魔人石
「さて、玖珂隊長。もうすこし詳しい話を詰めていきましょうか。まず、神代魔戦養成学園には大きく分けて学科が3つあります。1つは魔戦学科、これは異能や魔術を習得を主に学んでいきます。将来ハンターや軍へ入りたい方などが多く志望する学科ですね。2つ目が一般学科、こちらは自分の異能を使いこなし生活に役立つ魔術を学ぶ学科です」
「生活に役立つような魔術もあるんですか?」
「はい、いくつかありますよ。もっとも今は魔道具の開発が進んでいるため使う方は減ってきているというのが現状ですがね」
「……なるほど」
普通にコンビニでバイトしている人もいるし、一般企業に勤めている人もいるのだ。
確かにそう考えるとそういう一般的な学科があるのは不思議ではないのかもしれない。
「でも、それなら態々そういった学園へ行かなくてもいいんじゃないですかね?」
「レベルⅠ、Ⅱはどこで起きるか分からない世の中ですからね。自衛程度の戦闘訓練は行っているのですよ」
「あぁ、確かにそうですね」
「そして最後が研究学科です。魔石などを用いた魔道具への転用、生活を豊かにする開発や戦闘に使うための魔道具などの開発を目的にしています。こちらはそのまま研究者へなる道ですね」
単純に戦う技術を学ぶだけの学園だと思っていたためにアキトはこの説明を聞いて驚いた。
「色々ありますね」
「ええ、色々力を入れている学園ですからね。さて、玖珂隊長には申し訳ないですが、一般学科の方へ入学して頂ければと思っています」
「一般学科ですか? てっきり魔戦学科へ入学するように言われるかと思っていましたが……」
「それでも良いのですが、流石に玖珂隊長に魔戦学科へ入って頂くと色々問題がありますからね。
あくまで普通の学生生活を送ってほしいというのが今回のコンセプトですからね」
「魔戦学科は何かと戦う事が多い。いくら力を抑えていたとしても玖珂隊長がそこにはいるのはまずいだろう。ただ、一点注意して欲しい事があるんだ」
皐月が神代に続いてアキトに説明を続けた。
「先ほど神代殿から説明があった通り来年の入学に妖精国ファータエールデンの王族が来るといったよね。どうもそれを狙う影があるようなんだ」
「護衛などは?」
「もちろんつけている。だが、正直不安があるというのが私の考えだ。だから学園がある時間、同じ敷地内に玖珂隊長がいるというのはこちらとしても何かあった時対応しやすいと考えている。
その場合、零番隊玖珂アキトとして出動し事態を収めて欲しいんだ。
すまないね、出来るだけ普通の学生として過ごさせて上げたかったんだが……」
「いえ、大丈夫です。何かあれば動くつもりですから頼って下さい」
「さて、一般学科は筆記テストをクリアすれば入れます。恐らく玖珂隊長なら大丈夫でしょう。
念のため落ちないように空いた時間に勉強は進めておいてください」
「了解です」
「さて、次です。玖珂隊長はこの後の予定を聞いていますね?」
アキトは神代の話を頷いて返した。
「はい、確か梓音博士の所へ行くと聞いています」
「そうです、例の魔石について玖珂隊長と共有したい事があるとの事です、どうかお気をつけて」
魔人の魔石の取り扱いについては慎重さが求められている。
現状は対魔部隊の護衛を常につけて保管している状況と聞いていた。
アキトもあの魔石の事は気になっていたために神代達との面談が終わり次第、移動する予定であったのだ。
「では、特に質問がないようでしたらこの場は解散させて頂こうと思いますがいかがですか?」
「はい、大丈夫です」
そうして会議室での話し合いは終了となった。
アキトはまた仮面を付け会議室を後にする。途中別室で待機していた成瀬と合流し、アキトはそのまま車で魔石研究所へ移動となった。
「成瀬、僕を魔石研究所へ送り届けたら今日は直帰してもらって大丈夫だ」
「よろしいのですか?」
「ああ。鴻上隊長からその後の予定を空けておくように言われてるからね」
「了解しました」
そう話しながらアキト達は対魔本部を後にし、梓音のいる研究所へ移動を開始した。
「それにしても玖珂隊長が学園へ行かれるというのは驚きました」
「成瀬。一応車の中だがここは外だ。不用意な発言は気を付けたほうがいいよ」
「ッ! そうですね、失礼しました」
「いいさ。ただここまで私の名が広まってしまったからね。少々過剰かもしれないがお互い気を付けるようにしよう」
「はい、了解です」
「そういえばまだ鴻上隊長は梓音博士の護衛をやっているのかな」
「玖珂隊長と雲林院隊長が日本に帰国したために、以前ほど厳戒態勢ではないそうです。ですが念のため東京都内からは鴻上隊長は動かないようにしていると聞いています」
「そういえば鴻上隊長にはあの術式があったか。便利だから覚えようと思ったんだが、私には複雑過ぎて断念したな」
以前、アキトのために鴻上が様々な魔術式を見せてくれていた時にあったあの術式。
転移術式は一瞬で長距離を移動できる非常に有能な術式だったが、僅かな術式の乱れでも失敗のリスクがあり、下手をすると身体がバラバラになってしまう恐れがある。
そのため、ほとんど使用者がいない術式なのだが、鴻上であれば彼自身の異能の力によって失敗などせず確実に成功させる事が出来るため、よく愛用しているという話だった。
「ぜひ魔道具として作ってほしいものだな」
「あれほどの術式を魔道具に転用するのは流石に無理かと思います」
「それもそうか。……ついたな」
成瀬の運転する車が目的の魔石研究所へ到着した。現在はこの敷地内にある別棟に例の魔石をあるらしい。車を入口の近くまで移動させアキトはその場で車から降りた。
「では行ってくる」
「はい、お気をつけて」
「ああ」
アキトは通信端末より梓音へ連絡をする。
『はーい。アキト君、お久しぶり! もしかしてもう着いた?』
「はい、どちらへ向かえば宜しいですか?」
『今どこかな?』
「研究所の入り口ですね」
『ならそのまま左手の方へまっすぐ進んでもらっていい? 新しい建物が建てられているの見えるかな』
そう言われアキトは左の方を見た。すると今いる研究所から500mほど先の所に以前にはなかった建物があった。
「あの青白い5階くらいのビルですか?」
『そう、入口で待ってるからそこまで来てもらっていいかな』
「了解です」
思ったより小柄な建物であったが、よく考えれば中国でアキトがレベルⅣを攻略してからほとんど時間が経っていないのだ。そう考えると逆によくこれほどの建物を建てたものだと感心する。
途中、なんどか研究員と思われる人とすれ違ったが、皆がアキトを見る度に驚き握手を求めて来たために目的の建物に到着するのに思ったより時間が掛かってしまった。
ビルの近くまで行くとこちらに向かって手を振っている人物がいた。
金髪の長い髪に相変わらず日本人とは思えない容姿をしている梓音だ。そしてその近くに何故か鴻上もいたためにアキトは驚きを隠せなった。
「鴻上隊長もいらっしゃってたんですか?」
「ううん。私が呼んだのよ」
「よお、アキト。有名人になったお前さんをこのまま目立つ場所にいつまでも居させると面倒が増えるからな移動するぞ。詳しい話はそこでだ」
どこかアキトをからかうように笑い鴻上はアキトの肩を叩いた。
「玖珂隊長にもここのIDは登録してほしいからブレスレットをかざして」
「分かりました」
梓音の指示に従い、入口の端末に自らのブレスレットをかざした。
機械的な音がなりアキトのブレスレットが少し淡く光る。
「これで登録出来たわ。玖珂隊長はいつでもこの場所へこれるからいつでも来てね」
「ここへ入れるのはどの程度の人までなんですか?」
「うん。基本的にここに自由に入れるのは研究に携わる一部の職員のみね。ここは研究所と違って内部の扉すべてにIDが振り分けられてて誰がどこを通ったのか分かるようになっているの。もちろんトイレに行く時だってこのブレスレットをかざして移動しなければだめよ」
「……厳重ですね」
「物が物だから流石にね」
そうしてアキトは梓音の後に続き施設の中へ入った。
内部の作りは緑色で統一されており、こまめにオートロックの扉がありそれをこまめに解除して進んでいく。
「例の魔石があるのはこの地下よ」
「地下……ですか」
「そう。何かあった場合、この場所を倒壊させれば時間稼ぎが出来るようにね」
「……よく短期間でそれだけの施設を作りましたね」
「元々この地下は魔道具の実験場として使ってたから結構頑丈に出来てるの。だから新しく作ったのはちょうど今歩いているこの地下の蓋をしているビルの方ってわけね」
同じようにブレスレットを使いエレベーターへ3人は乗り、そのまま地下へ移動する。
エレベーター内部の表記には特に何階とも書いておらず、ただ延々とエレベーター独特の重力を感じながら移動していく。
「着いたわ」
梓音の言葉と共にエレベータ―の扉が開く。
すると最低限の明かりしかない長い廊下に出た。その道をさらに進んでいく。
「最初に私が魔人の魔石を見て感じたのは恐怖だったわ」
3人の歩く靴の音を響かせながら梓音は魔石の印象を語り始めた。
「恐怖ですか?」
「そう。魔石の構成物質自体は実は普通の魔物とほぼ一緒なの。もっとも普通の魔物の魔石と違ってとても魔力の純度が高く、巨大って所は別ね」
あの日、中国ダンジョンの繭を破壊したアキトはその場にいた魔人の魔石を発見した。
繭を破壊した瞬間、既にアキトの異能によって絶命していた魔人はそのまま復活できず死亡したようで血のように赤く巨大な魔石だけを残して消えていた。
当初それも破壊しようと思ったアキトであったが、なんとかこれを梓音に見せて魔人の情報が得られないかと考えたのだ。
すぐに成瀬を通じて本部の意見を伺った所、アキトが所有する形で保管という話にまとまった。
そのためダンジョン攻略後から数時間に渡りアキトは魔石が復活する可能性があるのかを見張っていたのだ。
今その魔石は斯波の手によって日本へ持ち帰られ、現在はこの場所に保管されている状態だ。
「ほぼ一緒って所が気になる所だな」
梓音の話を聞き、鴻上がアキトも少し気になる言い回しをしていた部分について問いを投げた。
「ええ。そのほぼって所が今回、鴻上君とアキト君を呼んだ理由ね」
この場所に来てから梓音は明るい口調から一転して固い声色になっている。
そのままこのくらい場所を進みまた扉が見えてきた。
その扉は今までのものと違いかなり厳重な扉の様子だった。
「ここの開くためのIDを持っているのは現在私だけ。私が持っているこのブレスレットを奪っても私の魔力に反応した生体認証をしているからこれ自体を奪っても無駄なのね。結構厳重なのよ?」
「それだけの理由があったという事か?」
「ええ。魔人の魔石、現在は呼称”魔人石”と呼んでいるんだけど――」
そう話しながら梓音は扉へブレスレットをかざし扉を開く。
重い機械音を発しながらゆっくりと扉が開いていく。その場所はさらに広い空間になっていた。
その場所も同じくあまり明かりがないため奥まで見通すことが難しい。
しかしその中心にそれはあった。
台座の上に鎮座し不気味な赤い輝きを放つ魔人石。
そしてそれを囲むように透明なガラスのようなもので囲み、少し距離をあけてさらに様々な機械が取り囲んでいる。
「私の異能で見た所、間違いなく魔人石にはまだ魔人の魂が残っているわ」
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