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英雄の誕生

ここから2章スタートです。

「対魔物殲滅部隊、第零番隊隊長。玖珂アキト殿」

「はっ」

「この度の中国における未曽有の危機であったレベルⅣにて貴君の活躍は後世に語り継がれる程の偉業でした。その働きに対し金鵄勲章(きんしくんしょう)を贈ります」

「はっ、ありがとうございます」

「貴君は我国の誇りです。これからも我が国とそして国民のために励んで下さい」


 アキトは勲章を収められた紫色の箱を受け取り、現内閣総理大臣である犬飼刀也(いぬかいとうや)と握手をした。それに合わせて多くのフラッシュがたかれ握手を交わした二人の写真が多くの記者達によって収められた。


『これはすごい快挙ですよ、一ノ瀬さん! 3年以上に渡って攻略されなかった中国のダンジョンを彼を含めた日本の特殊部隊が出動し僅か一晩で攻略したという事です』


 そしてその様子はテレビ番組で何度も話題となっていた。



『はい、そうですね、山本さん。今回の日本人初、いえ、世界初と言っていいこの歴史的偉業を今回は専門家の方の意見を伺いながらお話を進めていきたいと思っています。では、紹介します。現在日本で活動されておりますハンター、河本泰さんです』

『どうも、河本です。今日はよろしくお願いします』

『よろしくお願いします。河本さんはランクB+という大ベテランのハンターなんですよね』

『いえいえ、俺なんてまだ世界の中ではひよっこですよ』


 そういってテレビの中で短く髪を切りそろえた大柄な男性が笑っていた。




「……成瀬。いい加減テレビを消してくれないかな」

「ええ、いいじゃないですか。玖珂隊長のお話をしてるんですよ」


 零番隊隊室でアキトと成瀬はアキトが映っているニュースを見ていた。

 この勲章授与式の様子を取り上げた番組は今どの放送局でも流している。

 アキトは何度もチャンネルを変更しようとしたのだが、成瀬の手によってそれらはすべて防がれてしまった。


『そして何を隠そうこちらの河本さんは今話題の仮面を被った貴公子、玖珂アキト隊長の中学時代の親友だったという事です。今回はその仮面の中に隠された秘密に迫っていきたいと思います』

「え? 玖珂隊長の……中学時代の親友?」

「ん……?」


 気恥しさのせいでろくに番組を観ていなかったアキトはその言葉を聞き、改めて番組を観た。


『学生時代の玖珂隊長はどのような方だったんですか?』

『そうですね、()()()()子供の頃から正義感に溢れている奴でしたね、でも結構手の早い奴で俺とも何度も喧嘩してました』

『思ったよりヤンチャな時もあったという事ですね』

『お互い思春期でしたからね』


 そう話しながら河本は懐かしそうに目を細めている。その様子を観てアキトは自らの拳を強く握り始める。


『誰もが気になっている、あの仮面ですがあれにはどういう意味があるのでしょうか。一ノ瀬さんはどう思われますか』


 そういって司会の人は一ノ瀬というタレントに話を振っている。


『噂では顔に大きな傷がありそれを隠すためと言われています。余程大きな戦いがあったのでしょう』

『正に名誉の負傷という事ですね。しかし、やはり気になるその素顔。河本さんは学生時代の写真とかお持ちではないのですか?』

『残念ながら昔神奈川で起きたレベルⅢの魔物の氾濫のせいで紛失してしまっていますね』


 そんなやり取りをアキトは睨みつけるように番組を観ていた。


「何が親友だ……この屑野郎が!」

「く、玖珂隊長! 落ち着いて下さい!」


 無意識のうちに魔力を纏っていたアキトは成瀬の声で直ぐに冷静になった。


「クソッ! 成瀬済まないが……」

「はい、そうですね……」


 そう言って成瀬はテレビを消した。


「玖珂隊長。どうされたんですか?」

「ごめん、みっともない話だから……そうだね。機会があれば話すよ」

「……分かりました。いつでもお待ちしてます」



(まさか、こんな状況であの苦い記憶を思い出すなんて……)


 心配そうにこちらを見ている成瀬の近くの椅子に座り、アキトは頭を抱えここ数日の出来事を思い出していた。




 少し時は遡る。

アキトは日本に帰国してから、その日は一旦解散となった。

流石にダンジョンを攻略し、魔人と戦った後に政治的な関りを避けるために強引に帰国したという事もあり疲労の限界に来ていたため、神代が配慮したのだ。

 そしてその翌日から対魔本部へ行ってからが大変だった。

何故か入口に集まっている記者を交わしながらビルの中へ入り、いつもの会議室へ行くまでアキトは周りから視線に耐えられなかった。同じ対魔部隊員であっても、いやだからこそアキトの今回の功績は分かるのだ。だからこそ仮面をつけた隊長に皆が興味を持っていたのだろう。


 その後、神代と綿谷、そして皐月と面会を行った。

いつもの広い会議室であったが、アキトが入室するといつも奥にいる綿谷が入口のそばにおり、アキトが入ると同時にすぐに声をかけてきた。


「玖珂君、いや玖珂隊長。今回の任務、本当によく果たしてくれた」


 そうしてアキトの手を取り固い握手を交わしながら頭を下げてきた。


「いえ、私は……」

「いいんだよ。アキト君。この部屋には我々しかいない。仮面を取ってくれて大丈夫だ」


 すぐそばにいた皐月は優しい声色でアキトにそう語りかけた。

その横にいる神代も同じく優しい顔で頷いている。


「分かりました」


 綿谷と握手を交わした後にアキトは装着していた仮面に魔力を流しそれを外した。


「さあ、掛けてくれ。今後の事も話さなければならないからね」

「はい、失礼します」


 いつになく機嫌が良さそうな綿谷に少々アキトは戸惑いながらも席に着いた。


「さて、本来であればこのまま君の活躍の話を聞きながら食事でも取りたい所ではあるのだが、私もこの後打ち合わせに行かねばならない身なのだ。時間があまり取れなくてすまないね」

「では玖珂隊長。あなたの活躍によって我々日本の立場は盤石なものへとなりました。玖珂隊長も困惑されていると思いますが、中国での活躍が日本で多く報道されていますね」

「は、はい。もっと内々で済ませる話だと思っていたので驚いています」

「そうでしょうね。ですが、今回の手柄を早めに誰の功績なのかをはっきりさせる必要があったのです。後手に回ればアメリカの方からイディオムとの共同成果とされてしまいのは目に見えています。そのために事前に準備をしていたのです」

「事前に……ですか?」

「そうです。もっとも玖珂隊長なら確実に成果を出してくれると信じておりましたので、あなた方が日本を発ってから既に準備を行っていました。とはいえ、まさか一晩で攻略してくるとは思いもしませんでしたがね」


 そういってどこか楽しそうに笑う神代にどこか恐ろしいものを感じるアキトであった。

(どこからその信頼が来ているのだろうか、恐ろしい人だな……)


「さて、玖珂隊長。今後だが、まず君に勲章が授与される予定だ。これは既に犬飼総理とも話し合いを行って決定している」

「勲章ですか?」

「そうだ。君の行った任務に対する国からの感謝を形にするという事だな。当然別途報酬も支払われる。明日には振り込まれるはずだから確認してくれ」

「玖珂隊長の行った事を内外に広めていく必要があります。正直我が国の異能者のレベルは他国に比べ高いとは言えません」

「え、そうなんですか? あまり他国の異能者を見ていませんが、それほど大きな差を感じませんでしたが……」

「アキト君。質と数の問題なんだよ」

「え? 皐月隊長のおっしゃってる意味がよく……」

「日本にいる特級異能者の数は知っているかい?」

「いえ、100人とかですか?」


 特級異能者と聞いて対魔部隊の隊長レベルの人を指していると思ったアキトはとりあえず適当な数を言ってみた。


「15人だ。うち7人は対魔に所属している隊長の事だね。因みに特級異能者とは単純に強い異能を持っているという事が条件ではない。異能を含めた戦闘能力が著しく高い異能者の事を指している。」

「15……? そんなに少ないんですか?」

「そうだね。残り8人はハンターとして活動しているが、あくまで活動拠点を日本にしているだけなんだ。だから確実に日本国内の戦力と言えるのは我ら対魔の隊長達だけとなる」

「それには理由があるのです。もちろん、人口の数で我らが後れを取っているという事も事実ですが、それ以上に特級レベルとなる異能者の多くは海外へ引き抜きをされているのですよ」

「ハンターは国へ所属しているわけではないからね。正直どこの国で活動しようと彼らの自由なんだ」


 神代と皐月の話にアキトは驚きを隠せなかった。

そして優秀な力を持ったハンター達は日本を出ていってしまうという事に少し寂しさを感じてしまう。


「だからこそ、玖珂隊長の存在は大きな意味をもちます。貴方という英雄に興味を持ちまた日本に力を貸してくれるハンター達は必ず増えてくるでしょう」

「もちろん、軍へ所属してくれるのならそれがもっとも良いのだが、ハンターだからこそ出来る事も多くあるのは事実なのだ。今後君の存在によって影響された若者たちが多く出る事を私たちは期待している」

「綿谷殿のおっしゃる通りです。そのため申し訳ないのですが、しばらくこちらの意図で玖珂隊長の事をメディアで取り上げていく形になるでしょう。それに別の目的もあります」

「別の目的ですか?」

「はい、玖珂隊長のご両親を捜索するという意味です」


 皐月のその言葉を聞き、アキトの心臓は強く鼓動した。


「残念ながらまだ見つかっておりませんが、玖珂隊長の名前でここまで大体的にメディアで取り上げれば何かしら反応があると考えています。無論――」

「生きていれば……ですよね」

「――はいそうです」

「そうですね、そういう意味もあるのであればよろしくお願いします」

「任せて下さい。もっとも偽の家族が出てくる可能性の方が高いのですがね……」

「ははは……」


 少し乾いた笑いを出しながらそうなってくると疑問に思った事があった。


「ですが、そこまでメディア露出してしまうとやはり軍務に就きにくいと思うのですが……。

そういえば、中国でもしばらく休暇と言われてましたがそれも理由ですか?」

「それについては皐月隊長から話して貰いましょう」

「はい、分かりました。アキト君。今回の休暇は私から神代殿にお願いしたんだよ」

「皐月隊長からですか?」

「うん。アキト君――」


 そう言葉を少しため皐月は少し前のめりになった。


()()()()()()()()?」

「……え? 学校ですか?」


 想像していなかった言葉にアキトは思わず変な声が出てしまった。


「そうだ。本来君は15歳。本来であれば学校へ通っている年齢だ。以前話したアキト君に託した選択の話を覚えているかな。今回君は結果を残した。本当に偉大な事だ。だからこそ、我々大人は君に何かして上げられないかと考えたんだ」

「皐月隊長の提案でしたが、私としてもよい話かと考えています。

時期的にもちょうど良いですからね。再来月の4月に私が運営している神代魔戦養成学園へ入学しませんか?」

「ですが、学生になってしまうのは色々と問題があるような……」

「大丈夫です。前に話した通り貴方にはプライベート用に別の戸籍を用意しております。その名義で学園へ入学手続きを取れればと考えています。それにあの場所は今の日本で異能、魔術、学業を学ぶには最適の場所だと自負しています。もちろん、以前話した通り対魔として活動して頂く日はお休みして頂く必要がありますが、あの学園の理事は私がしておりますのでその辺りは融通が利きますから安心して下さい」

「ですが、その場合、成瀬はどうなりますか?」

「成瀬副隊長には事前にこの件を聞きましたが、ぜひ玖珂隊長を学園へ通わせてあげて下さいとおっしゃっていましたね」


(手回しが早い。というか成瀬はそれでいいのか?)


「安心して下さい。成瀬副隊長と玖珂隊長は共に零番隊という事に変わりはありません。

玖珂隊長が学園へ通っている間は、成瀬副隊長には私の秘書をやって頂こうかと思っています」

「秘書ですか?」

「はい、おかげ様で来年度の我が校の入学希望者は例年以上なのですよ」

「……それはなぜですか?」

「玖珂隊長の活躍を見て例年以上の応募があったようです」


 それを聞きアキトは肩を落とした。


「無論、学園へ通っている間はアキト君は<零番隊隊長玖珂アキト>ではなくなる。

不用意な異能の使用は避けてもらう事にもなるし、自分の身分を明らかにしてはいけない。だがそれ以外は学生として楽しんでほしいというのが私の希望だ」

「皐月隊長の思惑とは違いますが、来年度の入学生は色々と要注意人物も多いのでそういう意味でも玖珂隊長が同じ学園へ入って頂けると助かるというのが私の考えですね」


 聞き捨てならない単語が聞こえ、アキトは目を細めた。


「要注意人物ですか?」

「はい、妖精国の双子の王族。そして何故かアメリカから留学の話も出ておりましてね」

「妖精国ファータエールデンの王族……ですか?」

「そうです。以前から日本に興味を持ってくださっていたのですが、この度入学するという事に話がまとまりました。一応、神代魔戦養成学園の在校生にも妖精種の方々はいるのでそこまで珍しくはないのですよ」

「いや、王族って時点で珍しいと思うのですが……」

「確かにそうですね」


 そうにこやかな顔をしている神代に何か騙されているような気がしてくるアキトであった。


「アメリカの留学というのは?」

「例の魔人の魔石研究についてアメリカの学者を招く形になります。そのついでに折角だから交流を深めましょうという事らしいですね」

「実際の所は?」

「恐らく玖珂隊長に接近する事が目的だと考えています」

「それ僕が学園へ通っていいんですか?」

「大丈夫ですよ。幸い仮面のおかげで玖珂隊長の人相は不明。年齢は35歳と公表しておりますのでまさか15歳の同じ学園の生徒に本人がいるとは思わないでしょう。それに見つかった所で何が出来るというわけでもありませんからね」


 その話を聞いてアキトは思わず大きくため息を吐いてしまった。


「それでアキト君。どうだい? 色々状況はあるだろうが通ってみないか?」


 皐月の顔を見て、アキトは今までの話をよく考えた。

(神代殿はともかく皐月隊長の善意は無駄にしたくない……か)


「はい、せっかくですから通わせて頂きます」


 そう心の中で決心を固めそうアキトは答えた。







 


 

読んで下さってありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思って下さった方は是非下の星から評価を頂けますと嬉しいです!


また、ブックマークや感想など頂けますと作者のモチベが上がり、毎日更新出来る活力になって参ります。

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] テンプレをこなしつつテンプレをハズす? 失敗したら大量の読者を失いますね。 [一言] かつての三大エターの一つですからね。 警戒しつつ見守ります。
[一言] 実年齢からして今さら学校に行かなくていいし、防衛大学みたいなもんはないのか。ハンターのバイトでもいい。
[一言] あちゃー、学園か。王道だから入れたいのは分かるけど必要ないんじゃないかなー。隊長として学園の生徒を相手にするとかならまだ分かるんだけども。
2021/01/09 17:02 退会済み
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