ。そのため人が多く集まる場所では小動物の死体などの管理は徹底している。例えネズミ一匹でも死体を放置していれば瞬く間にゾンビとして復活する可能性が高いからだ。

 そのため、人通りが少ない場所などにゾンビが発生する事が多いのだが、今回は人通りの多い場所でゾンビが発生している。そしてそのレベルⅠがいまだに発生したままだという。


「どのようなタイプのゾンビか分かる?」

『少々お待ち下さい。――大型犬と人型の2種類のようです』


 犬と人の形をしたゾンビ。それはそういった死体があったという事だ。

少なくとも駅前のロータリーでそうそうそんな死体があるわけがない。

つまりこれは――



()()()()()()()()()()()()()

『その可能性が高いかと思います』

「念のため、僕も近くへ行く。成瀬はもう少し情報を集めてくれないかな」

『はい、承知しました』


 ハンドガンのセーフティを外し、アキトは駅へ向かう。

問題の場所へ進んでいくと、その場所から逃げてくる多くの学生がいた。

それらをすれ違いながらアキトはさらに先へ進んでいった。

 そして学園島駅前のロータリーへ行くと、30人近いハンター達が報告にあったゾンビと戦闘行為を行っていた。恐らく学生ハンターも混じっている様子だが、その戦闘風景はアキトが予想していないものであった。


「グルアァァァア!!」


 赤い目を血走らせ口から涎を垂らしたゾンビが近くにいる人間に向かって襲い掛かっている。


「くそ、なんだこのゾンビは!?」


 その人型のゾンビと戦っているハンターは、四つん這いになり、まるで獣のように素早く移動する人型のゾンビに混乱している様子だった。まるで猿のように身軽に飛び跳ねるゾンビに翻弄されている。


「どこからゾンビが来てるんだ!? 応援はまだか!」

「電車が止まっているから時間が掛かる! とにかく一匹でも多く片付けるんだ!」


 恐らくランクの低いハンターなのだろうとアキトは考えた。

いくら異常な動きをしているゾンビであってもレベルⅡの魔物に比べればまだまだ脅威は低いとアキトは思った。だがこうも簡単に翻弄されているのは、雑魚だと思っていたゾンビが予想より強いために現場が混乱しているためだろうと思う。


「グアアアァァァッ!!」


 気配を感じ、アキトはバックステップをする。すると先ほどアキトがいた場所に人型のゾンビが上から襲ってきた。そのゾンビは四つん這いになって着地しアキトを睨んでいる。

歯をむき出しにしてうなるゾンビを見て、アキトはゾンビの頭に銃の標準を向けた。

 しかし、目の前にいたゾンビはまた跳躍し、近くの木へ登った。そのまま、近くのビルの壁に向かって飛び、壁に指を喰いこませ壁に上った状態で止まった。

 アキトは僅かに魔力を身体に流し、壁に上っているゾンビに銃を向ける。

そのゾンビは銃を向けるとまたさらに壁から跳躍しこちらに向かって襲ってきた。だが、アキトはそれを最小限の動きで避け、着地した瞬間を狙い、ゾンビの頭部に向けて銃の引き金を引く。

小気味良い音と共に、ゾンビの頭部が破裂し腐った果実のようにその肉片が飛び散る。 

 倒したゾンビの死体を念のため確認しようとアキトが近づくとさらにアキトの方へ迫ってくるゾンビの気配を感じた。腐敗臭を垂れ流しながら大型犬タイプのゾンビがこちらに向かって口を開け走って来ている。

さらにそれとは別に先ほどと同じように屋根の上から人型のゾンビが3体こちらに向かって飛びついてきた。

 アキトは襲ってきたゾンビをそれぞれすべて位置を確認しながら銃の引き金を引いていく。

魔力で強化されているアキトの動体視力であれば、この程度の魔物の動きは止まって見える。アキトは冷静に上空から迫ってくるゾンビの頭部に向けて銃を連射し、頭部を破壊した。

嗅ぎなれない硝煙の匂いを感じながら、その隙をつくようにこちらに向かってくる犬型のゾンビは大きな口を開けてこちらに噛みつこうと接近してくる。

その噛みつきを躱し、アキトは回し蹴りを入れて犬のゾンビを蹴り飛ばした。

壁に叩きつけらたゾンビの頭部に向けて同じく銃弾を放ち、ゾンビの息の根を止めた。


 アキトは魔弾を再装填(リロード)しつつ周りの様子を確認する。

思わず襲ってきたゾンビを撃退してしまったために、何人かのハンターがこちらを驚いた様子で見ていた。

恐らくどうみても普通の子供にしか見えないアキトが襲ってきたゾンビを簡単に撃退したために注目を集めてしまったのだと考えた。

(これ以上悪目立ちする前に一度引くべきか)


 周りの様子を見ると既に多くのゾンビの死体が辺りに散らばっており、そこから魔石を拾っているハンターが多くいた。どうやら追加のゾンビは来ていない様子だ。

それを確認し、アキトはそのままロータリーから離れるように移動した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。そこの君!」


 離れる際に近くにいたハンターから話しかけられたがアキトはそれを無視し、走ってその場を後にした。


「成瀬、状況は?」

『はいッ! どうやらゾンビの突発的な発生は治まった様子です』

「原因は分かるか? どうも建物の屋根伝いでこちらにゾンビが集まっていた様子だが」

『現在確認中です、また軍が援軍として学園島に向かっています」

「わかった。僕も念のため近くで待機しているよ」


 成瀬からの報告を聞き、アキトは一時近くで待機する事にした。




読んで下さってありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思って下さった方は是非下の星から評価を頂けますと嬉しいです!


また、ブックマークや感想なと頂けますと作者のモチベが上がり、毎日更新出来る活力になって参ります。

宜しくお願いします。

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